響焰俳句会

ふたりごころ

響焰誌より

響焰2021年12月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202112

卒   寿     山崎 聰

夕ざくらいのちのおわりたるあとも
彼彼等そしてわれらも卯月波
刃物よりことばの光る五月かな
東京を出るときひとり桐の花
蚊も蠅も壁に眠りて夜の地震
ひとり居のいちにち長し朴の花
八月某日卒寿というはさびしかり
蟬の木に蟬があつまり子とろ唄
空高く水かげろうの立つあたり
流星の落ちゆく先は彼の世とも

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202112

山  粧  う       米田 規子

体温計ピピピッ秋気澄みにけり
さみしさを束ねて真っ赤唐辛子
真実を見つめる勇気鵙猛る
マロングラッセむかしの恋の甘さかな
晩秋を大きく揺らしモノレール
竜淵に潜み医師の目わたしの目
同意書に名前を太く秋桜
肉じゃがの煮上がる匂い野分あと
一枚の壁に塞がれ鉦叩
甘んじてしばし休息山粧う

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年9月号より

騙し絵の廻廊に居り五月闇        石倉 夏生
すでに夏見えないものの見えぬまま    栗原 節子
うしろから夜が来ており濃紫陽花     加藤千恵子
青時雨たそがれはハイネのように     大見 充子
スカーレット・オハラあるいは夏の山   松村 五月
ふだん着のにおいのように梅雨が来る   波多野真代
生国はさびさびとして朱夏のころ     河津 智子
蛍袋夢の途中で夢を見て         石井 昭子
どこからか父青山椒をゆでたとき     笹尾 京子
今はただ旅人として夏の霧        廣川やよい

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年9月号より

米田規子主宰はお休みです。

【加藤千恵子光焰集作家の選】

<白灯対談より>

整いゆくオカリナ少しずつ秋       島 多佳子
小気味よき小豆の音や小笊振る      鹿兒嶋俊之
山のあなたへ長月のバラライカ      齋藤 重明
あなどれぬ女のちから梨を剥く      金子 良子
紫苑ゆれこんぺいとうのまるきとげ    小澤 什一
可惜夜に耳そばだてて風の萩       小林 基子
星月夜大航海の始まれり         加賀谷秀男
ワクチンを打って西瓜のよく冷えて    池宮 照子
東雲をひそやかに露草の羽化       石谷かずよ
秋日のどこへも行かずたれも来ず     浅野 浩利
煮凝りに灯の入るごとし寺山修司     吉本のぶこ
星月夜人影うかぶカフェテラス      佐藤千枝子
鰯雲犬といる時ついてくる        牧野 良子

 

【白灯対談の一部】

 整いゆくオカリナ少しずつ秋       島 多佳子
 先ず、破調ではあるがその違和感が全くな作品と思う。手の平で小鳥を包むようにして吹くオカリナの澄んだ音色は心が洗われるようだ
 掲句は、一句の背景となるものを一切語っていない。〝整いゆく〟の措辞が、眼目であり、鍵でもあろう。いくつかの景が考えられるが、読み手としては、悩むところであり、たのしむところでもある。
 〝整いゆく〟、〝少しずつ〟と時の流れを見せた表現も、魅力的であり、透明感のある佳句だと思う。
 本当は、近づいて来る秋の気配が、オカリナの音色を、整えているのかも知れぬ。

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響焰2021年11月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202111

ともかくも     山崎 聰

さくらおわりいのちおわりたるおもい
朴の花遠く戦後のことなども
みちのくへ青榠樝いま無一物
夕まぐれ赤いばらのほかは見えず
ただ暑く交番前の診療所
蟬の木に蟬バビロンはいまも遠く
人声にさいごは負けて山の蟬
ともかくも生きているからきょう暑し
夏の星そのほかもみな乾きいて
人に倦み酒なつかしき夜半の秋

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202111

あおい富士       米田 規子

無音なるゴンドラ光りつつ晩夏
五線紙に音符の階段いわし雲
足りない時間ふわふわと秋の蝶
ごま油香るプルコギ夜の秋
二百十日うずたかく本積まれゆき
椿の実豪雨の中を戻り来て
水飲んで台風一過あおい富士
その先のもやもや背高泡立草
パソコンの不機嫌なる日すいっちょん
越ゆるため山は聳えて柿の秋

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年8月号より

足早に影が追い越す街薄暑        栗原 節子
ばらの薔薇色しあわせに枯れにけり    森村 文子
紫陽花の花の歳月父や母         加藤千恵子
晩節を呆と卯の花腐しかな        西  博子
雨しとどなれど恋情白あやめ       大見 充子
あっけらかんと泣いて五月の子供たち   松村 五月
闇より出でて闇を濃く白き薔薇      波多野真代
息吐いて八十八夜青白く         河津 智子
桜蕊ふる歓びと哀しみと         川口 史江
白という色もいろいろ薔薇の白      北川 コト

