響焰俳句会

ふたりごころ

響焔誌より
故山崎最高顧問の句集からの松村主宰による抄出、米田名誉主宰の作品、選評、ならびに松村主宰の作品、選評、などを掲載しています。

響焰誌より

響焰2026年3月号より

【山崎聰の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2603

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

立春や峠を越えるとき転ぶ
雪の山空近ければこえを出す
ときには雪の朝のいろいろ別れゆく
岬への道風花に人流れ
山かたむく紅梅くらきところにて
山で逢い梟の貌をして別る
中年やぬくもりて陽をまぶしめる
春の邪気めつむりてまたみひらきて
あたたまり鴉・茅花と水の村
崖下の二戸ほどが濡れももさくら
松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202603

裸    木     米田 規子

小寒や夕映えの街赤い屋根
目の検査終え裸木のシルエット
煮豆ことこと冬の灯を近付けて
晩節のそこここ寒く人を恋う
枯木星はちみつれもんに湯を注ぎ
猫のポーズからだ丸ごと冬日中
はげましと真冬のレモン友遠く
砂糖壺のさとう減りゆき冬の家
よれよれの靴にさよなら冬木の芽
七十路の髪あわあわと光り春

 

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202603

順   光      松村 五月

米を研ぐための手のひら秋深し
露地裏に引っかかりたる十二月
愛すこし足りない紅葉且つ散りて
北口を出づれば冬の入口か
わたくしによく似た月夜茸の青
風邪の子の枕辺にいるウルトラマン
口開けの客となるなり着膨れて
大根に味染みるころ皆戻る
冬の陽やニ短調にて送るなり
父と見ている順光の冬の海

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年12月号より

感嘆詞ひとつを残し星流る        石倉 夏生
色島や遠目に少年少女かな        渡辺  澄
やや重く九月はじまり子等の声      中村 克子
手を振って別れてよりの男郎花      小川トシ子
裏庭は母の領分蟬時雨          北島 洋子
ふりむけば海いくつもの夏が過ぎ     秋山ひろ子
5Bの鉛筆秋が来ておりぬ        鈴木 瑩子
蟬時雨追われるように下る坂       楡井 正隆
カーテンは呼吸している夜の秋      浅野 浩利
二階から下りてもひとり虫時雨      菊地 久子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年12月号より

悲しみを絞る虫あり虫しぐれ       石倉 夏生
音で知る小さな家のまるい秋       栗原 節子
阿弥陀くじに一本加え晩夏光       北島 洋子
いつもの山いつもの村の文化の日     河津 智子
大花火水面に熱を残しつつ        戸田富美子
曼珠沙華地球沸騰曼珠沙華        相田 勝子
団塊の働きすぎる冷蔵庫         佐々木輝美
カーテンは呼吸している夜の秋      浅野 浩利
母さんの翳りを纏い蛇苺         齋藤 重明
まっ青な枝豆を食べ平和論        菊池 久子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


みぞおちのあたりに疼き鵙高音      増田 三桃
鵙高音火を消したかたずねられ      中野 朱夏
冬ぬくし万年筆の太き文字        須藤 寿恵
銀杏黄葉ちぎれたような空の青      伴  恵子
透き通る鳥の鳴き声寒い朝        鷹取かんな
能登の友師走の空につながって      原田峯子
友の来て冬菊の香を残しけり       野崎 幾代
初時雨露地を満ちくる厨の灯       長谷川レイ子
響橋みぎに曲がれば冬深し        原  啓子
極月や多喜二の町は今も坂        佐藤真由美
枯蓮に午後の日差しのゆったりと     山田 一郎
ポコちゃんの顔たたいて冬の月      朝日 さき
枯野ゆくひとり旅ゆく達成感       辻  哲子
新築のポストに夢やクリスマス      櫻田 弘美

 

【白灯対談の一部】

 みぞおちのあたりに疼き鵙高音      増田 三桃
 晩秋に響くあの鵙の声。キィキィとうるさく感じるときもある、決して心地よいとは思えない鳴き声。あの声を聞くと秋も終わりなのだな、と感じる。
 その少しの寂しさ、何かやり残しているような、でもそれが何なのかわからないもどかしさ、そんなものを詠っている句なのだろう。〝疼き〟のあとの切れによる余韻と、そのあとに続く季語が効果的である。

