【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2510
『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より
別れとは花束で消す夜の霧
村灯り墓標のうしろ霧笛溜まる
月傾ぎプールサイドに猫あつまる
母と子に柿熟れる山の祭あと
ぶな山のぶな冷え純潔に育つ雲
耳濡れており月の夜のランナーら
山ぶどう北風吹けば山のこえ
マッチ燃えあとのくらさの月の面
訣れあり満月橋にかさなりて
霧の村ゆうべむらさきの馬がおり
松村 五月 抄出
【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202510
百 日 紅 米田 規子
海風や動く歩道の先は秋
新涼の音かひさびさ窓の雨
秋立ちぬ珈琲豆を挽いてより
幾重にも白波立ちて秋はじめ
坂道はエクササイズと青蜜柑
はつあきやハープの調べアルペッジョ
無花果を裂く犇きはそのなかに
おんなたち老いてかしまし百日紅
ひぐらしや透明になりゆくわたし
秋暑しにんにく生姜微塵切り
【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202510
病 葉 松村 五月
初恋や白玉のどを通るとき
つらつらとたどっていけば夏の雲
七月の乙女ら首を長くして
病葉をあつめる愛の終らぬよう
行き先は夏の大空二人乗り
これからのことはひとまず西瓜切る
風を聴く耳持ち夏のど真ん中
果てしなき夜のはじまり黒葡萄
かなかなかな心のこりのあるごとく
習志野を染める夕焼け父老いる
【米田名誉主宰の選】
<火炎集>響焔2025年7月号より
足細きグラスに春愁をそそぐ 石倉 夏生
おとうとが隠れておりぬ花の昼 栗原 節子
母の日や一粒の米見ておれば 渡辺 澄
駆け出せば春風おぶのうございます 秋山ひろ子
春兆すゆらりと沈む白い皿 戸田冨美子
すみれ咲く目的地まで橋ひとつ 楡井 正隆
うっすらと血のにじみたる桜かな 石谷かずよ
万愚節椅子のぐらつく喫茶店 鹿兒嶋俊之
さみしさやされどくれない桜貝 増澤由紀子
妻恋坂春満月がのぼり来る 牧野 良子
【松村主宰の選】
<火炎集>響焔2025年7月号より
おとうとが隠れておりぬ花の昼 栗原 節子
桜東風身の内にある急な坂 中村 克子
ふくよかな風を休めて蝌蚪の紐 小川トシ子
だまし舟の紛れていそう花筏 北島 洋子
チューリップ数え直してチューリップ 相田 勝子
すみれ咲く目的地まで橋ひとつ 楡井 正隆
ぽとり一滴おぼろ夜の追伸に 川口 史江
死者の数ともあおぞらの桃の花 吉本のぶこ
止まるたび少し崩れて花筏 浅野 浩利
さみしさやされどくれない桜貝 増澤由紀子
【松村五月選】
<白灯対談より>
スローモーションで瓶が落ち熱帯夜 原 啓子
山開きひとりの身ではあるけれど 原田 峯子
純白の紫陽花の呼ぶ青い雨 伴 恵子
炎昼やいつもの道で躓いて 増田 三桃
オニヤンマ父のつかいし古キセル 長谷川レイ子
雨よ雨あめをこがれて七変化 鷹取かんな
白南風やドレスコードは燕尾服 中野 朱夏
蟻の列入口出口迷い道 野崎 幾代
三度目の恋は年下花ダチュラ 朝日 さき
七夕や母のぬくもりもう一度 櫻田 弘美
梅雨冷やベンチに置かれ傘一つ 山田 一郎
みんないて六種のアイス誕生日 辻 哲子
【白灯対談の一部】
スローモーションで瓶が落ち熱帯夜 原 啓子
夕食の後片付けで瓶を落とした時にスローモーションのようにゆっくり感じた、という体験が句の発端と作者。そういう瞬間は確かにある。ただそれを句として成立させるためには季語の選択が大切になる。掲句は〝熱帯夜〟で成功した。なんとも耐え難い暑さの夜、空気も密度があり、重力も弱く、そして自分の感覚も鈍るよう。
ここ数年の異常な暑さの夜、参ってしまうけど、そんなところにも俳句の種をみつける目が啓子さんにはあった。