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年8月号より

梅雨月夜森はゆっくり動き出す      栗原 節子
蛇逃げて山に向かって海に出る      渡辺  澄
短夜の覚めて双手の置きどころ      山口 彩子
シネマ果つ赤い椿のひらく音       河村 芳子
あめんぼと同心円の闇にいて       あざみ 精
ひと時の慟哭もありつつじ山       蓮尾 碩才
空とおくふたりの時の桐の花       小川トシ子
山桜その一本の灯るとき         大森 麗子
いくつも傷を持ち樟若葉の中       廣川やよい
竹皮を脱ぎいっさいは夢のゆめ      北川 コト

<白灯対談より>

耳ふたつ明るく覚めし竹の春       吉本のぶこ
錠剤の転がるはやさ夏了る        島 多佳子
手で割れば心すっぱく青りんご      小林 基子
立秋や風の奏でるアルペジオ       小澤 什一
姉少し弟さける祭の夜          齋藤 重明
一つ葉の影濃くひとりずつ消える     石谷かずよ
もくもくと雲八月の沈黙す        加賀谷秀男
噴水は高く人間疲弊して         平尾 敦子
新築の家に届きて夏の月         金子 良子
真っ白なタオルに替わり今朝の秋     浅野 浩利
蝸牛オランダ坂は雨の中         鹿兒嶋俊之
秋近し老先生の蝶ネクタイ        佐藤千枝子

【白灯対談の一部】

 耳ふたつ明るく覚めし竹の春         吉本のぶこ
 よく知られていることだが、俳句では〝竹の春〟が「秋」、「竹の秋」が「春」の季語だ。初歩的知識として覚えよう。
 秋になって辺りの木々が色付いてくるころ、竹は緑鮮やかな色合いを見せる。また竹の葉のさわさわと云う風の音も聞こえるようだ。
 掲句の始まり〝耳ふたつ〟がとても印象的で次への展開に期待を抱く。〝耳ふたつ明るく覚めし〟の措辞に作者の今の健やかさを思う。またこの措辞は、理屈ではなく感覚で直感的に捉えたものではないだろうか。この句は〝耳ふたつ〟をクローズアップしているが、作者は全身で秋を感じている。大変さわやかな作品である。

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響焰2021年10月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202110

おらが村     山崎 聰

植田一枚ずつの明るさみちのくへ
雲雀の野二人三人放たれて
ででむしの這いたるあとのなみだいろ
さはさりながら冷奴崩しいる
土用丑の日越後から人ひとり
終戦の日という日ありああ昭和
東京炎暑あつまってすぐ別れ
観音の森をはなれて炎天へ
柿青く水湧き出づるおらが村
飴なめている終戦の日の落日

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202110

朝 の 蟬       米田 規子

ポニーテールに大きなリボン夏休み
さりながら朝のルーティン青芒
雨のち炎暑もみほぐす足の裏
風従えて捕虫網の男の子
こころの襞に百日紅のきょうの色
冷蔵庫の開閉の数星の数
一人になりたい日ワシワシと朝の蟬
箸の色それぞれ違い盆の月
樹の幹の骨格あらわなる晩夏
コーヒーを淹れる三分秋のこえ

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年7月号より

母とおとうときさらぎの野に消える    栗原 節子
あいまいに増えてゆくなり花ポピー    森村 文子
生きているかと桐の木に桐の花      加藤千恵子
さくらさくら水の中なる舞扇       大見 充子
ものを食う手があり春はさみしかろ    松村 五月
原っぱの不思議なとびら一年生      小川トシ子
緑陰の闇にひかりも奥の奥        河津 智子
春の暮さみしそうなるくすり指      鈴木 瑩子
この道を誰と行っても春の海       笹尾 京子
ひょうびょうともののふの色桐の花    廣川やよい

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年7月号より

木立から桜いきなり名乗り出る      石倉 夏生
早春やせせらぎに沿う春の径       栗原 節子
花木蓮よってたかって散るごとく     森村 文子
残響のしばし身のうちおぼろ月      山口 彩子
生きているかと桐の木に桐の花      加藤千恵子
目を伏せて人すれ違う朧の夜       西  博子
この道へ呼ばれたようで花菫       河村 芳子
ものを食う手があり春はさみしかろ    松村 五月
東京を忘れとうきょう花に雨       河津 智子
春三日月いつもの席で待つことに     廣川やよい

<白灯対談より>

堰を超す水の曲率夏来る         齋藤 重明
ボーカルの小指のリング晩夏光      島 多佳子
彼のシャツの裾をつまめる晩夏かな    小澤 什一
精神の大きな戦ぎ夏来る         小林 基子
梅雨雲の果て金色のアルカディア     石谷かずよ
男気は夾竹桃の咲くあたり        加賀谷秀男
あけび割れ旧街道にジェット音      吉本のぶこ
大西日ふるさと行きのバスが発ち     浅野 浩利
父の忌や有田の皿のさくらんぼ      金子 良子
瑠璃ごしに聴く雨の音夏座敷       佐藤千枝子
口蓋の火傷に気づき夜の秋        池宮 照子
老犬とゆくふたつ目の片蔭        牧野 良子