響焰2026年2月号より

【山崎聰の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2602

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

橇馬のたてがみ短かきも灯る
死ぬときがきて一枚の魚に雪
雪降るや乾きてふぐりのごときもの
枯落葉松うしろ通れば声がして
卵割ってふるさとことば寒きかな
壺買ってその深き眼の二月かな
雪降れり今日のつづきの明日にて
冬怒濤鴉あつまり人散らむ
墓標かたむくその砂山のさむき砂
空寒くなる銃身を水平に
松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202602

ヨコハマの空      米田 規子

そのままでいい小さく群れて冬の菊
描くならば明るい未来クリスマス
蝦蛄葉仙人掌あかあかと肉を焼く
散り急ぐ紅葉ななめに丸の内
パンジー・ヴィオラ発表会の朝の色
ヨコハマの空の明るさ枯木坂
一年を生きのび枯野発光す
クリスマスカクタスひっそりと一家族
風の音する切干大根ちりぢりに
初富士にひとすじの雲動かざる

 

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202602

冬   帽      松村 五月

黄昏のはじまり落葉踏みてより
南国の果実重たし夜の秋
豆を煮るひと日を賜いもずの声
晩秋というは酸っぱく柔らかい
つぶあん派こしあん派論神無月
鵙の鳴く帰り道ゆえ帰れない
ぶどう熟る夜の気配をまといては
烏瓜見てそれからの薄日かな
晩秋の陽差しは母の匂いして
冬帽の似合いし父よ起きたまえ

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年11月号より

晩夏光街は大きなおもちゃ箱       中村 克子
炎天や子らの歓声みな本気        小川トシ子
夏の野をもうろうと顔過ぎてゆき     波多野真代
夏の夜のジャスミンの香に疼くもの    山口美恵子
矢車草少女の手足伸びた先        鈴木 瑩子
大辞典持ち上げてより夏痩せす      小林マリ子
図書館のひろい踊り場晩夏光       小林多恵子
波音に午後をあずけてハンモック     浅野 浩利
初秋の水底に立つ砂けむり        池谷 照子
八十年あさがお今も水が好き       牧野 良子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年11月号より

父の忌の仏間に蟬の匂い満ち       和田 浩一
向日葵の一つ一つに爆心地        石倉 夏生
行き先の違う男ら終戦日         渡辺  澄
青葉風父から父が抜けてゆく       中村 克子
鬼灯の赤い袋を風が開け         和田 璋子
それぞれに少し見栄張りソーダ水     北島 洋子
だんだんと淡くなる墨終戦日       戸田富美子
手の汚れ洗っても洗っても八月や     相田 勝子
思い出のあちこちに傷夏野原       山口美恵子
八十年あさがお今も水が好き       牧野 良子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


寒村に小児科ありて柿日和        須藤 寿恵
秋の陽のしみじみあたり道具箱      増田 三桃
小春日の五百羅漢はみな笑顔       伴  恵子
母と子の距離を縮めてホットココア    原  啓子
酉の市一本締めの降るように       長谷川レイ子
秋風や間口のせまき古物店        中野 朱夏
老楽に恋のありたり小六月        野崎 幾代
うとうとと眠り茶の花仄明り       鷹取かんな
他愛ない嘘をかさねし冬の蝶       朝日 さき
治りかけの傷をこするや神の留守     佐藤真由美
音もなく橋を渡りて冬の海        山田 一郎
冬帽子おしゃれにかぶり一歩ずつ     櫻田 弘美
冬むかうかけがいのない八十路かな    辻  哲子

 

 

【白灯対談の一部】

 寒村に小児科ありて柿日和        須藤 寿恵
 冒頭に「寒村」を配置し、読者に人口の少ないやや寂しい土地の気配をまずは想像させる。次に続く「小児科」がこの句の核になるところで、子どもの存在をも想像させ、未来への希望を提示している。そこに季語の〝柿日和〟を配し、里山の寂しいだけではない、着実にある穏かな人々の営みや時間を示し、結果、小児科という言葉に説得力を出している。
 色々な病院の診療科の句を見るが小児科は珍しく、だけどとても詩になりえる言葉なのだと掲句を鑑賞して思った。

