【山崎主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_201501
南無妙
山崎 聰
台風の前のろのろといて眼鏡
天空に獏を眠らせかくて秋
火口湖のもみじすべてがはじまりぬ
すでにして霧立ちのぼる都かな
神留守のまっただなかの大時計
総門は閉ざされ落葉枯葉落葉
耳立てて立冬の街あるきけり
海までの百歩が遠ししぐるるか
一切放下とは北風の中の浮標(ブイ)
南無妙の橋越えてくる寒さかな
【山崎主宰の選】
<火炎集>響焔2014年10月号より
たくさんの箱の中からさくら貝 森村 文子
梅雨明けるしなやかに列島の背骨 川嶋 悦子
ごうごうと昭和の鞄夏北斗 鈴 カノン
退屈を脱ぐ梅雨明けのすべり台 中村 克子
七月や影をみじかく村の橋 河村 芳子
八月の風を追い越し男たち 戸田富美子
男滝いっきょに落下して集う 内田 厚
梅青実歳月ほろほろと傾ぐ 西 博子
芋の花まいにちまいにち日の暮れて 愛甲 知子
嬥歌の杜へ蟻の道辿りけり 伊達 甲女
<白灯対談より>
さびさびと秋のいちにち潮汁 大見 充子
秋高くてのひらほどの未来あり 石井 昭子
金木犀今日の出口が見つからぬ 佐藤由里枝
敬老の日人に疲れて帰りけり 笹本 陽子
烏瓜本気で赤くなっている 相田 勝子
歳月のうすずみ色に冬桜 志鎌 史
秋の暮市電ガタゴト曲りけり 小笠原良子
存在は風のなかなる豊の秋 あざみ 精
秋桜ふかい眠りの子を抱いて 飯田 洋子
鬼の子のひとりぼっちをくるまって 多田せり奈
穴惑いちからなきものまるくなり 小林マリ子
夕暮れのムンクの不安みちのく秋 辻 哲子
とことこと青い鳥小鳥えのころ草 大竹 妙子
鰯雲広がっている街の朝 小澤 裕子
窓を拭き十月の空みがきゆく 笹尾 京子
日本晴影の淋しい菊人形 江口 ユキ
星月夜うすももいろの異郷なり 酒井眞知子
新婚の二人と来たり今年米 平尾 敦子
【山崎主宰の編集後記】
数学者の岡潔は、数学の本質を俳句に見出し<俳句は感覚の世界にあるのではなく、その奥の情緒の世界にあると>と云い、その理由として<感覚は刹那に過ぎないからその記憶はすぐに薄れるが、情緒の印象は時が経っても変わらない>とし、<情緒とは自他通い合う心>と断じた。
ここで云う”自他通い合う心”こそ、いつも云っている”ふたりごごろ”にほかならないと思うが、どうであろうか。 (Y)
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