【山崎主宰の俳句】縦書きはこちら→ Shusai_Haiku_201401
狼 煙
山崎 聰
椋の木に椋鳥とっぷりと昭和の灯
新横浜駅北口不意に秋の声
芋虫のもあもあといる昼餉どき
見て聞いて揺らぎてわれら天高し
言の葉のひとりあそびの黒葡萄
蓑虫のきのうをいまだひきずりて
愛されて十一月の旅鞄
身体髪膚もとより熱く一の酉
狼煙は岬の果たて濁り酒
新雪の山脈見ゆる朴葉鮓
【山崎主宰の選】
<火炎集>響焔2013年10月号より
籐椅子のそばに精神的奈落 石倉 夏生
真夏まぼろしらんらんと生きている 森村 文子
夜店より帰ってからの忘れもの 渡辺 澄
行々子おいてけぼりのかくれんぼ 廣谷 幸子
蝉時雨大きな穴を埋められず 米田 規子
土用丑の日真昼間の厩橋 沖 みゆき
日章旗かかげ祭の一日前 北島 葉子
うやむやの国にころがり落とし文 鈴 カノン
考えの始めに青田ありにけり 金 松仙
六月の父のかたちを記憶せり 岩佐 久
<白灯対談より>
眠るなよ星の音する星月夜 大見 充子
目と鼻と髪のありよう台風圏 笹本 陽子
左折してふるさとの家稲の花 岩田セイ子
煙突の街が消え去り赤のまま 石井 昭子
天上微風いっせいに曼珠沙華 水野 禮子
晩秋の赤い大橋鍵の束 河村 芳子
ねこじゃらし風が笑っているような 佐藤由里枝
船頭と猫との会話体育の日 篠田 香子
いわし雲近づく別れまぎれなく 辻 哲子
単純なかたちと思いラ・フランス 小笠原良子
刈田穭田昭和のおとこほのぐらく あざみ 精
晩節の今こそ自由草の秋 中村 直子
それぞれの影追いながら赤とんぼ 相田 勝子
風折れの槍鶏頭花モジリアニ 土屋 光子
秋日傘昭和の町の美術館 小林マリ子
日本丸二百十日の風を切る 若林 佐嗣
ぽっかりと穴ひとつあり秋立つ日 浅見 幸子
秋夕焼去年の顔がつと過る 楡井 正隆
秋ひと日雑踏長き本通り 志鎌 史
追憶は落穂拾いの終るまで 多田せり奈
【山崎主宰の編集後記】
旅は帰るところがあるから楽しいのである。帰るところのない旅、つまり放浪は、決して楽しいものではあるまい。私達普通の市民にとって、旅は日常を離れた非日常の世界であるが、決して日常とかけ離れたものでなく、日常の上に成り立った非日常なのである。非日常の旅にあっても、日常を忘れず、日常のこころを持って旅の風物に接する。そうすれば、相手も必ずあなたにやさしく微笑みかけてくれる筈だ。ふたりごころとはそういうことである。(Y)
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