【山崎主宰の俳句】
やや呑気
入口のあっけらかんと十三夜
初時雨屈強な人地下道に
東京に木枯し一号佳人来る
木の実しぐれ思考回路に少し歪み
笑顔皺顔十一月のある晴れた日
冬の鳥あるき遠くに赤い塔
白鳥の悪声なれどやや呑気
陽だまりの樹の下がだんだん濃く
砲台のうしろ吹かるる冬の景
昭和のある日のように人消え十二月
【山崎主宰の選】
<火炎集>響焔2012年11月号より
八月の真っ正面に花ことば 栗原節子
遠花火大群として揺れながら 森村文子
ずっしりと夏の銀河を抱きけり 内田秀子
八月の空は真青に明くるべし 小林一子
霧の駅霧の列車の一車輌 奈良岡晶子
血脈の紛うかたなき盆の風 山口彩子
全身の闇をひきずり牛蛙 野復美智子
入道雲大きな丸を書くように 岩崎令子
八月のいちばん前を飛行船 篠田香子
街を出る帆柱として白日傘 西博子
<白灯対談より>
かりんの実ごつんと落ちて昏れにけり 高橋登仕子
モノクロの恋愛映画初時雨 小笠原良子
にんげんの本音のように曼珠沙華 佐藤由里枝
おでん鍋あれこれ生きて悔いすこし 笹本陽子
東京メトロ地上を走り神の留守 篠田香子
産土の風の色香に秋の蝶 大見充子
赤い帽子白い帽子紅葉降る 土屋光子
甕の底耿々と十六夜の月 岩田セイ子
じゅくじゅくと夕日が燃える鶏頭花 菅野友己
橋三つ渡り母校の夕紅葉 石井昭子
深沈と十月ざくら人を恋う 若林佐嗣
散り紅葉その先町の灯がともる 中村直子
この居場所極楽浄土曼珠沙華 斉藤淑子
着ぶくれてことばさがしの畦の道 上野やよひ
【山崎主宰の編集後記】
「易しいことを難しく云うのは易しい。難しいことを易しく云うのは難しい。」よく聞く箴言だが、ときどき、つまらないことを難しい言葉で飾って、さも立派なことを云ったといわんばかりの俳句にお目に掛ることがある。
俳句は決して易しい文芸ではないが、難しいことを云うものではない。易しいことを難しく云うのは、その作者に、抱え込んでいる重いものがないから、内面に詠いたい切実なものがないから難しい言葉でごまかす、つまりは詩精神の欠如ということにほかならない。(Y)
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