響焰俳句会

ふたりごころ

響焔誌より
山崎最高顧問の句集からの松村主宰による抄出、米田名誉主宰の作品、選評、ならびに松村主宰の作品、選評、などを掲載しています。

響焰誌より

響焰2025年11月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2511

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

男生きてみずうみは夜の霧の底
マッチ燃え尽き海上を霧のこえ
時雨きて馬に岬の艶もどる
山頂で別れて月見草きいろ
忘恩やポケットにある固き栗
牛が見て十一月の風の背後
湯の底に陽が射している山葡萄
別離以後夜も林に霧降れり
しあわせという真昼間の谷紅葉
雨が降りきのう菊見しこと忘る
松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202511

柿 に 色      米田 規子

秋の声なにを載せよう朝の皿
猫寝そべり風の日の花カンナ
意外にも服を誉められ秋なすび
忽然と影を亡くして赤とんぼ
いつのまにかじいじとばあば秋桜
鰯雲きょうはきれいな心電図
つる草の夢見る高さ秋の風
衣被年を重ねて良きことも
白粉花睡魔に負けぬ午後三時
家普請ようやく終り柿に色

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202511

うしろから      松村 五月

初恋や白玉のどを通るとき
紫の百のひと色今朝の秋
祭果てひとりひとりとうしろから
八月が来るたび聞こえ波の音
日本を夏が占領しておりぬ
泣くな負けるな八月の大人たち
真剣に小石を投げる夏休
咲いたから散るまでのこと酔芙蓉
たそがれを待ちて横浜夏柳
横浜や炎昼なれば海を見て
生命線太き八月生まれなり

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年8月号より

母を待つ子へ園庭の花吹雪        和田 浩一
初夏へ閂はずす山の寺          加藤千恵子
グッバイと違うさよなら夏つばめ     大見 充子
書を捨てて春満月のふところに      蓮尾 碩才
春茜ひとりつぶやくありがとう      河村 芳子
樟脳の冷たい匂い夕桜          秋山ひろ子
反戦歌耳の奥から昭和の日        佐々木輝美
せせらぎを覗けばうごき桜桃忌      鈴木 瑩子
クリスマスローズ明日は俯くな      金子 良子
北斎の波音聞こゆ立夏かな        横田恵美子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年8月号より

峡に鐘こだまし桜餅ふたつ        和田 浩一
戦場に遠くて近き母の日よ        渡辺  澄
初夏へ閂はずす山の寺          加藤千恵子
グッバイと違うさよなら夏つばめ     大見 充子
水音のふるさとめいて春の終り      秋山ひろ子
薫風のその薫風のまた明日        河津 智子
閂の横木はずされ五月雨るる       鈴木 瑩子
揚羽蝶一頭黒き火の色で         吉本のぶこ
春愁の角度の坂道を下る         石谷かずよ
新緑の葉ずれに生まるる言葉たち     菊地 久子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


てんと虫だんだん小さくなっていく    野崎 幾代
北行きの七番線より秋の蝶        朝日 さき
風鈴の音たどりつく日陰かな       増田 三桃
夕立来るかブルーベリーの甘酸っぱく   原  啓子
追伸の終らぬ長さ桜桃忌         中野 朱夏
銀やんま薄いページの夕刊紙       長谷川レイ子
いつの世も自分を生きて百日紅      鷹取かんな
地下出口はちみつ色の晩夏光       原田 峯子
花芙蓉落ちてあの日の友のこと      伴  恵子
指先に止まるとんぼの重さかな      山田 一郎
月下美人咲くを待つ夜ハイボール     辻  哲子
森のおく悲しくひびく蟬の声       櫻田 弘美

  

 

【白灯対談の一部】

 てんと虫だんだん小さくなっていく    野崎 幾代
 子どもの頃は、天道虫も蝸牛も当たり前にいて、格好のいたずら相手だった。今思うとかわいそうなことしたなと思うが、それほど季節になれば必ずどこにでもいる虫だった。
 ところが現在、探しても見つからない。掲句、中七下五はそんなてんと虫のことを言っているのだろうけど、私たち人間そのもののように思えてくる。
 〝だんだん小さくなっていく〟とは、なんと悲しく恐ろしいことだろう。

