響焰俳句会

ふたりごころ

響焔誌より
山崎名誉主宰の作品、選評、ならびに米田主宰の作品、選評、編集後記などを掲載しています。

響焰誌より

響焰2025年月4号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2504

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より
鮑食うくたくたくたと春ネオン
愛の形の壺光りだし桜吹雪
胃の形して流木のあたたかさ
一人でいてすかんぽの海明るすぎ
恋雀そのほかも照り花菜の村
葬送はうすむらさきの桜草
めつむれば海見えてくる単線区
繭煮られ終着駅の昼白し
曇り日の花朴は白夜も見え
死がありて紙一枚の朴の花

松村 五月 抄出

 

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202504

春セーター      米田 規子

草萌のなまあたたかき人の群
春はまだ遠くてピアノ黒光り
冬すみれ初老と老人支え合い
ほつほつと息づき春の土ほろほろ
生き方を考えなおし梅三分
山笑う薬に支配される日々
まなうらに燃える此の世の春入日
晩節やひと山ふた山超えて春
再会のふわっと軽い春セーター
十七音の世界の未来ミモザ咲く

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202504

水 の 星      松村 五月

一月をどろりと眠り此岸かな
水底のじいんじいんとお元日
あきらめるための花びら餅ください
満開の白山茶花やあたたかし
図書館のまあるい時間冬の雨
新しい年かろうじて水の星
七草の色になりたる家族かな
人間に踏まれるまでを霜柱
深々と冬の椅子あり純喫茶
この世よりたしかなるもの冬の薔薇

 

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年1月号より

満月を電話の中で分かち合ふ       石倉 夏生
大根に味しみるまで母とあり       渡辺  澄
人声も山も近づく今朝の秋        中村 克子
檸檬放りてユーミンは遠き日か      松村 五月
実山椒明日のことは言わずおく      和田 璋子
わっとあつまりわっと秋めくメトロ    河津 智子
ひらがなもかたかなもなく運動会     石井 和子
藤の実の長さをゆらす鳥の声       石谷かずよ
江東は水彩の町鳥渡る          鹿兒嶋俊之
天の川プラットホームは最上階      牧野 良子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年1月号より

熱帯夜コップの水に地震残り       和田 浩一
あかい服着てもさみしい秋の雲      栗原 節子
人声も山も近づく今朝の秋        中村 克子
忘れものしてきたようないわし雲     和田 璋子
金木犀やわらかな夜の入口に       戸田冨美子
東京は異国のごとく二十日月       佐々木輝美
みちのくの一人に余る曼珠沙華      小林マリ子
極月の燃えしぶりたる紙に色       吉本のぶこ
理不尽な漆黒の夜のしぐれかな      大竹 妙子
大空はきのうの花火より生まれ      牧野 良子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>

風花やこんなところに出入口       原田 峯子
霜柱踏んで令和の音がする        伴  恵子
白い街赤い表紙の日記買う        原  啓子
一月や飛行機雲の右上がり        長谷川レイ子
メモ紙を少し大きく年用意        鷹取かんな
一月や見知らぬ駅に降り立ちて      朝日 さき
冬蝶の明日旅路はまだ続く        辻  哲子
初明り命の重さ受け止めて        野崎 幾代
元旦の袋小路に犬と猫          山田 一郎
帰り花ほほえみかける母の顔       櫻田 弘美

 

 

【白灯対談の一部】

 風花やこんなところに出入口       原田 峯子
 晴れた日に雪が風に舞うようにちらちら降ることを、花に例えて風花という。美しい日本の言葉だ。風花はふと気付く。作者も歩いていて目の前を舞う雪に立ち止まったのだろう。すると思いもしない何かの出入口を見つけた。そんな一瞬の軽い驚きを詩情のある句にしている。
 風花というしっとりした季語に出入り口<という言葉をぶつけて現代的な風花の句に仕上げている。/span>

響焰2025年月3号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2503

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より
雪夜道男女並んでまた離る
母がいる雪国星に言葉とどく
まなうらに母あり桜散る海があり
雛の日あたたかく足重ねおり
一年生光るとき朝のおたまじゃくし
音楽やあたたかき夜の失語症
深山桜ふりむきて絵のごとき顔
朴咲いて夜が分厚くなる訣
笑いたし今日桜散り艦が着き
水よりも赤き一日かじか殖え
(今号から季節ごとに抄出)
松村 五月 抄出

