【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2501
『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より
貨物昇降機(テロハ)ひとつ影を落として冬野あり
鉄橋長く黒く寒夜を童話めく
鳩が啼きいつも冬田のそこにいる子
灯る帰路顔の高さを雪飛んで
蜜柑甘くて赤いジャケツの彼がいない
鱈干され島のあたたかさの老婆
病む指が匙持つ結氷期の青空
牡蠣砕く木槌夕焼け崩れそうで
音楽光る早春の海にヨットを置き
涸れ川に雪降る眼帯の裏灯り
(昭和34年~41年)
松村 五月 抄出
【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202501
ふゆざくら 米田 規子
視野に入る古木くろぐろ冬隣
ふゆざくら電車親しき街の音
考えるいちにち冬木の芽のしずく
チキンスープ温めなおし実南天
黄金のパイプオルガン冬三日月
暮早し光が走る大東京
ひらりはらり落葉と枯葉宮益坂
冬林檎なりたい私になるつもり
昼の灯や枯葉の街のルノアール
傷もあるピアノとわたし風花す
【米田主宰の選】
<火炎集>響焔2024年10月号より
あじさいの百花に薄日無言館 和田 浩一
麦秋のしずかな午後へチャイム鳴る 栗原 節子
花柄のエプロン父の日の私 松村 五月
親子孫みんな真面目で茄子の花 蓮尾 碩才
葛切りやふと文豪の太き眉 河村 芳子
母さんのきんぴらごぼう額の花 岩佐 久
梅雨寒やしどろもどろに咲いて散り 波多野真代
故郷が透けてくるまで杏の実 山口美恵子
海を見て静かな暮らしおじぎ草 廣川やよい
水打つて隣のむすめ片笑窪 小澤 悠人
【米田規子選】
<白灯対談より>
鶏頭の赤に沈みて昼の闇 原 啓子
風の音かしのび笑いか曼珠沙華 中野 朱夏
十三夜垣根をこえる観覧版 長谷川レイ子
珈琲と「天声人語」秋深し 朝日 さき
襖絵を抜けて白鷺夕刈田 原田 峯子
眼裏に映るふるさと櫨紅葉 鷹取かんな
被災地にひかり届けて勝ち力士 伴 恵子
澄みわたる読経の声桐一葉 野崎 幾代
コンビニへ足取り軽く金木犀 櫻田 弘美
柿すだれ今日はいちにち本を読む 山田 一郎
萩晩秋石州瓦の赤い色 辻 哲子
一万八千歩お神輿に連れられて 岩井 糸子
【白灯対談の一部】
鶏頭の赤に沈みて昼の闇 原 啓子
ひとくちに「赤」と言っても様々な赤色を思い浮かべることができる。ごく普通の赤はパッと明るくて元気が出るような色だと思う。しかし掲句の〝鶏頭の赤〟は少し違う。華やかで愛らしい赤色ではなく、ほんの少し黒みがかっていて、どことなく翳があるような赤色ではないだろうか。同じ色を見てもその時の気持ちを反映して主観的な色となる。〝赤に沈みて〟の措辞に作者の重い心を感じ取ることができた。一日のうちで最も明るい真昼を作者は〝闇〟と詠んだ。〝鶏頭の赤〟と対峙して自分の心を見つめ、心象句として深い闇を表わした良い作品である。
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