響焰2025年10月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2510

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

別れとは花束で消す夜の霧
村灯り墓標のうしろ霧笛溜まる
月傾ぎプールサイドに猫あつまる
母と子に柿熟れる山の祭あと
ぶな山のぶな冷え純潔に育つ雲
耳濡れており月の夜のランナーら
山ぶどう北風吹けば山のこえ
マッチ燃えあとのくらさの月の面
訣れあり満月橋にかさなりて
霧の村ゆうべむらさきの馬がおり
松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202510

百 日 紅      米田 規子

海風や動く歩道の先は秋
新涼の音かひさびさ窓の雨
秋立ちぬ珈琲豆を挽いてより
幾重にも白波立ちて秋はじめ
坂道はエクササイズと青蜜柑
はつあきやハープの調べアルペッジョ
無花果を裂く犇きはそのなかに
おんなたち老いてかしまし百日紅
ひぐらしや透明になりゆくわたし
秋暑しにんにく生姜微塵切り

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202510

病  葉      松村 五月

初恋や白玉のどを通るとき
つらつらとたどっていけば夏の雲
七月の乙女ら首を長くして
病葉をあつめる愛の終らぬよう
行き先は夏の大空二人乗り
これからのことはひとまず西瓜切る
風を聴く耳持ち夏のど真ん中
果てしなき夜のはじまり黒葡萄
かなかなかな心のこりのあるごとく
習志野を染める夕焼け父老いる

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年7月号より

足細きグラスに春愁をそそぐ       石倉 夏生
おとうとが隠れておりぬ花の昼      栗原 節子
母の日や一粒の米見ておれば       渡辺  澄
駆け出せば春風おぶのうございます    秋山ひろ子
春兆すゆらりと沈む白い皿        戸田冨美子
すみれ咲く目的地まで橋ひとつ      楡井 正隆
うっすらと血のにじみたる桜かな     石谷かずよ
万愚節椅子のぐらつく喫茶店       鹿兒嶋俊之
さみしさやされどくれない桜貝      増澤由紀子
妻恋坂春満月がのぼり来る        牧野 良子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年7月号より

おとうとが隠れておりぬ花の昼      栗原 節子
桜東風身の内にある急な坂        中村 克子
ふくよかな風を休めて蝌蚪の紐      小川トシ子
だまし舟の紛れていそう花筏       北島 洋子
チューリップ数え直してチューリップ   相田 勝子
すみれ咲く目的地まで橋ひとつ      楡井 正隆
ぽとり一滴おぼろ夜の追伸に       川口 史江
死者の数ともあおぞらの桃の花      吉本のぶこ
止まるたび少し崩れて花筏        浅野 浩利
さみしさやされどくれない桜貝      増澤由紀子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


スローモーションで瓶が落ち熱帯夜    原  啓子
山開きひとりの身ではあるけれど     原田 峯子
純白の紫陽花の呼ぶ青い雨        伴  恵子
炎昼やいつもの道で躓いて        増田 三桃
オニヤンマ父のつかいし古キセル     長谷川レイ子
雨よ雨あめをこがれて七変化       鷹取かんな
白南風やドレスコードは燕尾服      中野 朱夏
蟻の列入口出口迷い道          野崎 幾代
三度目の恋は年下花ダチュラ       朝日 さき
七夕や母のぬくもりもう一度       櫻田 弘美
梅雨冷やベンチに置かれ傘一つ      山田 一郎
みんないて六種のアイス誕生日      辻  哲子

 

【白灯対談の一部】

 スローモーションで瓶が落ち熱帯夜    原  啓子
 夕食の後片付けで瓶を落とした時にスローモーションのようにゆっくり感じた、という体験が句の発端と作者。そういう瞬間は確かにある。ただそれを句として成立させるためには季語の選択が大切になる。掲句は〝熱帯夜〟で成功した。なんとも耐え難い暑さの夜、空気も密度があり、重力も弱く、そして自分の感覚も鈍るよう。
 ここ数年の異常な暑さの夜、参ってしまうけど、そんなところにも俳句の種をみつける目が啓子さんにはあった。