【白灯対談の一部】

 堰を超す水の曲率夏来る        齋藤 重明
 一読、勢いよく〝堰を超す〟水の音やキラキラ光る水の流れるさまが映像のように現れる。
 「立夏」は陽暦の五月六日頃、ちょうどゴールデンウィークが終わる頃でもあり、新緑の光や風が大変気持ちの良い季節だ。〝夏来る〟と云う季語にはそんな明るさもあり、作者の心の弾みを感じる。
 掲句の〝堰を超す水の曲率〟と云う表現はやや固いのではと思ったが、〝水の曲率〟は作者にとって最も大切な措辞で、読み手も〝水の曲率〟と云う捉え方に作者の個性を感じ取るのだ。
 男性的な感性で作られた〝夏来る〟の一句に感服した。

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響焰2021年9月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202109

まだ早い     山崎 聰

ざわざわと青虫毛虫雨のあと
葉ざくらを青しとおもうきのうきょう
加齢してさくらが散って山残る
ただあるく葉ざくらの闇ただ歩く
梅雨の月いつもの靴でみちのくへ
あっけなく五月がおわり雨と風
鯉のぼりふたり並んで手を振って
卯波夕波ロシアから二人来る
父の日の父いる部屋のくらいところ
梨を食い生前葬はまだ早い

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202109

いっしんふらん       米田 規子

木を伐って青空と雲夏はじめ
胸底に沈むポエムよ青山河
しんかんと卓の主役の梅雨鰯
六月の森の深さをベートーヴェン
おくれ毛のくるんと二歳麦の秋
きのう今日いっしんふらん雲の峰
短夜のははの指輪のキャッツアイ
七夕やおとこは睡りむさぼりて
陽は重くぼってり咲いて黄のカンナ
夕映えのステンドグラス揚羽蝶
八月や波打際をちちに蹤き

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年6月号より

騙し絵の裏は真つ暗霾れり        石倉 夏生
ざわめいて弥生三月おわりけり      栗原 節子
遠ざかるもの遠くなり雛祭り       森村 文子
水ぬるむ翳せば濁りあるいのち      山口 彩子
土筆摘むわが身の影を摘むごとく     大見 充子
花冷えや英国式の午後一時        松村 五月
春よ海ほどに淋しいものはない      波多野真代
春北風言葉を紡ぐように川        小川トシ子
水飲んですこし笑って着ぶくれて     河津 智子
春の川ときどき過去の流れきて      北川 コト

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年6月号より

とっぷり暮れて本所深川戦災忌      和田 浩一
ざわめいて弥生三月おわりけり      栗原 節子
北窓開く紙と鉛筆音をたて        渡辺  澄
啓蟄や人の匂いにまだ触れず       山口 彩子
東京メトロひっそりと春ショール     加藤千恵子
まどろめば星の音して初桜        大見 充子
春二番むすんでひらいてこの命      鈴木 瑩子
目に見えぬものを包みて春の空      楡井 正隆
水底にしんと日をおく紅椿        中村 直子
晩節と弥生三月花鋏           北川 コト

<白灯対談より>

流蛍や伽藍に琵琶のかわく音       小澤 什一
マチネ跳ね緑雨きらきら交差点      小林 基子
梅を漬け巨船まっかに進み来る      吉本のぶこ
やもりきれいひっそり卵産み終えて    石谷かずよ
泣きそうな空花楓のうす明り       鹿兒嶋俊之
浮雲や麦秋の波遠ざかり         加賀谷秀男
船便の椅子ひとつ待ち夏木立       佐藤千枝子
木漏れ日に柿の花揺れふと加齢      浅野 浩利
ペガサスのやわき着水麦の秋       齋藤 重明
先見えぬ世をまっすぐに蝸牛       横田恵美子
梅雨湿り隣の窓に猫のかお        北山 和雄
ふるさとと同じ夕焼け下校どき      金子 良子
水にある水の明るさ花菖蒲        黒川てる子

【白灯対談の一部】

 流蛍や伽藍に琵琶のかわく音      小澤 什一
 この句は、やや古風な趣きを持ち、非日常的な雰囲気の漂う俳句だ。
 右から左から、美しい光の流線を自在に描きながら飛ぶ蛍。一方で〝伽藍〟から〝琵琶のかわく音〟にも心を奪われる。〝琵琶のかわく音〟と云う把握が〝流蛍〟の動きと相俟ってなにかもの悲しい情感が生まれる。それは寂び寂びとした絵巻物を見る心地である。
 私たちは普段身の回りの空間や時間の一部を切り取って、それを俳句のきっかけとすることが多いのだが、この句は日常を抜け出した環境の中で詩の世界を摑んだ作品と思う。
 同時発表の<讃美歌の届いてアガパンサスの庭>にも共鳴。

