「和知喜八」の俳句抄出
| おそく帰るや歯磨きコップに子の土筆 |
和知喜八句集 |
| 海高く暗い日銭湯に漁夫が浮き |
和知喜八句集 |
| 天国へ行かず密集の雪のべか |
和知喜八句集 |
| 黄落とはいっさい放下樺林 |
和知喜八句集 |
| 雪渓よりも上をみており死が見えて |
和知喜八句集 |
| 蟬の穴踏めば踏んだと忿怒仏 |
同齢 |
| 同齢の林檎のそばに眼鏡置く |
同齢 |
| ほたるぶくろは湿原の彼方あり |
同齢 |
| 雪の谷誰にも見られずに転ぶ |
同齢 |
| 月の砂漠をはるばると壺のまわり |
同齢 |
| 梟があげて満月二つあり |
同齢 |
| 牛蛙途上の思いばかりなり |
羽毛 |
| 人の死は灯をこうこうと朧なり |
羽毛 |
| 海蟹の鋏をこわす夜の零下 |
羽毛 |
| さくら実にもう誰のでもない羽毛 |
羽毛 |
| 歯を診られわがすっぽんもこれまでか |
川蟬 |
| 人の世をおおかたは生き夏椿 |
川蟬 |
| 年寄りのてのひら暗く冬満月 |
川蟬 |
| 人間探求派のわれを呼ぶ牛蛙 |
川蟬 |
| 命あればふぐりあたたか冬の鵙 |
川蟬 |
| 蝶の昼こつと胆石硝子器に |
川蟬 |
| 鮎のため川は流れて未来あれ |
父の花火 |
| 人間はあっちこっちへ冬景色 |
父の花火 |
| 父を知る花火師の家辛夷咲く |
父の花火 |
| あれもこれもこころのいろに雛祭 |
父の花火 |
| 人生のところどころの芒原 |
父の花火 |
| 戦争のようにみひらき立葵 |
父の花火 |
| たましいを思い朴の葉拾い持つ |
父の花火 |
| 海のうえ音のぼりゆく父の花火 |
父の花火 |