【山崎主宰の俳句】
一人は風
三月のいちばん遠いところが海
人類のいまだ縹渺つくづくし
断絶は海にはじまり弥生尽
三月さくらずきんずきんと眠りけり
人の世の黒いかたまり蓬餅
徐々にあゆめば徐々にさびしくちるさくら
桜東風北半球を一巨船
鷗浮き記憶いちまいずつの春
一人は風さくらの丘を越えてより
朝寝してきのうの海を忘じたり
【山崎主宰の選】
<火炎集>響焔2013年3月号より
底冷えの鍵を開けると荒野かな 小林 実
川幅を疑いつつ鳥渡りけり 渡辺 澄
十二月うっすら光る石っころ 加藤千恵子
夕闇へ声ひいてゆく焼芋屋 沖 みゆき
近道を手ぶらで帰り三の酉 野復美智子
哲学の土手からあふれ冬の波 篠田 香子
轟音の押してゆく空十二月 君塚 惠子
充足にもっとも近く山眠る 西 博子
人間に塩気聖誕祭終わる 愛甲 知子
極月や岸わたりゆく僧五人 鈴木 瑩子
<白灯対談より>
さくら咲き紫紺の夜と思いけり 笹本 陽子
三日月の怜悧な光に射貫かるる 伊達 サト
太陽を目指して消えた揚雲雀 菅野 友己
黒猫の悪戯春の月のぼる 大見 充子
春帽子たまわりし日を石の階 高橋登仕子
うしろから妹がくる春が来る 小笠原良子
白木蓮古い上衣を脱ぐように 佐藤由里枝
枝垂梅誰かがすこし酔っている 土屋 光子
手をつなぐただそれだけの春の風 相田 勝子
その中に光るもの見えスイートピー 石井 昭子
みかん買い金目鯛買いつるし雛 岩田セイ子
東京に石段多く梅日和 水野 禮子
涅槃図を象の抜けだす雨のあと 若林 佐嗣
ほの赤き芽吹きの匂い柞道 中村 直子
しばらくは誰もが無口雪籠 斉藤 淑子
つちふるや薬師如来の目鼻立ち 多田せり奈
せめぎ合う気象予報図春近し 志鎌 史
【山崎主宰の編集後記】
句会で採られなかった句は捨ててしまうという人がいる。また句会に出した句は、雑誌に出してはならないという結社もあるという。なにか間違っていないか。それでは一体、句会は何のためにあるのか。句会で意見を聞いた上で自句を再度推敲、修正して雑誌に出す。その繰り返しによって力をつける。句会はあくまで、投句のための勉強の場と心得たい。 (Y)
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