響焰俳句会

ふたりごころ

響焔誌より
山崎最高顧問の句集からの松村主宰による抄出、米田名誉主宰の作品、選評、ならびに松村主宰の作品、選評、などを掲載しています。

響焰誌より

響焰2025年月7号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2507

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

桃実る昼は灯ともるごとく寝る
ぶどう掌に余り一雷後の青空
陽に向ける銃口虻の笑い声
翅たたむことなし山蛾は風のいろ
朴散るや頭上げても夜の馬
厨より山頂がみえ星逢う夜
七月や風のまなこの宙返り
意志つねにもち落日の蟹の甲
蟹の脚蒼く裂きいくさある真昼
北へ発ち七月の川にある匂い


松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202507

青 ぶ ど う      米田 規子

川べりの小さな画廊アマリリス
仏蘭西や麦秋をゆく白い車
少女期の翳を濃くして青ぶどう
ぽかとハプニング万緑のど真ん中
窓硝子みどりに染まりハーブティ
剣山にジャーマンアイリスどっと鬱
夏の雲一編の詩を持ち帰る
酢漿の花日に日に増えて星の国
祖母として何ができよう遠花火
北陸の魚きときと夏近し

 

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202507

幸 福 な 春      松村 五月

純粋にさくら色なる夜の桜
言葉より白詰草の冠を
捨てるものあり幸福な春であり
無色でも七色でもなく春の虹
恋か否さくらさくらと散りぬるを
人声の届く距離にて山桜
飛花落花智恵子の空を見にゆかん
明るくて四月の雨に濡れようか
群青の海に憧れアネモネは
みどり児の笑い声とは春の虹

 

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年4月号より

梟が森を欲しがる白昼夢         石倉 夏生
冬紅葉とまどう松のありにけり      渡辺  澄
着ぶくれて産土へ曳く旅鞄        加藤千恵子
冬の庭余力はあると言うべきか      蓮尾 碩才
小寒や消えてゆくなり獣道        岩佐  久
恐竜が生まれますよう寒卵        秋山ひろ子
春隣子が子に読んで「ぐりとぐら」    相田 勝子
頬杖を解けば春立つ思いあり       吉本のぶこ
あばあちゃん半分になり小春かな     大竹 妙子
たったひとつの太陽ガザの子に初日    藤巻 基子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年4月号より

道化師に鳩集い来る開戦日        和田 浩一
初春や笑ふほかなく爆笑す        石倉 夏生
傷口のそのまま残る返り花        渡辺  澄
片隅の平和ついばむ寒雀         加藤千恵子
ジャズ流れ一口大の冬林檎        河村 芳子
嘘をつく時の鳴き方寒鴉         北島 洋子
林檎割る純心といえ非対照        鈴木 瑩子
山茶花の数だけ泣いて雨あがる      中野 充子
窓際に長方形の寒ありぬ         浅野 浩利
一月のしろがね色の富士の国       増澤由紀子

 

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


満ちていく音なき雨と夜半の春      加藤  筍
ひとりじめしてもさみしき花明り     増田 三桃
少年は芽吹きの中で透き通り       中野 朱夏
木蓮の花芽膨らみ風に色         原  啓子
難しきスマホの操作猫の恋        櫻田 弘美
産土を離れる友に花の雨         伴  恵子
春灯故郷の飯屋三代目          朝日 さき
見るたびに色のでこぼこチューリップ   鷹取かんな
春雨やことりことりと煮て一人      原田 峯子
初桜未踏の扉強く押す          長谷川レイ子
行く春の牛舎に赤き靴一つ        山田 一郎
うす甘きガレのランプや春の宵      辻  哲子
連翹の塊として雨の中          野崎 幾代
心して歩いてみても躓く春は       岩井 糸子

【白灯対談の一部】

 満ちていく音なき雨と夜半の春      加藤  筍
 春の夜のひとときを思い出してほしい。咲き始めた花々の微かな香り。湿り気を帯びた暖かい空気。厳しかった冬が終わり、身体もほっとほぐれていくようだ。
 掲句はそんな下五の季語〝夜半の春〟への導入が巧みだ。筍さんは、俳人に必要な捉え方を既にわかっている。詩情をもって物事を見ているのだと思う。

響焰2025年月6号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2506

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

男光りいてあじさいの紺ばかり
鮑うごく桜見てきしにんげんに
とかげの眼暗澹とあり日曜日
明日ありて燕返しに銀の海
朝がきて踊子草を跳ぶ別れ
坂の道このごろ曇り八重桜
生きており五月の椎の暗い森
夜の川を棺がとおり梨の花
花朴のころ音消えて山と川
山ふくれ死は六月の風の中