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202503

寒  卵      米田 規子

抜け道の臘梅香る直売所
山笑う削ることばと足す言葉
味噌汁にポンと滋養の寒卵
平常心どこかに忘れ赤いマフラー
電子辞書閉じて開いて冬深む
しろじろと枯野の先の大病院
待春の手紙にそっと胸の内
坂道をすいすい漕いで春隣
春来る三枚重ねのパンケーキ
三寒四温ペン胼胝のいとおしく

 

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2024年12月号より

戦争と隣合せに秋うらら         石倉 夏生
良夜かなひとり歩きの一行詩       加藤千恵子
天高し前後左右に老いてゆく       中村 克子
十月の光の中に父のいて         松村 五月
ただいまと呟くだけの秋夕べ       河村 芳子
墜ちてきそうな満月へピアノ弾く     波多野真代
深く考えなくていい月夜のうさぎ     小川トシ子
夕焼けに染まる一村牛の声        戸田冨美子
晩年やレモンの香りひとしずく      大森 麗子
まっとうな曲がり角なり九月尽      大竹 妙子

【米田規子選】

<白灯対談より>

人去りし庭に咲きつぐ花八手       中野 朱夏
つり皮のおもわぬ高さ年の暮       原田 峯子
銀鼠の帯をきりりと月冴ゆる       原  啓子
賀状書く未来くっきり芋版画       長谷川レイ子
惜しみなき喝采風の散紅葉        辻  哲子
今日こそは開かんとする冬薔薇      鷹取かんな
雑踏の東京に来て初雪や         朝日 さき
冬の雲流れる先は母の許         伴  恵子
冬帽子深めにかぶり二人旅        櫻田 弘美
日向ぼこ心豊かに発酵す         野崎 幾代
故郷は遥か向こうに冬苺         山田 一郎
穏やかな友と語らいクリスマス      岩井 糸子

 

 

【白灯対談の一部】

 人去りし庭に咲きつぐ花八手      中野 朱夏
 〝花八手〟はさまざまなシーンで違った表情を見せてくれる不思議な花だと思う。明るい花でもあり、またやや暗い花とも言える。掲句の〝花八手〟はその両面を合わせ持っているようだ。一方で〝人去りし庭〟とは誰も住んでいない空家の庭なので、音も無くひっそりとしているだろう。それでも晴天の日などには、生き生きと元気に咲いている〝花八手〟を見ることができるのだ。そんなごくありふれた風景を上手く一句にまとめた。眼目は〝咲きつぐ〟という措辞。作者が目に止めた〝花八手〟はいろいろなことを語りかけた。

響焰2025年月2号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2502

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より
童話の顔で少年悴み丘の午後
ふぐりもつ吾子三月は鳥の色で
林檎甘し遠く昏睡の海が見え
鷗までとどかぬ怒声朝霙
春怒濤白く没陽を余す谷戸
紙飛行機を飛ばし田のない村の子供
夜はふくらむ雪嶺母の椅子軽し
鮑食うくたくたくたと春ネオン
声透る雪夜華やぐ指があり
雪山の灯を踏むしくしくしくと風

(昭和37年~44年)
松村 五月 抄出

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202502

花アロエ      米田 規子

紅葉かつ散り月餅を賜りぬ
母の忌や真青に茹でる大根葉
三人の都合が合わぬ花八ツ手
鬼の子とこたえの出ない問題と
食卓に資料と蜜柑さあどうする
楽園をもとめて尖る花アロエ
冬木立抜けしあわせは摑むもの
湯豆腐を囲みほろほろと加齢
カレンダーにあふれる予定山眠る
一月や淡きひかりの朱塗椀

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2024年11月号より

穏やかな八十路の一日天の川       和田 浩一
鶏鳴や山にかこまれ稲育つ        栗原 節子
白さるすべり老人の反抗期        中村 克子
手花火の火玉の尽きるまでは恋      松村 五月
耳鳴りか夕暮れなのか蟬しぐれ      秋山ひろ子
声かけて風につながる凌霄花       鈴木 瑩子
短夜のワイングラスに巴里の空      小林多恵子
膝抱けば野にあるごとし法師蟬      吉本のぶこ
秋燕思いはすでにここになく       加賀谷秀男
炎暑なおピカソの青に浸りきり      齋藤 重明