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響焰2021年8月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202108

一人去る     山崎 聰

朝の霜立ち止まったりしゃがんだり
こころやさしき人と話しぬ名残り雪
雪割草信念はたちまち消えて
春の嵐三人で来て一人去る
映画のように小声で話し春の夜
けものみちらしさくらおわりたるあとは
いうなれば蟄居四月がおわりゆき
叱られている葉ざくらのまんなかで
いちにちはやはりいちにち春の夕焼け
君と僕彼と彼女の青林檎

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202108

旅 遥 か       米田 規子

木を伐って青空と雲夏はじめ
アップダウンいつもの小径海紅豆
小判草夕日の無人直売所
よろこんでくれる人いる桃熟れる
梅酒の琥珀雨音にねむる夜
旅遥かベルガモットの花に虻
つゆの晴れ奥に富山の置き薬
まず外す大きなマスク木下闇
これからも安全な距離冷奴
連弾の息を合わせてアガパンサス

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年5月号より

日向ぼこ不要不急の二人なり       石倉 夏生
歳月のうすくらがりに紅椿        栗原 節子
切手よりこぼるる光山笑う        山口 彩子
三寒の三日臥せれば加齢して       西  博子
すかんぽや夕映えは夢の入口       大見 充子
風になるまで漂っている落葉       松村 五月
長居してそろそろ亀の鳴く頃か      相田 勝子
疲れては睡りさめてはもう立春      河津 智子
ものの影ものをはなれて初蝶よ      石井 昭子
ペン先のたとえば春の痛みかな      北川 コト

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年5月号より

野火の奥に金閣寺否本能寺        石倉 夏生
大枯野百年を経て誰に会う        森村 文子
臥龍梅今朝は兜太の庭として       山口 彩子
うすらいや夕べかぞえし星の数      加藤千恵子
寒戻る顔のマスクに赤い花        岩佐  久
すかんぽや夕映えは夢の入口       大見 充子
風になるまで漂っている落葉       松村 五月
男体山をどっしり背負い桑芽吹く     和田 璋子
曖昧なものはそのまま冬至の湯      蓮尾 碩才
だまし絵のごとき正月犬もいて      小川トシ子
過ぎし日のおもさ加わり牡丹雪      大森 麗子

<白灯対談より>

八百義の屋号の墨痕つばくらめ      小林 基子
筆おいて誰にも深き緑の夜        石谷かずよ
つまずいて思わぬ暗さ夕若葉       佐藤千枝子
滝壺を出でざる水の青けむり       吉本のぶこ
田水澄み風の生まれる朝かな       浅野 浩利
だれよりも青空仰ぎ朝桜         加賀谷秀男
はつなつや色とりどりに瓶の砂      小澤 什一
柿若葉補助輪とれてとなりの子      原田 峯子
目玉焼の歪な二つ走り梅雨         畑  孝正
三月や護岸に亀の甲羅干し        鹿兒嶋俊之
交差する折れ線グラフ蝶の恋        池宮 照子
夜の薔薇だれも知らない物語       牧野 良子

【白灯対談の一部】

 八百義の屋号の墨痕つばくらめ      小林 基子
 骨組みのしっかりとした俳句で過不足のない一句。
 この句は、何代か続いた大きな八百屋の〝屋号〟に注目して作句したと思われる。〝屋号の墨痕〟と云う措辞に当時の様子が偲ばれる。今はもう古びて文字もかすれ、昔のような賑わいはないのだろう。
 掲句は体言のみで表現された句で無駄がなく、イメージが鮮やかだ。結句〝つばくらめ〟が生き生きとした動きと明るさをもたらしてくれる。また余韻の広がりがある。
 日夜、俳句作りに努力を重ねている作者の佳句と思う。
 同時発表の<野遊びの後ろ姿の暮れなずむ>にも共鳴。

(さらに…)

響焰2021年7月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202107

ひそひそ     山崎 聰

思い出のように雪降り峡住まい
終演のあとのひそひそ雪夜道
どこまでもさびしい時間雪野原
かの山雪か銀座界隈漫歩して
東風あと北風に谷の村
三月さくらこえを出さねばさびしくて
遠くまで男を攫い春北風
尽きることなき三月の峡の水
冬おわり春が来ていつもの畦道
極北の人を思いてやまざくら

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202107

夏  燕       米田 規子

囀りやからだを巡る朝の水
あっさりと予定の消ゆる春の雷
マスキングテープに木馬五月来る
青嵐抱えきれない本の嵩
創造は想像ももいろオキザリス
静寂に揺れるカーテン若葉寒
あのころのははのしあわせ花みかん
籠もり居のふくらむ時を夏燕
ひとりとは青葉若葉の風の音
開催は未定てんとう虫飛んだ