松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202506

桜  餅      米田 規子

干して畳んで晩春のふくらんで
春菊やこの淋しさは何処から
詩を離れひと日降りつぐ花の雨
桜餅いくつになっても華やいで
散るさくらピアノの音色艶めいて
姉の背を越す勢いの春祭
筍の土の湿りごと抱き帰る
鬱々と目覚めいっせいに木の芽風
夏はじめ筋肉足りない左腕
ゴールデンウイーク定位置に塩・さとう

 

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202506

重  心      松村 五月

春の雪ははの残せしことばとも
蜂蜜の金色春の重心か
揺蕩いて桜咲くまでもうすこし
日本を凝縮すれば桜餅
桜待つ白線よりも内側で
靴音のやわらかくなり雨水かな
三寒四温旅人のひとりなり
シマウマの縞を滲ませ春の雨
人の世を狭し疎しと燕かな
かの地にも三色すみれ咲くだろう

 

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年3月号より

落葉が香り父の忌の己が影        和田 浩一
声をかけられ綿虫を見失ふ        石倉 夏生
秋深む仕事帰りの母の声         栗原 節子
馬肉屋の後に深川酉の市         蓮尾 碩才
とうきょうが俄かに遠く冬の星      河村 芳子
冬りんご太陽よりも明るくて       秋山ひろ子
民生委員まず冬バラをほめてより     佐々木輝美
林檎の真っ赤ほがらかな空があり     鈴木 瑩子
時間が足りぬ十二月の青空        廣川やよい
短日をはみ出している子等の足      加賀谷秀男

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年3月号より

落葉が香り父の忌の己が影        和田 浩一
白鳥に重さありけり迫りくる       渡辺  澄
極月の途方にくれて駅ピアノ       大見 充子
恋とも云えぬ青きもの冬銀河       波多野真代
空の途中山の途中のからすうり      秋山ひろ子
風吹いて街の濃くなる十一月       小林多恵子
寒林の奥はみずみずしき失意       吉本のぶこ
短日をはみ出している子等の足      加賀谷秀男
足音の残す足あと霧の街         池谷 照子
シリウスの匂いをつけて犬もどる     牧野 良子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


歩くほど夕日に近く春の川        原田 峯子
今生きてよき人に会う春の昼       野崎 幾代
満開の梅あらわれて雨上がる       伴  恵子
おひさまの手のなりほうへ黄水仙     増田 三桃
置かれたる石のぬくもり花時計      長谷川レイ子
幼子の頬のあめ玉春はじめ        原  啓子
厨に小豆建国記念の日          鷹取かんな
春夕焼フォークソングの似合う街     朝日 さき
ゆっくりと加齢白椿まぶしくて      櫻田 弘美
傾きし巣箱の中に小鳥来る        山田 一郎
春よ来いミャンマーの少年兵に      辻  哲子
この春の街の灯りを消した人       岩井 糸子

【白灯対談の一部】

 歩くほど夕日に近く春の川        原田 峯子
 春の陽気に誘われて、川のほとりを歩いているのだろうか。暑くもなく寒くもない。気持ちのいい夕間暮れ。正面にはきれいな夕日。歩けば歩くほどその夕日に近くなるようだと感じた。
「近づく」としないで「近く」と言い切った。その独断がより詩情を醸し出している。失敗を恐れずに思い切った発想が詩情に繋がる

響焰2025年月5号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2505

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

村灯り千の花菜にくるしあわせ
太陽の沼に浮き泰山木の花
酒蒸しの肉食う街に桜咲き
兵生きて海の円さへ散るさくら
桃のように桜咲き坂の上の墓
桜おわり対岸の灯に赤ン坊
愛おわる火薬庫の前桃咲いて
島山のいのちを灯し桃さくら
薄目していちにちけむる雪柳
桃食べて風の生毛の今日終る


松村 五月 抄出

 

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202505

春 の 森      米田 規子

待つことたのし八重椿ぱっちりと
よろこびのふくらむときを囀れり
葱坊主こわばりやすき肩と首
切株の苔むしている春の雲
春の森から長身の老紳士
逢瀬のごと古木にひらく梅の花
ひそやかに菫がうたう縁切寺
北鎌倉の小さな駅舎春三月
子らの声散らばって消え春夕焼
じゅうぶんに花のいのちをさくら色

 

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202505

余 寒      松村 五月

冬の陽を賜りことば惜しみおり
あたたかき子宮をもちて雪女郎
空低く冬の帽子が赤過ぎる
あかときの忘れられたる桜貝
オムレツに塩と胡椒と囀と
桜鯛泪のあとのありにけり
水鳥の低く飛びおり多喜二の忌
人はみな大木の下春隣
新宿のコインロッカー余寒かな
春二番父が泣いたり笑ったり