響焰2025年9月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2509

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

ライターに霧海紅豆花おわる
鹿の眼の四十はじまる没陽の中
コーヒールンバ虹の下から犬連れて
腹這いて紺碧の死をみつめいる
ハイビスカス鳥の眼で逢う恋人たち
灯ともりてなお暗がりの海紅豆
訣れあり昼をよごれて海紅豆
八月九日雨が降り夜も降る
川曲るところ翳りて蛇の肌
墓も見ゆ晩夏は山の音消えて
      松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202509

アガパンサス      米田 規子

南天の花の勢い雨と風
晩節に夢の増えゆく夏の雲
目が笑いアガパンサスの好きな人
ふるさとの風の匂いや青山河
今ふうの墓標に変わり蟬の穴
体内のくらがりを抜け蓮の花
バッタ跳ぶむずかしいこと言わずとも
やっかいな自律神経風死せり
サン・サーンスの「白鳥」を弾き秋隣
ちちの背に声をかけたし秋の浜

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202509

夏を待つ      松村 五月

夏帽子波音を聴くそのために
五月雨に暮れるいちにち貝眠る
雨ならば頬杖をつき桜桃忌
昭和式パフェのてっぺんさくらんぼ
長靴にリズム生まれる青梅雨や
空の色地の色映しシャボン玉
輪郭は夕空にあり酔芙蓉
小鳥抱くごと白桃をいただきぬ
何か云うまろき父の背夏を待つ
細る父蛍袋の白さほど

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年6月号より

はるのゆき渡良瀬川の闇を消す      石倉 夏生
春を待つ会えない人を待ったから     渡辺  澄
雑巾の縫い目に妣や月おぼろ       大見 充子
春の雷野菜断面いとおかし        河村 芳子
雪女らしいとありし備考欄        北島 洋子
雑踏の黒で始まる春愁          戸田冨美子
ひらがなのように桃咲く老いたれば    吉本のぶこ
北国に春颯爽とハイヒール        廣川やよい
永き日を舟漕ぐように過しおり      淺野 浩利
昭和百年さりながら花吹雪        齋藤 重明

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年6月号より

春を待つ会えない人を待ったから     渡辺  澄
濡れている桜月夜のすべり台       加藤千恵子
人もまた影の一つに冬木立        中村 克子
雪女らしいとありし備考欄        北島 洋子
てのひらに母いた家に春の雪       秋山ひろ子
雑踏の黒で始まる春愁          戸田冨美子
わが雛買われてゆき被爆せり       相田 勝子
一本は正午のひざし夾竹桃        吉本のぶこ
黄砂来る広げたままの歎異抄       菊地 久子
囀や角まるくなる愛読書         金子 良子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


チェンバロの調べのように濃紫陽花    増田 三桃
もう一度起ちあがれるか青嵐       中野 朱夏
父の日や休むことなく牛が呼ぶ      鷹取かんな
時の日や日記を埋める二三行       原  啓子
青田風その先をゆく里心         長谷川レイ子
木漏れ日に翅を透かして夏の蝶      野崎 幾代
椅子を出すつばめはすいと曇天に     原田 峯子
天空へはみ出しそうな青田かな      山田 一郎
青梅は海より青く清らなり        櫻田 弘美
老夫婦支え合うみち夏木立        伴  恵子
紫陽花のうしろに迫る齢かな       辻  哲子
乗りかえの駅から見える夏の海      朝日 さき
【8月号追加分】
風に聴く揃いのシャツの労働歌      長谷川レイ子

【白灯対談の一部】

 チェンバロの調べのように濃紫陽花    増田 三桃
 チェンバロとは、古い鍵盤楽器でピアノの祖とも言われている、とはネットの情報。映画「アマデウス」で神聖ローマ帝国の皇帝が弾いていた印象がある。鍵盤がピアノとは白黒が逆で音ももっと軽やかだったような。
 掲句は濃紫陽花を、そんな楽器の調べのようだと言っている。「ように」咲いているのか、それとも存在がそのようだというのか。それは読者が決めればいい。こう捉えた、というところが詩心そのものなのだ。

