響焰俳句会

ふたりごころ

響焰2025年12月号より

響焰2025年12月号より

【山崎最高顧問の俳句】縦書きはこちら→ Kaiko_2512

『海紅』 (山崎 聰 第一句集) より

愛にぶき冬はじまりて山のこえ
渚あり悴みて男の手の刃物
陽の底で母濡れ十二月八日の森
涸れ川に雪降る眼帯の裏灯り
灯は朝のかなしみばかり蜜柑山
冬夜逢い人差し指のあたたかさ
文鳥を飼い白濁の冬没陽
傷をもつもの光り合う枯木山
海鼠に眼星のまわりに空ありて
降る雪や男あらわれ女消ゆ
松村 五月 抄出

【米田名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202512

吾 亦 紅      米田 規子

鳥渡るすっきり洗う皿三枚
天高し枝をスパッと剪る鋏
字を書いて時に顔上げ昼の虫
ほんとうは叫んでみたい吾亦紅
霜降や朝の大きなマグカップ
野鳥来るとなりの柿の木たわわ柿
秋冷の鍵盤に指まるく置く
なつかしき顔あかあかと秋惜しむ
葱を提げざわざわ日暮来ておりぬ
秋夕焼楽譜に残る師のことば

【松村主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202512

晩   夏      松村 五月

今朝の秋川は静かに濡れており
踏切りの向こうにあるという晩夏
黒揚羽神にゆるされし色なれば
枯れるまで枯れる気のなし大向日葵
さびしげなひとさしゆびが指す満月
隠れるならばコスモスの揺れるころ
空蟬の風に吹かれて終いけり
口数の少ない男雨月かな
ぬばたまの夢の色なり黒揚羽
臥す父に空の高さをおしえけり

 

【米田名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2025年9月号より

梅雨入りの試着室にて若返る       石倉 夏生
父の日やふり返るたび母がいる      渡辺  澄
八十年使った手です梅漬ける       中村 克子
晩歳は風にまかせて夏帽子        大見 充子
ひらめいてどんでん返し青葉闇      岩佐  久
麦秋を横切ってより反抗期        北島 洋子
ふたりなら夕日の丘にトマトもぐ     河津 智子
蛍狩ときには黄泉のほとりまで      石井 昭子
夕闇は香りのよるべ花みかん       石谷かずよ
傷口にいつしか沁みて遠郭公       藤巻 基子

 

【松村主宰の選】

<火炎集>響焔2025年9月号より

父の日やふり返るたび母がいる      渡辺  澄
諳んじた詩はいつしか夏の雲       大見 充子
表現の自由な広場黒日傘         小川トシ子
ひらめいてどんでん返し青葉闇      岩佐  久
水打って母への手紙出しそこね      和田 璋子
アネモネ萌えて不確かな夜をひとり    河津 智子
かの人の遠くなるほど薔薇深紅      川口 史江
夕闇は香りのよるべ花みかん       石谷かずよ
傷口にいつしか沁みて遠郭公       藤巻 基子
はじまりの始まりの島夏霞        増澤由紀子

 

【松村五月選】

<白灯対談より>


少女らの夏のかたちのアシメトリィ    増田 三桃
新月や見知らぬ家へまた帰る       中野 朱夏
炎昼や都電の線路刃物めく        須藤 寿恵
小鳥来る厨の水に温度計         長谷川レイ子
包丁を研ぐ指先や水澄めり        原  啓子
知らぬ間に友は花野に行ったきり     伴  恵子
秋灯し絵本の中の鬼やさし        朝日 さき
きらきらと昭和歌謡や秋の夜       原田 峯子
水割りにペンと歳時記長き夜       野崎 幾代
遠景の山はふるさと鰯雲         鷹取かんな
鈴虫の隣に枕並べけり          山田 一郎
椿の実つるつる磨く幼き日        辻  哲子
コスモスや傘寿となりて愛されて     櫻田 弘美

 

 

【白灯対談の一部】

 少女らの夏のかたちのアシメトリィ    増田 三桃
 〝夏のかたちのアシメトリィ〟とはどういうことか。わからない。なのに、いや、だから魅かれる。〝少女〟と〝夏〟がさりげなく読者の想像を助けてくれる言葉になっている。「の」を多用して一気に詠みあげているのもこの句では成功している。
 夏を謳歌する溌剌とした少女たちなのか、それとも少し大人になって屈託を持った少女たちなのか。
 〝アシメトリィ〟というフランス語も心憎い。

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