【山崎主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_201503
紙の舟
山崎 聰
断酒など思いもよらず神迎え
大道芸帰りてからの鵙日和
雪野雪山時代あらあらと過ぎぬ
太初から陽は燦々と去年今年
風景のうしろの景も初明り
人の日のやわらかき朝とりけもの
ものを言わねば透明になる寒暮
正月というはさびしき紙の舟
身に覚えなし列島に寒気団
すこしずつ話してごらん雪女
【山崎主宰の選】
<火炎集>響焔2014年12月号より
大正の父の恋から月見草 和田 浩一
図書館の百科辞典のなか涼し 石倉 夏生
永遠に百合のうしろの少女かな 森村 文子
十日の菊別るるに身をのり出して 渡辺 澄
雁来紅大きな曲り角の先 米田 規子
推敲を重ねし末の秋の空 松塚 大地
空ひとつ焦がして夏の終りかな 金 松仙
晩秋のいちばんうしろやじろべえ 篠田 香子
秋灯ウイスキーボンボンと太宰 田部井知子
刀なら磨ぐ月光のしずくもて 伊達 甲女
<白灯対談より>
うずくまるけもののように寒波来る 佐藤由里枝
隠れたき夕日引き止め大枯野 大見 充子
ずきずきと空澄みわたり地震のあと 多田せり奈
海暮れて砂の城より冬ざるる 石井 昭子
晩年のよそ見もすこし寒椿 志鎌 史
眠らざるものも包みて山眠る 相田 勝子
柚子熟す多分もうすぐ雨が止む 笹本 陽子
小学校までの十分紅椿 小笠原良子
さびさびと寒柝ひとびとまるくねて 小林マリ子
とめどなくピーナツ喰らい大晦日 あざみ 精
惜しみなき喝采風の中の紅葉 辻 哲子
マスク外して一日分の呼吸せり 酒井眞知子
人参のお日さまの色煮込みけり 江口 ユキ
みがいてもくもってばかり冬の空 笹尾 京子
枯野原誰かを待って昏にけり 飯田 洋子
参道のいちばん上の冬の空 平尾 敦子
冬夕日ふたつの影がぶつかり来 塩野 薫
満開にしたくて薄目冬桜 菊地 久子
【山崎主宰の編集後記】
「下手上手を気にするな、上手でも死んでいる画がある。下手でも生きている画がある」とは画家中川一政のことば。このことはそのまま俳句にも当てはまる。うまいなあと感心するが感動しない俳句は、つまりは心が見えないのである。うまいことはもちろん良いことだ。しかし本当の良さはうまさのもっと先にある。技術的には多少難があっても何か心を動かされる俳句に惹かれる。「上手は下手の手本なり、下手は上手の手本なり」と世阿弥も云っている。 (Y)
コメントを残す