響焰俳句会

ふたりごころ

響焰2021年1月号より

響焰2021年1月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202101

亡  国    山崎 聰

夕焼けに突き当りたる牛の顔
亡国の石垣蜥蜴這い出でて
ふつうの日のふつうのくらし放屁虫
朝日影釣られて山女石の上
秋は来にけり捨てられて薬包紙
月の砂漠ああいもうとよおとうとよ
蛇穴へもののふの覚悟にも似て
あまつさえ月夜の街の人だかり
生涯のもうすこし先秋の虹
満月をさびしとおもう休暇明け

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202101

風 に 聞 く     米田 規子

さわやかに会い信州の赤ワイン
ゆらゆらと過去のまぶしく紅葉川
恙なしことに日影の実千両
桜紅葉橋わたるときふと未来
チンゲンサイさくさく切って朝の冷
風に聞くこれからのこと木守柿
鍋と笊どちらも光り冬隣
冬灯しひとりの大工独りの音
望郷のその夜耿耿ずわい蟹
冬の日の十指すこやかリスト弾く

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年10月号より

廃校の時計は三時雲の峰         石倉 夏生
ぼんやりと人間だから星祭り       森村 文子
行列のどこからどこへ寒い夏       加藤千恵子
兜虫死んで少年またひとり        中村 克子
静かなるやさしさに居て青林檎      河村 芳子
涼し夜の眠りの中を深海魚        大見 充子
青空から少年の声さくらんぼ       波多野真代
海を濡らして海の日の鳶の声       秋山ひろ子
対岸の灯りみている青蛙         鈴木 瑩子
未来図は曲線あまた天の川        石井 昭子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年10月号より

叫びたき半夏のマスク叫ばざる      和田 浩一
名画座を出る此の世も大夕立       石倉 夏生
くちなしの花ざわめいているあたり    栗原 節子
いちどだけ浴衣の母が振り向いて     森村 文子
梅雨長しかくして人は老いにけり     渡辺  澄
鍵を置く音して去れり黒揚羽       中村 克子
お三時は雨の匂いの水羊羹        松村 五月
蜘蛛の巣にきょうは蜘蛛いる晴れ間かな  波多野真代
高く跳ぶための踏切夏の恋        戸田富美子
七月七日会いにゆくのに傘さして     秋山ひろ子

<白灯対談より>

秋燈下手紙の中に嘘ひとつ        横田恵美子
ためらいありて椿の実つややかに     小澤 什一
秋落暉追われるように走るなり      加賀谷秀男
秋声を聴くコバルト色の陶器       小澤 什一
たっぷりの乾物もどし敬老日       金子 良子
彼岸花群れて昭和の一家族        佐藤千枝子
稲架襖村の東に小学校          相田 勝子
身の内をサイレン通る夜寒かな      加賀谷秀男
芒原つばさはいつも風まかせ       牧野 良子
秋祭いにしえびとの力石         原田 峯子
捨てし夢ほのと紅色夕すすき       小林 基子
ほつほつと初穂の素揚げ花開く      石谷かずよ
葡萄一粒ひとつぶの底力         森田 成子
冬青空母に呼ばれて産まれたり      吉本のぶこ

【白灯対談の一部】

 秋燈下手紙の中に嘘ひとつ        横田恵美子

〝秋燈〟は秋のひんやりと澄んだ夜気のせいか、趣深く清澄な雰囲気を持つ。気持ちの良い秋晴れの一日が終り、〝秋燈下〟誰かに〝手紙〟を書いているのだろうか。掲句は〝手紙〟を読んでいるのではなく、書いているところだと思って鑑賞した。いろいろなことを書くうちに小さな〝嘘〟も〝ひとつ〟加わった。この〝嘘ひとつ〟という措辞にちょっとした意外性がある。作者の心の機微に触れることができ、平凡から抜け出した。なにげない結句の〝嘘ひとつ〟が面白い。

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