【山崎主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_201510
俺のうしろ 山崎 聰
遠く来て遠く帰りぬ日の盛り
老人と老人無言青時雨
来るな来るなと言っても八月は来る
みんないて誰かがいない夏の空
沈黙の一瞬法師蝉還る
炎天の近くて遠きものばかり
木という木風という風八月忌
夏の月俺のうしろは寂しかろ
退屈な二人のかたち八月尽
慟哭のそのときまでを秋の蝉
【山崎主宰の選】
<火炎集>響焔2015年7月号より
ひとりずつおもう大きな春の月 栗原 節子
汐まねき悪童はいつもまっすぐ 森村 文子
清明や足音はわが家を過ぎて 渡辺 澄
おおよそを眠りときどき花水木 加藤千恵子
頑に莟を並べ紫木蓮 新川 敏夫
紫木蓮途中下車できないものか 田畑 京子
春の星百年先もみそっかす 金 松仙
大八洲八十八夜の句読点 岩佐 久
春の風三半規管から他人 篠田 香子
貝寄風や戦をやめて哭かないで 愛甲 知子
<白灯対談より>
瀬戸内の蛸を煮ており日の盛り 佐藤由里枝
かたつむり山の夕日へ向かいけり 大見 充子
すぐそこにいつも太陽夏休み 石井 昭子
浮世絵の昭和のいろの丸うちわ 小林マリ子
サングラスはずし小さな旅終わる 笹尾 京子
ひとつふたつみっつうかうか夏の果て 志鎌 史
涼しさは砕ける前の波の音 笹本 陽子
あんぐりと河馬の歯みがき風青し 多田せり奈
やじろべえの優柔不断熱帯夜 相田 勝子
あの夏のあの一日を千羽鶴 酒井眞知子
くろぐろと昼の運河を夏の蝶 川口 史江
白南風や哲学の道ひとりの道 浅見 幸子
歳月を真っ赤に染めてカンナ咲く 土田美穂子
勤勉と狂気のはざま蟻の列 蓮尾 碩才
麦の秋二峰筑波の座りよし 菊地 久子
梅雨深しショパンの音のなかにいて 辻 哲子
【山崎主宰の編集後記】
人は二回死ぬ、と云われる。一回目は文字通り肉体が滅びたとき、そして二回目は、その人を知った人がこの世に誰も居なくなったとき、という。
肉体の死は常識的にもよくわかるが、もっと痛切なのは、自分を知った人が誰も居なくなることである。狂おしいほど恐ろしいと思う。
先師和知喜八先生が逝って、この10月で11年になる。響焰の同人でも先生を知っている人がずいぶんと少なくなった。時代の移り変りとはいえ、淋しいことである。 (Y)
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