響焰2026年1月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2601

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

山国の陽に霧の疵四十過ぐ
友といて友の匂いの蜜柑むく
ふぐりあたたまり山頂の墓に雪
日当たりて憎悪のときの朴落葉
ポケットに真珠と蜜柑別れがきて
こころ融けはじむまいにち雪降って
風花やうしろにもあたたかきもの
風の昼干されて鱈に眼がふたつ
スケーターワルツその夜の雪の山
鱈干すや兄弟の墓同型に
松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202601

初しぐれ      米田 規子

上野秋色ほろ苦いチョコレート
ゴッホ展横目に秋冷しのびよる
いつまでも語り晩秋大きな木
ここよここよ落葉の走る南口
白髪も杖もいとしき小春の日
はつ冬の雲湧きカフェの二人かな
冬の灯やリュックふくらむ帰りみち
エプロンの紐をきりりと初しぐれ
しあわせのかたちはなくて実南天
リハーサル終え唐突に十二月

 

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202601

利 き 足      松村 五月

誰かれと迎え十月の木のベンチ
利き足はどうやら左虫の闇
往の道復も通りて鵙の声
こまごまとしたもの赤く秋の店
烏瓜彼岸見てきた色をして
地平線見えぬ東京時雨けり
紫にもっとも近き秋の蝶
いつまでも続く暑さのごとく老ゆ
木犀のこぼれきるまでこぼるるよ
十月を眠りつづける父の髭

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年10月号より

まっさらな月日に戻る百日紅       渡辺  澄
喋らねばてのひらさみし熱帯夜      中村 克子
万緑や声だけ残る豆腐売         大見 充子
青柚子や焙烙を置く庭の夕        河村 芳子
梅雨明けや角を曲がってつり具店     岩佐  久
どうしても届かぬ高さ胡桃咲く      和田 璋子
夕日まだ四つ角にあり凌霄花       小林多恵子
湖風のもつれるあたり半夏生       石谷かずよ
かたつむり圧倒的な歩みして       加賀谷秀男
白南風の生まれるところ埴輪の目     池谷 照子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年10月号より

まっさらな月日に戻る百日紅       渡辺  澄
喋らねばてのひらさみし熱帯夜      中村 克子
万緑や声だけ残る豆腐売         大見 充子
夏蝶の後につづけば分かれ道       河村 芳子
夏野来て両手両足老いにけり       和田 璋子
昼の金魚夜は優雅に翻る         秋山ひろ子
遠き日の向こう水無月ちとはは      河津 智子
晩春のお伽草子をみるように       鈴木 瑩子
噴水のほとり裸婦像の休息        石谷かずよ
炎天や人間小さく立っている       増澤由紀子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


うつくしき齢の兄や今年米        増田 三桃
一人居のひとりの旅の大花野       原田 峯子
帛紗さばく手の滑らかさ萩の風      原  啓子
星月夜それでも重きわが身かな      中野 朱夏
古寺の塀をはみ出す柘榴かな       須藤 寿恵
鶏頭や燃やす命のあるうちに       伴  恵子
小鳥来るおこわの蒸るる露地通り     長谷川レイ子
夕映に和む茶の花鐘が鳴る        鷹取かんな
星月夜右岸左岸をゆっくりと       辻  哲子
台風来不動明王のような父        朝日 さき
秋の蟬張り裂けそうに飛び立てり     野崎 幾代
柿の秋朝陽まぶしき隣家かな       櫻田 弘美
金木犀シャンパングラスの細き泡     佐藤真由美
初時雨石段登る猫の顔          山田 一郎

 

 

【白灯対談の一部】

 うつくしき齢の兄や今年米        増田 三桃
 ここで言う「兄」とは「義兄」とのこと。農業をやってらっしゃるお兄様は、とても素敵な方で尊敬されているとご本人談。
 〝今年米〟という季語には、実りに感謝する気持ちも込められている。ただ新米という物として詠んだのでは季語を活かせない。掲句のように詠むことによって、作者の伝えたい心も見えてくる。〝うつくしき齢〟にも感謝と親愛の気持ちが読み取れる。

