【山崎主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_201608
それゆえに 山崎 聰
尺蠖の寸余はみだすこころざし
植田から湧き起りしは反戦歌
対岸がもっともさびし青時雨
暗い水のぞいて簗の二三人
はつなつの不承不承のかすり傷
数人無口緑蔭を帰るとき
父の日の父と活断層の真上
栄光なし青田ひろがり三輪車
この先はいかようにもと山椒魚
しかしあるいはそれゆえに重信忌
【山崎主宰の選】
<火炎集>響焔2016年5月号より
玲瓏の冬満月と魂ひとつ 山口 彩子
球体の一角はがれ百合鷗 小林 一子
二月の海大魚の骨はすでに無く 沖 みゆき
寒空や飼い馴らされた販売機 紀の﨑 茜
どの家も寒さの残る東京都 関 花子
たましい還る寒明けの隅田川 河村 芳子
寒の月五体まざまざと透明 東 公子
植木屋の一気にこぼす冬日ざし 君塚 惠子
冬薔薇正面にある発光体 鈴木 瑩子
藪椿人を恋して咲きにけり 土屋 光子
<白灯対談より>
春の沖浚渫船二隻黒く 松村 五月
人間に倦きた順から鳥帰る 多田せり奈
その中に入ればむらさき花菖蒲 飯田 洋子
風景の黄昏れてきて鯉のぼり 土田美穂子
屈託や亀の背中に余花の雨 佐藤由里枝
散るときもまた無口なり白いばら 笹尾 京子
蟇よく見ておけよ水の色 相田 勝子
五月くる水色黄色風の中 志鎌 史
迷宮に似た地下の街こどもの日 蓮尾 碩才
そらをとぶあの大空の名は五月 大竹 妙子
みちのくは矢車草の淡き青 酒井眞知子
諦めてからの青空朴の花 中野 充子
いちめんにすずらんあふれ父の山 下津 加菜
かくれんぼ負けては泣いて夕薄暑 笹本 陽子
ふるさとへ続く大空青田風 森田 成子
とおくきて齟齬ふたつみつ桜の実 川口 史江
家じゅうに風を通して憲法の日 江口 ユキ
五月雨猫と教師のものがたり 辻 哲子
【山崎主宰の編集後記】
俳句はもちろん何をどう詠ってもよい詩だが、とは云っても、俳句を読んでいて、何もこんなことをわざわざ俳句で云わなくても、と思うことがときどきある。それは多分、俳句が詩であること、文芸であることを忘れているからではないか。日常の些細な経験が出発点になっているのはわかるが、それをどうしたら詩の次元に高められるか、つまり現象でなく本質を云う、そのことにほんのすこし思いを至すだけで、その人の俳句はずいぶんと変わってくると思うのだが。 (Y)
コメントを残す