【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202312
秋はじめ 山崎 聰
すこしだけ前に出ようか五月雨
光昏の夜明けくるらし夏はじめ
ここらあたりいつしか夏もおわりけり
つと音止みぬ海猫の帰りしあとの闇
山高く八月のわが誕生日
台風下これまでのことさまざまに
あらたのし子馬ぽくぽく秋の空
とうきょうは黒雲の下赤とんぼ
鬼が棲む紅葉の山のむこうがわ
筆よりも眼鏡たいせつ文化の日
【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→SShusai_Haiku_202312
渋谷まで 米田 規子
天の川着てゆく服が決まらない
ひんやりと喉すべる酒菊日和
種なしの柿やわらかく老いこわく
ミステリアスに装いて曼珠沙華
月光つめたく白磁のティーポット
明日を憂いて椿の実のごつごつ
個性派の冬瓜ダンディから遠く
おろおろと来て秋の蚊の殺気かな
泡立草わっさわっさと渋谷まで
背後から十一月の風の音
【山崎名誉主宰の選】
<火炎集>響焔2023年9月号より
一椀の粥の温もり昭和の日 和田 浩一
吊橋の消えているなり春の夢 渡辺 澄
炎昼の果てかマチスの赤い部屋 松村 五月
空き缶を蹴って男の黒日傘 和田 璋子
父の日や少し崩れて目玉焼 小川トシ子
遊ぼうと夜の金魚に誘われて 秋山ひろ子
マスクはずし六月の貌緩む 佐々木輝美
ある日ふと青がくすんで七月来 山口美恵子
炎天をきて炎天の己が影 中野 充子
どこまでも青田のつづく月明り 浅野 浩利
【米田主宰の選】
<火炎集>響焔2023年9月号より
十薬の一気に咲いてわが齢 栗原 節子
噴水や午後はうしろが見たくなる 渡辺 澄
荒野あり炎天もある余生かな 中村 克子
炎昼の果てかマチスの赤い部屋 松村 五月
さびしらの夕虹は母の残像 大見 充子
桜桃忌跨線橋から見る夕日 蓮尾 碩才
父の日や少し崩れて目玉焼 小川トシ子
讃美歌のような夕闇蕎麦の花 戸田富美子
教会は林の中に風薫る 楡井 正隆
おかあさんわたしを忘れゆすらうめ 廣川やよい
【米田規子選】
<白灯対談より>
百日紅老いることなど知らないわ 牧野 良子
蟬時雨五百羅漢に千の耳 増澤由紀子
無芸なり共に老いたる猫との夏 酒井 介山
黒ぶどうひと粒ごとに里の風 長谷川レイ子
秋暑し表面温度のすれ違う 池宮 照子
秋の風翅あるものに優しくて 横田恵美子
傘の上のトレモロ激し雹の昼 中野 朱夏
毛筆の文読む良夜ははの声 辻 哲子
【白灯対談の一部】
百日紅老いることなど知らないわ 牧野 良子
〝百日紅〟の句はこれまで数多く読み、毎年作句にも挑戦しているのだが掲句のような発想に至ったことがなかった。炎天下にひと夏を咲き続ける〝百日紅〟は美しいと云うよりその力強さに感動し、「暑さに負けずがんばっているね」と声をかけたくなる花だ。
作者は私と同世代の七十代である。どういう想いで、〝百日紅〟を眺めたのだろうか。老いとの闘いはすでに始まっているのだ。しかし、きっと作者は生きることに前向きな人だと思った。中七下五〝老いることなど知らないわ〟と云う強烈な措辞が痛快だ。思わず「いいね!」と親指を立てた。口語調で軽やかに詠っているのも効果的だ。この句を読んで励まされたのは私だけだろうか。元気の出る作品だった。
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