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年4月号より

ひらがなの音を踏みしめ落葉道      石倉 夏生
十二月八幡宮の裏へ出て         栗原 節子
冬いちご日々やわらかきたなごころ    加藤千恵子
もろもろの影の蠢く大枯野        中村 克子
寒満月ガレの佳作と思うべし       大見 充子
一月や地図のとおりに川流れ       松村 五月
にんげん凍てて限りなく来るあした    河津 智子
元朝にしろいもの干すしろい人      笹尾 京子
ヴィーナスの腕をさがして去年今年    小林多恵子
東風吹くや理由などなく少年と      北川 コト

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年4月号より

体内に迷宮のあり寒夕焼         石倉 夏生
大枯野百年を経て誰に会う        渡辺  澄
開戦日残る枝葉の真紅          山口 彩子
ほどほどの未来を買えり達磨市      中村 克子
2021冬の煙は垂直に         松村 五月
人日のひとしれず散るちいさき花     波多野真代
曖昧なものはそのまま冬至の湯      蓮尾 碩才
にんげん凍てて限りなく来るあした    河津 智子
冬深し遠いところで火が爆ぜて      秋山ひろ子
カフェラテと子規碧梧桐十二月      北川 コト

<白灯対談より>

郭公の声の真水を手に掬う        吉本のぶこ
花楓祖父の形見の葉巻切         小澤 什一
落椿太平洋へ惜しみなく         小林 基子
ラウンジの大窓を消し花吹雪       佐藤千枝子
おおかたは空ひと群れの桜草       石谷かずよ
ゆっくりと別れを惜しみ飛花落花     加賀谷秀男
軸足に力三月のど真ん中         平尾 敦子
沈丁花香り出したるわかれ道       牧野 良子
春落葉どこかにひとつ忘れもの      浅野 浩利
しわ多き漱石の脳花の冷         金子 良子
風そっと髪なでてゆく目借時       横田恵美子
北窓を開きシニアの卓球会        増澤由起子

【白灯対談の一部】

 郭公の声の真水を手に掬う        吉本のぶこ

 俳句を作ろうとする時には、ふだんから周囲にアンテナを張り巡らせ、五感をはたらかせることが大切だと思う。

 掲句〝郭公の声の真水〟と云う把握は、感性を研ぎ澄ませていないと摑めないフレーズで透明感があり、大変美しい。特に〝郭公の声〟を聞いてそれを〝真水〟に転換したところは巧みであり、この句の眼目だ。

(さらに…)

響焰2021年6月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202106

さくらのあと     山崎 聰

雨の夜はとろりとろりと榾明り
冬眠の百日あまり父と母
つと加齢また雪が降りすぐ止んで
灯の先に少年少女春はいつ
きのうきょう藁屋に籠り木の芽雨
もうすこし待って菜の花ひらくまで
圧倒的多数といえば春の星
よもすがらちちよははよと春の雷
なにもせず何も起らず春の地震(ない)
老後か死後かさくらのあとの静寂か

 

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202106

リラの冷え       米田 規子

はげましの声とも思い花菜風
考えるためにペン置き朧かな
もったいないような晴天蕗を煮る
マスクして桜いちばんきれいな日
ひと日籠もれば一つ年取り草の餅
漆黒のアボカドやわく菜種梅雨
リラの冷え人を想いて書く手紙
考える悩む竹の子茹でている
ゴールデンウィーク切手の青い鳥
濃厚なチーズケーキと若葉風

 

 

【山崎名誉主宰の選】(赤字は山崎先生の添削)

<火炎集>響焔2021年3月号より

すこしずつ毀れる気配年の果       栗原 節子
いっさいは見えぬ重さの初詣       渡辺  澄
どの家も誰かを待ちて冬灯        中村 克子
凍空のどこを切っても異邦人       大見 充子
セロファンに包まれている聖夜かな    松村 五月
記憶の色はより白くシクラメン      波多野真代
無頼派の匂いを余す帰り花        相田 勝子
どの道も二十四色冬日和         楡井 正隆
十二月拳を握る赤ん坊          森田 成子
何もなかったように冬の白波       廣川やよい

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年3月号より

根深汁とどのつまりは二人なり      石倉 夏生
さっきからここにいる山茶花のように   森村 文子
混沌とやまとまほろば雪ばんば      加藤千恵子
やすんじて母のふところ木の実落つ    西  博子
眼裏をさまよっている萩すすき      あざみ 精
記憶の色はより白くシクラメン      波多野真代
木枯し一号名声は塵に似て        蓮尾 碩才
ゆっくりと染まる晩年室の花       小川トシ子
小包みのかすかに雪の匂いして      秋山ひろ子
朴落葉仇のごとく哭くごとく       北川 コト