響焰2025年12月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2512

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

愛にぶき冬はじまりて山のこえ
渚あり悴みて男の手の刃物
陽の底で母濡れ十二月八日の森
涸れ川に雪降る眼帯の裏灯り
灯は朝のかなしみばかり蜜柑山
冬夜逢い人差し指のあたたかさ
文鳥を飼い白濁の冬没陽
傷をもつもの光り合う枯木山
海鼠に眼星のまわりに空ありて
降る雪や男あらわれ女消ゆ
松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202512

吾 亦 紅      米田 規子

鳥渡るすっきり洗う皿三枚
天高し枝をスパッと剪る鋏
字を書いて時に顔上げ昼の虫
ほんとうは叫んでみたい吾亦紅
霜降や朝の大きなマグカップ
野鳥来るとなりの柿の木たわわ柿
秋冷の鍵盤に指まるく置く
なつかしき顔あかあかと秋惜しむ
葱を提げざわざわ日暮来ておりぬ
秋夕焼楽譜に残る師のことば

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202512

晩   夏      松村 五月

今朝の秋川は静かに濡れており
踏切りの向こうにあるという晩夏
黒揚羽神にゆるされし色なれば
枯れるまで枯れる気のなし大向日葵
さびしげなひとさしゆびが指す満月
隠れるならばコスモスの揺れるころ
空蟬の風に吹かれて終いけり
口数の少ない男雨月かな
ぬばたまの夢の色なり黒揚羽
臥す父に空の高さをおしえけり

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年9月号より

梅雨入りの試着室にて若返る       石倉 夏生
父の日やふり返るたび母がいる      渡辺  澄
八十年使った手です梅漬ける       中村 克子
晩歳は風にまかせて夏帽子        大見 充子
ひらめいてどんでん返し青葉闇      岩佐  久
麦秋を横切ってより反抗期        北島 洋子
ふたりなら夕日の丘にトマトもぐ     河津 智子
蛍狩ときには黄泉のほとりまで      石井 昭子
夕闇は香りのよるべ花みかん       石谷かずよ
傷口にいつしか沁みて遠郭公       藤巻 基子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年9月号より

父の日やふり返るたび母がいる      渡辺  澄
諳んじた詩はいつしか夏の雲       大見 充子
表現の自由な広場黒日傘         小川トシ子
ひらめいてどんでん返し青葉闇      岩佐  久
水打って母への手紙出しそこね      和田 璋子
アネモネ萌えて不確かな夜をひとり    河津 智子
かの人の遠くなるほど薔薇深紅      川口 史江
夕闇は香りのよるべ花みかん       石谷かずよ
傷口にいつしか沁みて遠郭公       藤巻 基子
はじまりの始まりの島夏霞        増澤由紀子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


少女らの夏のかたちのアシメトリィ    増田 三桃
新月や見知らぬ家へまた帰る       中野 朱夏
炎昼や都電の線路刃物めく        須藤 寿恵
小鳥来る厨の水に温度計         長谷川レイ子
包丁を研ぐ指先や水澄めり        原  啓子
知らぬ間に友は花野に行ったきり     伴  恵子
秋灯し絵本の中の鬼やさし        朝日 さき
きらきらと昭和歌謡や秋の夜       原田 峯子
水割りにペンと歳時記長き夜       野崎 幾代
遠景の山はふるさと鰯雲         鷹取かんな
鈴虫の隣に枕並べけり          山田 一郎
椿の実つるつる磨く幼き日        辻  哲子
コスモスや傘寿となりて愛されて     櫻田 弘美

 

 

【白灯対談の一部】

 少女らの夏のかたちのアシメトリィ    増田 三桃
 〝夏のかたちのアシメトリィ〟とはどういうことか。わからない。なのに、いや、だから魅かれる。〝少女〟と〝夏〟がさりげなく読者の想像を助けてくれる言葉になっている。「の」を多用して一気に詠みあげているのもこの句では成功している。
 夏を謳歌する溌剌とした少女たちなのか、それとも少し大人になって屈託を持った少女たちなのか。
 〝アシメトリィ〟というフランス語も心憎い。