響焰2025年8月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2508

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

ポップコーン子が寝て夏の海の匂い
梨の花銃声夜の底よりす
シュピレヒコール桜桃を捥ぐ手の生毛
夾竹桃咲けり怠惰に生コン車
すぐ鳴きやむ町のかなかな戦後家族
へろへろと笑い影踏み終戦日
氷菓崩す今日ぼろぼろの茜雲
爆音が眠しみどりの昆虫館
八月十五日踵に虻とまる
別れたくなく夕焼けが川の幅
     松村 五月 抄出

 
【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202508

夏 匂 う      米田 規子

竹皮を脱ぎ午後からの雨催い
母性とも白あじさいのふくらみに
夏鶯足腰しかと急な坂
花束をふわりと腕に夏匂う
家路にぽっと灯り枇杷の実のたわわ
ふたりの会話風にさらわれ鴨足草
詩を見失い紫陽花に溺れけり
植木屋の末っ子跳ねる夏の空
きょうの健康夏草に負けている
それぞれの傾きグラジオラスの空

 
【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202508

宛 所 不 明      松村 五月

薔薇を折る雨の匂いのそのままに
泣きながら生まれたような春の虹
新緑をふるわせており赤子泣く
少年の角曲がるとき新緑す
宛所不明とありぬ花の昼
ハンカチに包むきれいなさようなら
薫風や家出のごとく荒川線
蝶とまる父の書棚の三段目
正面にあの日の父や花の雨
花に雨父いつまでもいつまでも

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年5月号より

大寒の灯や晩学の虫めがね        和田 浩一
訛には訛で応じしもつかれ        石倉 夏生
冬桜この一本は詩歌かな         渡辺  澄
使い切る命あるらし落椿         大見 充子
黄昏れて大根の葉の豊かさよ       河村 芳子
いつまでも四女のままで雛かざる     河津 智子
風花の過ぎし青空久女の忌        相田 勝子
ぼろ市にむかしの午後の佇っており    鈴木 瑩子
石畳影ずきずきと寒月光         大竹 妙子
空っ風しどろもどろを翻す        藤巻 基子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年5月号より

くねりつつ径は続きぬ春祭        栗原 節子
冬の雨誰かのために傘持って       渡辺  澄
列島の半分は雪肩の凝り         蓮尾 碩才
角一つ違えて寒夜母居らず        和田 璋子
反抗心忘れぬようにある寒夜       北島 洋子
騒がしきこの世の外に冬すみれ      相田 勝子
ぼろ市にむかしの午後の佇っており    鈴木 瑩子
日脚伸ぶ影の生まれる帰り道       中野 充子
花びらを果てしなくしてラナンキュラス  大竹 妙子
主なき椅子の傾き春近し         北尾 節子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


おじいさんと孫とそら豆青い空      原  啓子
春満月縄文人とすれちがう        中野 朱夏
はつ夏へガタンゴトンと荒川線      伴  恵子
囀りや玉子焼きなどふっくらと      原田 峯子
後ろからたんぽぽの絮ねこぐるま     鷹取かんな
玄関の鏡に映る金魚かな         山田 一郎 
診察を終えてふたりの柏餅        増田 三桃
あるときはぼうたんとなり華やげる    野崎 幾代
夕映えに染まる雪富士父と居て      辻  哲子
もやもやに薄化粧して五月晴れ      櫻田 弘美
早稲田までのんびり行こう若葉寒     朝日 さき

【白灯対談の一部】

 おじいさんと孫とそら豆青い空      原  啓子
 衒いのない素直な句に好感を持った。この時の作者の気持ちがダイレクトに伝わってくる。句を構成している四つの名詞がすべてであり、それで十分なのだ。そら豆が二人の真中にあり、笑顔が見え、歓声が聞こえる。そして空は青い。
 なんと気持ちのいい、幸せな句なのだろう。