【米田規子選】

<白灯対談より>

冬の蝶ふわりふわりと生きる場所     伴  恵子
いつも晴れて母の記念日十一月      中野 朱夏
山肌に蜜柑のたわわリス飛んで      原  啓子
一列に真赭の芒夕映える         野崎 幾代
原因は頑固な私そして冬         朝日 さき
再会のほんのり甘く通草の実       鷹取かんな
菊花展抜けて喫茶のモンブラン      原田 峯子
あの人に寄せた想いを銀杏黄葉      岩井 糸子
冬ぬくし土偶女体の健康美        長谷川レイ子
これからも正直に生き木の葉髪      山田 一郎
秋夕焼来し方ゆく末御手の中       辻  哲子
団栗に目と口を描き空ひろびろ      櫻田 弘美

 

 

【白灯対談の一部】

 冬の蝶ふわりふわりと生きる場所     伴  恵子
 掲句のオノマトペ〝ふわりふわり〟は冬蝶の優美とも弱々しいとも思える飛翔そのものを表わすことばとして十分納得できる。しかし、その後の結句〝生きる場所〟という措辞にハッとさせられた。その飛翔は必死に〝生きる場所〟を探す冬蝶の生きざまを見るようで胸に刺さった。大胆な着地が読者にインパクトを与え、一句として味わい深い作品である。

響焰2025年月1号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2501

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より
貨物昇降機(テロハ)ひとつ影を落として冬野あり
鉄橋長く黒く寒夜を童話めく
鳩が啼きいつも冬田のそこにいる子
灯る帰路顔の高さを雪飛んで
蜜柑甘くて赤いジャケツの彼がいない
鱈干され島のあたたかさの老婆
病む指が匙持つ結氷期の青空
牡蠣砕く木槌夕焼け崩れそうで
音楽光る早春の海にヨットを置き
涸れ川に雪降る眼帯の裏灯り
(昭和34年~41年)
松村 五月 抄出

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202501

ふゆざくら      米田 規子

視野に入る古木くろぐろ冬隣
ふゆざくら電車親しき街の音
考えるいちにち冬木の芽のしずく
チキンスープ温めなおし実南天
黄金のパイプオルガン冬三日月
暮早し光が走る大東京
ひらりはらり落葉と枯葉宮益坂
冬林檎なりたい私になるつもり
昼の灯や枯葉の街のルノアール
傷もあるピアノとわたし風花す

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2024年10月号より

あじさいの百花に薄日無言館       和田 浩一
麦秋のしずかな午後へチャイム鳴る    栗原 節子
花柄のエプロン父の日の私        松村 五月
親子孫みんな真面目で茄子の花      蓮尾 碩才
葛切りやふと文豪の太き眉        河村 芳子
母さんのきんぴらごぼう額の花      岩佐  久
梅雨寒やしどろもどろに咲いて散り    波多野真代
故郷が透けてくるまで杏の実       山口美恵子
海を見て静かな暮らしおじぎ草      廣川やよい
水打つて隣のむすめ片笑窪        小澤 悠人

【米田規子選】

<白灯対談より>

鶏頭の赤に沈みて昼の闇         原  啓子
風の音かしのび笑いか曼珠沙華      中野 朱夏
十三夜垣根をこえる観覧版        長谷川レイ子
珈琲と「天声人語」秋深し        朝日 さき
襖絵を抜けて白鷺夕刈田         原田 峯子
眼裏に映るふるさと櫨紅葉        鷹取かんな
被災地にひかり届けて勝ち力士      伴  恵子
澄みわたる読経の声桐一葉        野崎 幾代
コンビニへ足取り軽く金木犀       櫻田 弘美
柿すだれ今日はいちにち本を読む     山田 一郎
萩晩秋石州瓦の赤い色          辻  哲子
一万八千歩お神輿に連れられて      岩井 糸子

 

【白灯対談の一部】

 鶏頭の赤に沈みて昼の闇         原  啓子
 ひとくちに「赤」と言っても様々な赤色を思い浮かべることができる。ごく普通の赤はパッと明るくて元気が出るような色だと思う。しかし掲句の〝鶏頭の赤〟は少し違う。華やかで愛らしい赤色ではなく、ほんの少し黒みがかっていて、どことなく翳があるような赤色ではないだろうか。同じ色を見てもその時の気持ちを反映して主観的な色となる。〝赤に沈みて〟の措辞に作者の重い心を感じ取ることができた。一日のうちで最も明るい真昼を作者は〝闇〟と詠んだ。〝鶏頭の赤〟と対峙して自分の心を見つめ、心象句として深い闇を表わした良い作品である。