 

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年2月号より

結局は不埒を重ね十二月         石倉 夏生
影が重なる直角の街晩秋         栗原 節子
青山通り笑いつつ冬来たる        加藤千恵子
冬麗の橋を渡りて赤い鈴         小川トシ子
忘れ物のように我いて秋の風       秋山ひろ子
秋晴や三国峠を越えて海         楡井 正隆
このいまを鳴いておかねばちちろ虫    大森 麗子
百歳の一汁一菜桃の花          吉本のぶこ
残響は銀のつぶなり冬の滝        菊地 久子
ぞうさんの体重測定豊の秋        増澤由紀子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年2月号より

朝の秋思は曇る鏡の中の海        石倉 夏生
水音は母の音なり今朝の秋        中村 克子
選択肢あまたのあれど冬の金魚      大見 充子
紅葉かつ散る屈託のなき彼彼女      河津 智子
晩秋を映し薄墨色の川          佐々木輝美
七十路やリンゴ固きを愛したもう     山口美恵子
ほがらかな日暮甘藷の蒸しあがる     鈴木 瑩子
冬薔薇のトゲ秘密のごとく痛し      川口 史江
秋風に眼裏ありぬおとうとよ       吉本のぶこ
林檎は輪切りたまご半熟元気な日     廣川やよい

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


春浅し川辺に浮かぶ紙風船        山田 一郎
北窓に里の記憶の隙間風         長谷川レイ子
からからと豆炒る音や春隣        原  啓子
逃水の中をくるくる三輪車        鷹取かんな
寒椿ひとひらごとに友のこと       伴  恵子
竹の秋荷風愛した街に立ち        原田 峯子
退屈な長椅子ずらりとシクラメン     辻  哲子
初鏡手児奈の如くありし頃        朝日 さき
初雪や母の笑顔のさみしさに       櫻田 弘美
ファインダー覗けば揺れる冬満月     岩井 糸子

【白灯対談の一部】

 春浅し川辺に浮かぶ紙風船       山田 一郎
 川辺とは川のほとりのこと。掲句は浮かぶと言っているので、川の水が微かに揺蕩っているところだろうか。忘れられたかのように浮かぶ紙風船。さっきまで誰かが遊んでいたのだろう。紙風船だからそんな想像もできる。
 寂しさだけではない明るさも感じるのは季語の〝春浅し〟によるところが大きい。春先の微妙な風情が感じられる佳句である。

響焰2025年月4号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2504

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より
鮑食うくたくたくたと春ネオン
愛の形の壺光りだし桜吹雪
胃の形して流木のあたたかさ
一人でいてすかんぽの海明るすぎ
恋雀そのほかも照り花菜の村
葬送はうすむらさきの桜草
めつむれば海見えてくる単線区
繭煮られ終着駅の昼白し
曇り日の花朴は白夜も見え
死がありて紙一枚の朴の花

松村 五月 抄出

 

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202504

春セーター      米田 規子

草萌のなまあたたかき人の群
春はまだ遠くてピアノ黒光り
冬すみれ初老と老人支え合い
ほつほつと息づき春の土ほろほろ
生き方を考えなおし梅三分
山笑う薬に支配される日々
まなうらに燃える此の世の春入日
晩節やひと山ふた山超えて春
再会のふわっと軽い春セーター
十七音の世界の未来ミモザ咲く

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202504

水 の 星      松村 五月

一月をどろりと眠り此岸かな
水底のじいんじいんとお元日
あきらめるための花びら餅ください
満開の白山茶花やあたたかし
図書館のまあるい時間冬の雨
新しい年かろうじて水の星
七草の色になりたる家族かな
人間に踏まれるまでを霜柱
深々と冬の椅子あり純喫茶
この世よりたしかなるもの冬の薔薇

 

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年1月号より

満月を電話の中で分かち合ふ       石倉 夏生
大根に味しみるまで母とあり       渡辺  澄
人声も山も近づく今朝の秋        中村 克子
檸檬放りてユーミンは遠き日か      松村 五月
実山椒明日のことは言わずおく      和田 璋子
わっとあつまりわっと秋めくメトロ    河津 智子
ひらがなもかたかなもなく運動会     石井 和子
藤の実の長さをゆらす鳥の声       石谷かずよ
江東は水彩の町鳥渡る          鹿兒嶋俊之
天の川プラットホームは最上階      牧野 良子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年1月号より