<白灯対談より>

人生を語りだすチェロ春の宵       石谷かずよ
朧月何かが見えてあと無言        浅野 浩利
6Bで描く耳たぶ日永かな        小林 基子
ユトリロをモネに掛け替え菜種梅雨    小澤 什一
麦踏やいのちに触れる足の裏       加賀谷秀男
はくれんの直立不動外科病棟       金子 良子
釣糸にたゆたう光春惜しむ        佐藤千枝子
大くさめ微動だにせぬ八ヶ岳       畑  孝正
かりそめの紅はじきあいさくらんぼ    吉本のぶこ
残りたる月日を数え桜餅         齋藤  伸
春兆すアンパンマンの園児バス      横田恵美子
行く春のけんけんぱあの石畳       鹿兒嶋俊之

【白灯対談の一部】

 人生を語りだすチェロ春の宵       石谷かずよ

 ヴァイオリンもピアノも或いはサックスやフルートも、その演奏は広く云えば〝人生〟を語っているだろう。〝人生〟と大きく捉えなくても人の喜びや悲しみ寂しさなど、楽器を通して表現している。しかし作者は〝チェロ〟の演奏に〝人生〟を感じたのである。

 〝チェロ〟の音色は決して華やかではないが、聴く人の心にじんわりと語りかけてくるようだ。〝人生を語りだす〟と云う措辞は作者の実感なのだ。来し方、行く末を想いながら〝チェロ〟の演奏に聴き入っている作者の豊かな〝春の宵〟を思った。

(さらに…)

響焰2021年5月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202105

うしろから     山崎 聰

異常乾燥注意報下たまご酒
大雪予報生き延びて海を見て
おとこらの白髪白刃冬怒濤
にんげんの顔なつかしき雪の朝
人の世のおわり見ており雪の中
雪のにおい命終迫りくるにおい
梅ふふむかさりこそりと散歩みち
白梅紅梅生きているから転ぶ
春の夕暮ひたひたとうしろから
春だからついておいでよもうすこし

 

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202105

ものの芽       米田 規子

スカートのパステルカラー風光る
ものの芽光り目標の八千歩
一輪車の子春風の先頭に
トンネルの先のくらがり梅香る
くるくると二月三月本の山
はくれんの散り際空の軋む音
春昼のグランドピアノ深眠り
三色のジュリアン咲いて子の便り
木の芽雨きのうの続き今日もする
おぼろ夜の会えば笑っておんなたち

 

 

【山崎名誉主宰の選】(赤字は山崎先生の添削)

<火炎集>響焔2021年2月号より

外灯の中だけ赤い初時雨         石倉 夏生
烏瓜遠くが見えてさびしかろ       森村 文子
落葉降る身辺ときにうとましく      山口 彩子
柿の木に柿おおかたは空を見て      加藤千恵子
それぞれに違う寂しさ冬林檎       中村 克子
あおぞらや黄落は詩歌のように      大見 充子
どこも裏街十一月の池袋         松村 五月
ぱたぱたと赤子の手足小鳥来る      波多野真代
ふたりならしんじつ朱くポインセチア   河津 智子
晩節は十月桜みるような         大森 麗子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年2月号より

赤とんぼ群れ来るみんなしあわせか    和田 浩一
会って別れるコリドー街晩秋       栗原 節子
烏瓜遠くが見えてさびしかろ       森村 文子
十五夜の月と老人かくれんぼ       加藤千恵子
えにしともほのあかりして冬桜      西  博子
恋心いろはもみじの紅のほど       大見 充子
浪漫派のひとつの形鳥渡る        松村 五月
ぱたぱたと赤子の手足小鳥来る      波多野真代
ふたりならしんじつ朱くポインセチア   河津 智子
角砂糖カップの底の小春めき       北川 コト

<白灯対談より>

雲間より光ひろがり春の航        佐藤千枝子
梅が香に遠くかすめり新都心       小澤 什一
春風や三面鏡にある浮力         吉本のぶこ
鶯の啼く声きみの山河かな        浅野 浩利
曇天に溶けゆく飛翔ふゆかもめ      齋藤  伸
大火鉢を囲む昭和のど真ん中       加賀谷秀男
山笑う過去も免許証も返す        金子 良子
何となく郵便受けへ春隣         石谷かずよ
一番に登校朝日のヒヤシンス       小林 基子
春待つや一輪挿しの伊万里焼       横田恵美子
受験の子赤き耳朶にて戻る        菊地 久子
節分草青空映す蕊の色          長谷川レイ子

【白灯対談の一部】

 雲間より光ひろがり春の航        佐藤千枝子

 読後に明るい未来を想った。希望あふれる一句と思う。

 頭の中のスクリーンに雲の映像、次第に雲が動きその隙間からひと筋の光が…、やがてその光が雲を割って溢れだす。海は陽光にきらめき、大きな船が動くともなくゆっくりと進みゆく、と云った風景を瞬時に思い描くことができた。