響焰2025年7月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2507

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

桃実る昼は灯ともるごとく寝る
ぶどう掌に余り一雷後の青空
陽に向ける銃口虻の笑い声
翅たたむことなし山蛾は風のいろ
朴散るや頭上げても夜の馬
厨より山頂がみえ星逢う夜
七月や風のまなこの宙返り
意志つねにもち落日の蟹の甲
蟹の脚蒼く裂きいくさある真昼
北へ発ち七月の川にある匂い
      松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202507

青 ぶ ど う      米田 規子

川べりの小さな画廊アマリリス
仏蘭西や麦秋をゆく白い車
少女期の翳を濃くして青ぶどう
ぽかとハプニング万緑のど真ん中
窓硝子みどりに染まりハーブティ
剣山にジャーマンアイリスどっと鬱
夏の雲一編の詩を持ち帰る
酢漿の花日に日に増えて星の国
祖母として何ができよう遠花火
北陸の魚きときと夏近し

 

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202507

幸 福 な 春      松村 五月

純粋にさくら色なる夜の桜
言葉より白詰草の冠を
捨てるものあり幸福な春であり
無色でも七色でもなく春の虹
恋か否さくらさくらと散りぬるを
人声の届く距離にて山桜
飛花落花智恵子の空を見にゆかん
明るくて四月の雨に濡れようか
群青の海に憧れアネモネは
みどり児の笑い声とは春の虹

 

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年4月号より

梟が森を欲しがる白昼夢         石倉 夏生
冬紅葉とまどう松のありにけり      渡辺  澄
着ぶくれて産土へ曳く旅鞄        加藤千恵子
冬の庭余力はあると言うべきか      蓮尾 碩才
小寒や消えてゆくなり獣道        岩佐  久
恐竜が生まれますよう寒卵        秋山ひろ子
春隣子が子に読んで「ぐりとぐら」    相田 勝子
頬杖を解けば春立つ思いあり       吉本のぶこ
あばあちゃん半分になり小春かな     大竹 妙子
たったひとつの太陽ガザの子に初日    藤巻 基子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年4月号より

道化師に鳩集い来る開戦日        和田 浩一
初春や笑ふほかなく爆笑す        石倉 夏生
傷口のそのまま残る返り花        渡辺  澄
片隅の平和ついばむ寒雀         加藤千恵子
ジャズ流れ一口大の冬林檎        河村 芳子
嘘をつく時の鳴き方寒鴉         北島 洋子
林檎割る純心といえ非対照        鈴木 瑩子
山茶花の数だけ泣いて雨あがる      中野 充子
窓際に長方形の寒ありぬ         浅野 浩利
一月のしろがね色の富士の国       増澤由紀子

 

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


満ちていく音なき雨と夜半の春      加藤  筍
ひとりじめしてもさみしき花明り     増田 三桃
少年は芽吹きの中で透き通り       中野 朱夏
木蓮の花芽膨らみ風に色         原  啓子
難しきスマホの操作猫の恋        櫻田 弘美
産土を離れる友に花の雨         伴  恵子
春灯故郷の飯屋三代目          朝日 さき
見るたびに色のでこぼこチューリップ   鷹取かんな
春雨やことりことりと煮て一人      原田 峯子
初桜未踏の扉強く押す          長谷川レイ子
行く春の牛舎に赤き靴一つ        山田 一郎
うす甘きガレのランプや春の宵      辻  哲子
連翹の塊として雨の中          野崎 幾代
心して歩いてみても躓く春は       岩井 糸子

【白灯対談の一部】

 満ちていく音なき雨と夜半の春      加藤  筍
 春の夜のひとときを思い出してほしい。咲き始めた花々の微かな香り。湿り気を帯びた暖かい空気。厳しかった冬が終わり、身体もほっとほぐれていくようだ。
 掲句はそんな下五の季語〝夜半の春〟への導入が巧みだ。筍さんは、俳人に必要な捉え方を既にわかっている。詩情をもって物事を見ているのだと思う。

(さらに…)

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