熱帯夜コップの水に地震残り       和田 浩一
あかい服着てもさみしい秋の雲      栗原 節子
人声も山も近づく今朝の秋        中村 克子
忘れものしてきたようないわし雲     和田 璋子
金木犀やわらかな夜の入口に       戸田冨美子
東京は異国のごとく二十日月       佐々木輝美
みちのくの一人に余る曼珠沙華      小林マリ子
極月の燃えしぶりたる紙に色       吉本のぶこ
理不尽な漆黒の夜のしぐれかな      大竹 妙子
大空はきのうの花火より生まれ      牧野 良子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>

風花やこんなところに出入口       原田 峯子
霜柱踏んで令和の音がする        伴  恵子
白い街赤い表紙の日記買う        原  啓子
一月や飛行機雲の右上がり        長谷川レイ子
メモ紙を少し大きく年用意        鷹取かんな
一月や見知らぬ駅に降り立ちて      朝日 さき
冬蝶の明日旅路はまだ続く        辻  哲子
初明り命の重さ受け止めて        野崎 幾代
元旦の袋小路に犬と猫          山田 一郎
帰り花ほほえみかける母の顔       櫻田 弘美

 

 

【白灯対談の一部】

 風花やこんなところに出入口       原田 峯子
 晴れた日に雪が風に舞うようにちらちら降ることを、花に例えて風花という。美しい日本の言葉だ。風花はふと気付く。作者も歩いていて目の前を舞う雪に立ち止まったのだろう。すると思いもしない何かの出入口を見つけた。そんな一瞬の軽い驚きを詩情のある句にしている。
 風花というしっとりした季語に出入り口<という言葉をぶつけて現代的な風花の句に仕上げている。/span>

響焰2025年月3号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2503

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より
雪夜道男女並んでまた離る
母がいる雪国星に言葉とどく
まなうらに母あり桜散る海があり
雛の日あたたかく足重ねおり
一年生光るとき朝のおたまじゃくし
音楽やあたたかき夜の失語症
深山桜ふりむきて絵のごとき顔
朴咲いて夜が分厚くなる訣
笑いたし今日桜散り艦が着き
水よりも赤き一日かじか殖え
(今号から季節ごとに抄出)
松村 五月 抄出

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202503

寒  卵      米田 規子

抜け道の臘梅香る直売所
山笑う削ることばと足す言葉
味噌汁にポンと滋養の寒卵
平常心どこかに忘れ赤いマフラー
電子辞書閉じて開いて冬深む
しろじろと枯野の先の大病院
待春の手紙にそっと胸の内
坂道をすいすい漕いで春隣
春来る三枚重ねのパンケーキ
三寒四温ペン胼胝のいとおしく

 

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2024年12月号より

戦争と隣合せに秋うらら         石倉 夏生
良夜かなひとり歩きの一行詩       加藤千恵子
天高し前後左右に老いてゆく       中村 克子
十月の光の中に父のいて         松村 五月
ただいまと呟くだけの秋夕べ       河村 芳子
墜ちてきそうな満月へピアノ弾く     波多野真代
深く考えなくていい月夜のうさぎ     小川トシ子
夕焼けに染まる一村牛の声        戸田冨美子
晩年やレモンの香りひとしずく      大森 麗子
まっとうな曲がり角なり九月尽      大竹 妙子

【米田規子選】

<白灯対談より>

人去りし庭に咲きつぐ花八手       中野 朱夏
つり皮のおもわぬ高さ年の暮       原田 峯子
銀鼠の帯をきりりと月冴ゆる       原  啓子
賀状書く未来くっきり芋版画       長谷川レイ子
惜しみなき喝采風の散紅葉        辻  哲子
今日こそは開かんとする冬薔薇      鷹取かんな
雑踏の東京に来て初雪や         朝日 さき
冬の雲流れる先は母の許         伴  恵子
冬帽子深めにかぶり二人旅        櫻田 弘美
日向ぼこ心豊かに発酵す         野崎 幾代
故郷は遥か向こうに冬苺         山田 一郎
穏やかな友と語らいクリスマス      岩井 糸子

 

 

【白灯対談の一部】

 人去りし庭に咲きつぐ花八手      中野 朱夏
 〝花八手〟はさまざまなシーンで違った表情を見せてくれる不思議な花だと思う。明るい花でもあり、またやや暗い花とも言える。掲句の〝花八手〟はその両面を合わせ持っているようだ。一方で〝人去りし庭〟とは誰も住んでいない空家の庭なので、音も無くひっそりとしているだろう。それでも晴天の日などには、生き生きと元気に咲いている〝花八手〟を見ることができるのだ。そんなごくありふれた風景を上手く一句にまとめた。眼目は〝咲きつぐ〟という措辞。作者が目に止めた〝花八手〟はいろいろなことを語りかけた。

(さらに…)

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