響焰2024年月12号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202412

最 終 章    山崎 聰

いちにちは東京におり春の雨
金盞花見事に咲いて春がゆく
山国の近くに住んでほととぎす
房総のまんなかさびしかたつむり
新しき世界はじまる鯛の海
朝顔の赤いところを見てふたり
新しき人を迎えて山の蟬
過ぎてしまえば一日という秋夜
奥山に風吹きとおり秋さりぬ
東京へ行ったり出たり秋の蟬

 

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202412

秋 の 七 草      米田 規子

千日紅老いて親しきお隣さん
同病の話が弾み水引草
秋の七草ゆったりと書く大きな字
葱がまだ細いとメニュー変更す
赤とんぼ忘れかけたる加賀言葉
青蜜柑ちから抜くこと難しく
花野を走るたのしみを待つように
老人もゲームするなり暮の秋
竹の春ざわざわなにか急く思い
金木犀いちにちを濃く生きている

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2024年9月号より

晩年の入口出口月おぼろ         和田 浩一
沈黙のグランドピアノ日の盛り      加藤千恵子
未央柳遠景に教会の塔          相田 勝子
鎌倉暮色せせらぎと苔の花        川口 史江
猫の道へくそかづらの中へ消え      小林多恵子
青葉雨上がり東京の龍田川        廣川やよい
夏帽は別れの涙掬うため         藤巻 基子
町角はなんじゃもんじゃの花の中     鹿兒嶋俊之
どこまでもつばな流しの海岸線      石谷かずよ
紫陽花の色にあつまる雨後の風      北尾 節子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2024年9月号より

晩年の入口出口月おぼろ         和田 浩一
冷蔵庫の中の灯りも冷えてをり      石倉 夏生
カナリアに教えてあげる虹の色      松村 五月
月の淡し羽化するように更衣       大見 充子
ことのほか自由は重く杜若        河村 芳子
遠い雷隅から埋まる喫茶店        和田 璋子
先生のうしろ大空夏燕          小川トシ子
梅雨の木の中の一樹が哲学す       吉本のぶこ
夏の果誰もが一度ふり返り        加賀谷秀男
茅花流し大川どっと大海へ        藤巻 基子

【米田規子選】

<白灯対談より>

世の戦わが身のいくさ八月尽       原田 峯子
山の辺の道つれづれの柿日和       増澤由紀子
ちちははの声に囲まれ曼珠沙華      牧野 良子
夕蛍故郷の森の重さかな         酒井 介山
引潮に舟底低く秋の昼          中野 朱夏
おもいではここでとぎれて萩の坂     横田恵美子
これからはひとり秋冷の電話鳴る     菊地 久子
台風の気儘人間の気儘          鷹取かんな
無垢な子の瞳に揺れて秋桜        原  啓子
飛び乗ってバイクのうしろ夏休み     伴  恵子
満席のピンシャン体操水の秋       長谷川レイ子
秋暑し猫と気ままにユモレスク      辻  哲子
虫時雨この世の絶えることのなく     伴  恵子
行き合いの空肩にふと赤とんぼ      朝日 さき
新涼や歌舞伎役者の声の張り       野崎 幾代
睫毛濡れアランドロンの逝った夏     岩井 糸子
手際よく朝餉ととのい涼新た       櫻田 弘美
豊年や声の大きな村娘          山田 一郎

 

【白灯対談の一部】

 世の戦わが身のいくさ八月尽       原田 峯子
 人はそれぞれ何らかの〝いくさ〟を抱えて生きている。だから掲句の〝わが身のいくさ〟にハッとする思いだ。〝わが身のいくさ〟は心の問題なのか病気なのか事情は様々だと思う。この句の良いところは、余計なことは語っていないということだ。〝世の戦〟と〝わが身のいくさ〟を並列に置き、あとは何も言っていない。体言だけで作られた、きっぱりとした作品だ。上五中七下五、それぞれの措辞の印象が強く、読後に考えさせられることがどんどん膨らむ秀句と思う。

(さらに…)

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