 掲句は、風景の切り取り、描写、着地が揃って豊かな広がりを持つ佳句となった。明るい詩情が心地良い作品である。これからも作者の個性を生かした作品を期待したい。

 同時発表句<拍手のこだまとなりて山の春>にも共鳴。

(さらに…)

響焰2021年4月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202104

その日まで     山崎 聰

陽のまさに落ちなんとして柿の村
みんなが笑うわたしもわらう落葉焚
月の出のはじめみんなで鬼ごっこ
闇にうごく兎の耳のあかいところ
ひとりは寒し闇のなかから目鼻
冬晴れつづけ命終のその日まで
一月一日川むこうから陽が昇る
檻の象かすかにうごき初日の出
たいせつな人いなくなる二日の夢
とおいところにかあさんふたりさくら貝

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202104

ダウンロード     米田 規子

カフェラテのハートのゆがみ雪催
ふらんすや冬三日月の舟揺れて
山眠る粒のきらきら山の塩
長葱の青い切っ先本気なり
待春のダウンロードする楽譜
片っ端から消えゆく時間山笑う
紅梅白梅詩を探す一人なり
白鍵にかすかなる罅風光る
余寒かな水晶体のおとろえも
ひとつ終わり一つ始める春の山

 

【山崎名誉主宰の選】(赤字は山崎先生の添削)

<火炎集>響焔2021年1月号より

瑠璃色にくぐもっている蜆蝶       森村 文子
山眠る赤い魚の祀られて         渡辺  澄
邯鄲やもっとも遠きぽるとがる      加藤千恵子
人の世のうすくらやみを秋が逝く     西  博子
三日月黒いマリアのたなごころ      大見 充子
産みたてのたまごのような秋一日     松村 五月
ほのぐらき渦のなかなる秋夕焼      波多野真代
ふたつめの橋を渡れば白い秋       小川トシ子
ふさふさと子犬の背中今朝の秋      楡井 正隆
あいまいな大東京の鰯雲         大森 麗子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年1月号より

虫籠の中の静けさただならず       石倉 夏生
陽が昇る露草のみち母の道        栗原 節子
秋らしくない秋の日か一行詩       森村 文子
おおかたは猫の領分十三夜        加藤千恵子
一歩ずつうしろ塞がり芒原        西  博子
晩秋のやまかわそらや笙の笛       あざみ 精
産みたてのたまごのような秋一日     松村 五月
山ひとつ越えて向こうも鰯雲       波多野真代
二つ目の橋を渡れば白い秋        小川トシ子
豊の秋ゆすれば眠る赤ん坊        小林多恵子

<白灯対談より>

寒梅や胸に沁み入る空の蒼        小澤 什一
おろおろと日本列島冬眠す        牧野 良子
寒きひと日を何度でも父のこと      平尾 敦子
日の色の枯葉舞い込む小物店       石谷かずよ
みちのくの戦後は遠く干菜汁       加賀谷秀男
冬帽子目深に本音少し言う        横田恵美子
新宿のビルを浮かせて冬の月       浅野 浩利
年用意漁港のほとりきらきらす      小林 基子
奪い合う空にかがみて土筆摘む      吉本のぶこ
三が日クシコスポスト聞くように     金子 良子
冬青空身の置き処探しいて        石井 義信
ペアガラス隔てて猫と寒鴉        齋藤 重明

【白灯対談の一部】

 寒梅や胸に沁み入る空の蒼        小澤 什一

 まだ寒さの厳しいころ、ちらほらと咲き始める〝寒梅〟を見つけると胸の内にもポッと明かりが灯るようだ。寒中に咲く花はなんて強いのだろうかと自然の力を思う。

 掲句は〝寒梅や〟の詠嘆が効いている。作者は〝寒梅〟に心を奪われながら、やがてその向こうの〝空の蒼〟に目を移し気持ちも〝空の蒼〟に吸い込まれてゆく。作者の心の翳りのようなものがこの〝空の蒼〟に表われている。〝胸に沁み入る空の蒼〟は読み手の心の中にも静かに広がってゆく。

(さらに…)

響焰2021年3月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202103

おどろおどろ    山崎 聰

甲斐信濃一泊二日のいわし雲
流木は流木として鵙の昼
月の夜はゆっくり行こう奈落まで
ぼそぼそと泣いているなり山の柿
泣きごえが途切れてからの秋の暮
爛熟のあしたをおもい谿の秋
霜の朝鐘鳴りわたる村はずれ
雨のあとすこしはなやぎ残り柿
精神のおどろおどろを雪の朝
冬満月遠い人から白くなる

