響焰俳句会

ふたりごころ

響焰2021年11月号より

響焰2021年11月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202111

ともかくも     山崎 聰

さくらおわりいのちおわりたるおもい
朴の花遠く戦後のことなども
みちのくへ青榠樝いま無一物
夕まぐれ赤いばらのほかは見えず
ただ暑く交番前の診療所
蟬の木に蟬バビロンはいまも遠く
人声にさいごは負けて山の蟬
ともかくも生きているからきょう暑し
夏の星そのほかもみな乾きいて
人に倦み酒なつかしき夜半の秋

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202111

あおい富士       米田 規子

無音なるゴンドラ光りつつ晩夏
五線紙に音符の階段いわし雲
足りない時間ふわふわと秋の蝶
ごま油香るプルコギ夜の秋
二百十日うずたかく本積まれゆき
椿の実豪雨の中を戻り来て
水飲んで台風一過あおい富士
その先のもやもや背高泡立草
パソコンの不機嫌なる日すいっちょん
越ゆるため山は聳えて柿の秋

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年8月号より

足早に影が追い越す街薄暑        栗原 節子
ばらの薔薇色しあわせに枯れにけり    森村 文子
紫陽花の花の歳月父や母         加藤千恵子
晩節を呆と卯の花腐しかな        西  博子
雨しとどなれど恋情白あやめ       大見 充子
あっけらかんと泣いて五月の子供たち   松村 五月
闇より出でて闇を濃く白き薔薇      波多野真代
息吐いて八十八夜青白く         河津 智子
桜蕊ふる歓びと哀しみと         川口 史江
白という色もいろいろ薔薇の白      北川 コト

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年8月号より

梅雨月夜森はゆっくり動き出す      栗原 節子
蛇逃げて山に向かって海に出る      渡辺  澄
短夜の覚めて双手の置きどころ      山口 彩子
シネマ果つ赤い椿のひらく音       河村 芳子
あめんぼと同心円の闇にいて       あざみ 精
ひと時の慟哭もありつつじ山       蓮尾 碩才
空とおくふたりの時の桐の花       小川トシ子
山桜その一本の灯るとき         大森 麗子
いくつも傷を持ち樟若葉の中       廣川やよい
竹皮を脱ぎいっさいは夢のゆめ      北川 コト

<白灯対談より>

耳ふたつ明るく覚めし竹の春       吉本のぶこ
錠剤の転がるはやさ夏了る        島 多佳子
手で割れば心すっぱく青りんご      小林 基子
立秋や風の奏でるアルペジオ       小澤 什一
姉少し弟さける祭の夜          齋藤 重明
一つ葉の影濃くひとりずつ消える     石谷かずよ
もくもくと雲八月の沈黙す        加賀谷秀男
噴水は高く人間疲弊して         平尾 敦子
新築の家に届きて夏の月         金子 良子
真っ白なタオルに替わり今朝の秋     浅野 浩利
蝸牛オランダ坂は雨の中         鹿兒嶋俊之
秋近し老先生の蝶ネクタイ        佐藤千枝子

【白灯対談の一部】

 耳ふたつ明るく覚めし竹の春         吉本のぶこ
 よく知られていることだが、俳句では〝竹の春〟が「秋」、「竹の秋」が「春」の季語だ。初歩的知識として覚えよう。
 秋になって辺りの木々が色付いてくるころ、竹は緑鮮やかな色合いを見せる。また竹の葉のさわさわと云う風の音も聞こえるようだ。
 掲句の始まり〝耳ふたつ〟がとても印象的で次への展開に期待を抱く。〝耳ふたつ明るく覚めし〟の措辞に作者の今の健やかさを思う。またこの措辞は、理屈ではなく感覚で直感的に捉えたものではないだろうか。この句は〝耳ふたつ〟をクローズアップしているが、作者は全身で秋を感じている。大変さわやかな作品である。

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