【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202302
いつしか 山崎 聰
関東に大雨警報かたつむり
蝶とんぼしきりにとんで大埠頭
夾竹桃咲いていつしか父のこと
誰にも会わずいっせいに蟬が鳴く
亡き人を思いいわし雲の彼方
そうかそうかとうなずいている虫の夜
落日をさいごまで見て灯の街へ
すこし寒くなって東京の路地の奥
ひとりであるくあたたかい日の落葉みち
駅を出て港の方へ冬帽子
【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202302
ポインセチア 米田 規子
落葉踏むむかしのはなし美しく
あかるいほうへ大きく曲がり冬の川
渋柿の渋抜けるころ日本海
はじまりはスローバラード冬景色
冬のガーベラ精いっぱいのわたし
冬至南瓜こっくり煮えて母の笑み
背中押す見えない力冬木立
ポインセチア燃えほろ苦き帰り道
降誕祭むすこが作るビーフシチュー
愛がまだくすぶっている枯木山
【山崎名誉主宰の選】
<火炎集>響焔2022年11月号より
愁思とは沼を動かぬ雲一片 石倉 夏生
舟が来てみな舟に乗る八月よ 森村 文子
赤トンボひと日ひと日を旅として 加藤千恵子
八月は手足の長い影である 松村 五月
掃苔や向き合えばなお風の音 河村 芳子
はじけ飛ぶのは哀しいから鳳仙花 波多野真代
真ん中に不条理がおり夏の雲 蓮尾 碩才
少年にかかえきれない夏終る 石井 昭子
甚平の背ナ追いかけて夢の中 川口 史江
夏蝶の波に溶けゆく夕間暮れ 中野 充子
【米田主宰の選】
<火炎集>響焔2022年11月号より
満月をよぎる柩の孤影かな 石倉 夏生
充実の色となりたる茄子の紺 栗原 節子
舟が来てみな舟に乗る八月よ 森村 文子
赤トンボひと日ひと日を旅として 加藤千恵子
戦争の気配蠅叩買い替える 中村 克子
酔芙蓉拠りどころなき今日であり 松村 五月
虫籠の光を逃がす夜の底 蓮尾 碩才
炎天や一方的にせめてくる 小川トシ子
亡き人の日々に濃くなり夏の月 戸田富美子
守宮来る入院の日の軒先に 浅野 浩利
【米田規子選】
<白灯対談より>
秋風に押されて入る西洋館 牧野 良子
時雨るるや代わる代わるに父母の声 池宮 照子
手を広げ海の半円抱く秋 伴 恵子
一歩ずつ宮益坂をうすもみじ 金子 良子
夕暮の白く冷たき葱一本 原 啓子
この国の戦後いつまで秋夕焼 菊地 久子
モーツァルト神は花野に棲み給う 中野 朱夏
野の花はやさしい色に一葉忌 朝日 さき
【白灯対談の一部】
秋風に押されて入る西洋館 牧野 良子
去る十月二十七日、横浜にある神奈川近代文学館で三年ぶりの「白秋会」が開催された。コロナ禍以降さまざまな行事を中止していたので、久しぶりの再会に皆の気持ちが弾んだ。
その日は秋晴れで吟行には最高の日和だった。「港の見える丘公園」をはじめとして、外人墓地や西洋館など異国情緒あふれる街並を吟行した。ブラフ十八番館、エリスマン邸、外交官の家などの西洋館は歴史ある建物なので重厚な感じが漂う。何度訪れても西洋館とその周辺の雰囲気に魅了される。
掲句はまさに「白秋会」での吟行句だ。私が注目したのは〝押されて入る〟と云う措辞だ。単に〝秋風〟が作者の背中を押したのではない。西洋館の敷居が高かったとも思えないのだが、なにか一瞬のためらいがあったようだ。作者は自ら入ったのではなく〝秋風に押されて〟入ったような感覚だったのだ。その感じを捉えて即座に一句作ったのではないか。吟行句としても、また吟行を離れても立派に成り立つ作品だと思う。
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