響焰2025年11月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2511

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

男生きてみずうみは夜の霧の底
マッチ燃え尽き海上を霧のこえ
時雨きて馬に岬の艶もどる
山頂で別れて月見草きいろ
忘恩やポケットにある固き栗
牛が見て十一月の風の背後
湯の底に陽が射している山葡萄
別離以後夜も林に霧降れり
しあわせという真昼間の谷紅葉
雨が降りきのう菊見しこと忘る
松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202511

柿 に 色      米田 規子

秋の声なにを載せよう朝の皿
猫寝そべり風の日の花カンナ
意外にも服を誉められ秋なすび
忽然と影を亡くして赤とんぼ
いつのまにかじいじとばあば秋桜
鰯雲きょうはきれいな心電図
つる草の夢見る高さ秋の風
衣被年を重ねて良きことも
白粉花睡魔に負けぬ午後三時
家普請ようやく終り柿に色

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202511

うしろから      松村 五月

初恋や白玉のどを通るとき
紫の百のひと色今朝の秋
祭果てひとりひとりとうしろから
八月が来るたび聞こえ波の音
日本を夏が占領しておりぬ
泣くな負けるな八月の大人たち
真剣に小石を投げる夏休
咲いたから散るまでのこと酔芙蓉
たそがれを待ちて横浜夏柳
横浜や炎昼なれば海を見て
生命線太き八月生まれなり

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年8月号より

母を待つ子へ園庭の花吹雪        和田 浩一
初夏へ閂はずす山の寺          加藤千恵子
グッバイと違うさよなら夏つばめ     大見 充子
書を捨てて春満月のふところに      蓮尾 碩才
春茜ひとりつぶやくありがとう      河村 芳子
樟脳の冷たい匂い夕桜          秋山ひろ子
反戦歌耳の奥から昭和の日        佐々木輝美
せせらぎを覗けばうごき桜桃忌      鈴木 瑩子
クリスマスローズ明日は俯くな      金子 良子
北斎の波音聞こゆ立夏かな        横田恵美子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年8月号より

峡に鐘こだまし桜餅ふたつ        和田 浩一
戦場に遠くて近き母の日よ        渡辺  澄
初夏へ閂はずす山の寺          加藤千恵子
グッバイと違うさよなら夏つばめ     大見 充子
水音のふるさとめいて春の終り      秋山ひろ子
薫風のその薫風のまた明日        河津 智子
閂の横木はずされ五月雨るる       鈴木 瑩子
揚羽蝶一頭黒き火の色で         吉本のぶこ
春愁の角度の坂道を下る         石谷かずよ
新緑の葉ずれに生まるる言葉たち     菊地 久子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


てんと虫だんだん小さくなっていく    野崎 幾代
北行きの七番線より秋の蝶        朝日 さき
風鈴の音たどりつく日陰かな       増田 三桃
夕立来るかブルーベリーの甘酸っぱく   原  啓子
追伸の終らぬ長さ桜桃忌         中野 朱夏
銀やんま薄いページの夕刊紙       長谷川レイ子
いつの世も自分を生きて百日紅      鷹取かんな
地下出口はちみつ色の晩夏光       原田 峯子
花芙蓉落ちてあの日の友のこと      伴  恵子
指先に止まるとんぼの重さかな      山田 一郎
月下美人咲くを待つ夜ハイボール     辻  哲子
森のおく悲しくひびく蟬の声       櫻田 弘美

  

 

【白灯対談の一部】

 てんと虫だんだん小さくなっていく    野崎 幾代
 子どもの頃は、天道虫も蝸牛も当たり前にいて、格好のいたずら相手だった。今思うとかわいそうなことしたなと思うが、それほど季節になれば必ずどこにでもいる虫だった。
 ところが現在、探しても見つからない。掲句、中七下五はそんなてんと虫のことを言っているのだろうけど、私たち人間そのもののように思えてくる。
 〝だんだん小さくなっていく〟とは、なんと悲しく恐ろしいことだろう。

(さらに…)

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