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202103

ひらいてとじて     米田 規子

もくれんの冬芽ふくらみ逢えぬ日々
トッカータとフーガ突き抜けて冬天
泥葱の束を抱えて風の道
ハッピーバースデイ冬の檸檬灯る
大声で笑うことなく雑煮椀
家中の音の華やぎ初荷かな
冬ざれや二人のベンチ探しいて
クレソンに水音やさし野辺の風
待春のひらいてとじて足の指
読みかけの本とコーヒー春の雪

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年12月号より

八月の白い花束沖に雲          栗原 節子
ぽっかりと浮かんでいれば九月かな    森村 文子
丸善は遠いところかレモンの黄      渡辺  澄
あまあまと風の新宿九月逝く       加藤千恵子
八月六日集まってきて小声        中村 克子
その中のひとつを探す曼珠沙華      西  博子
この世のものと思えば白く昼の月     松村 五月
秋が来る消印は風の色して        波多野真代
鰯雲夢をさがしに泣きながら       小川トシ子
秋晴や天秤棒の弥次郎兵衛        楡井 正隆

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年12月号より

水ありて月ありて森まるくなる      栗原 節子
申し訳なさそうに曼珠沙華いっぽん    森村 文子
黒服の中は真夏の荒野かな        中村 克子
てのひらの白桃沈み夜のとばり      河村 芳子
一人ずつ来てみな帰る秋の浜       松村 五月
秋が来る消印は風の色して        波多野真代
秋少し風に言葉のあるように       亀谷千鶴子
鰯雲夢をさがしに泣きながら       小川トシ子
銀やんまさみしい家を旋回す       秋山ひろ子
ひと粒は涙のかたち青葡萄        小林多恵子

<白灯対談より>

野路菊やこの道行けるところまで     浅野 浩利
再会は少女のわたし黄落期        牧野 良子
冬紅葉遠ざかりゆく貨車の音       小澤 什一
椿散り椿が咲いて火の匂い        吉本のぶこ
十二月どこからかジャズ流れきて     横田恵美子
ジェット音枯葉一枚降ってきて      加賀谷秀男
クレヨンの色の数ほど冬の星       佐藤千枝子
冬ばらの蕾の品位活けてより       菊地 久子
ひともとの欅落葉に日々の嵩       石谷かずよ
義士の日や肉まん餡まん二つずつ     金子 良子
見覚えのある冬帽やパチンコ店      小林 基子
木守柿人逝くさみしさから離る      平尾 敦子

【白灯対談の一部】

 野路菊やこの道行けるところまで     浅野 浩利

 平明なことばで易しく詠われている一句だが、この句を貫く作者の思いは揺るぎない。〝この道〟は作者が今歩んでいる道であり、迷いなく〝この道〟を進むという。そんな作者をやさしく見守ってくれるのが〝野路菊〟であり、作者の思いを託した季語なのだ。

 〝野路菊や〟と大きく切ったので、中七下五との直接的な関わりを避けることができた。その結果一句の空間が広がり、作者の意志が余韻として伝わってくる。良い作品だと思う。

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響焰2021年2月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202102

お ろ お ろ    山崎 聰

雨空のいちにち長く残る虫
いわし雲どこからも人湧いて出て
秋の長雨無用の用かとも思い
阿Q正伝おろおろと残り柿
いわし雲無頼というはさびしかり
晴れつづくいっせいに柿色づいて
風の日はひたすらねむり青榠樝
もののふはいまもののふ残り月
亡きものは亡く季節はずれのさくら
いま無一物真夜中のスキー場

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202102

こ ろ が っ て     米田 規子

お日さまの匂いのタオル風邪心地
飛行機雲ほどけて淡く冬菜畑
出会いがしらの綿虫と三輪車
墓域明るく冬帽の婆三人
鍵盤をていねいに拭き冬の暮
揺れながらこころと体冬至粥
極月や一本道をころがって
選曲に迷いを残し大寒波
冬日燦一病ふっと貌を出し
ありったけの力を使い冬紅葉

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年11月号より

まっすぐに来る八月の白い馬       栗原 節子
卓上の薄紙うごく夜の秋         山口 彩子
大夕焼ころんで泣いて日和下駄      河村 芳子
みほとけのまなざしほうと秋の風     西  博子
らんらんと夏の終りはみな斑       大見 充子
蟻地獄見てそれからの私小説       松村 五月
蟬しぐれ止んで日暮の勝手口       秋山ひろ子
八月十五日父の山から喇叭        中村 直子
夏の雲流れ大型犬次郎          楡井 正隆
八日目の蟬鳴いてふとひとりかな     石井 昭子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年11月号より

手に掬う水の輝き原爆忌         和田 浩一
犬も我も同じ犬掻きにて泳ぐ       石倉 夏生
鬼やんま昼間は誰も居ない家       栗原 節子
夕顔が咲くころ君の笑うころ       森村 文子
おしろいに風の自転車きて止まる     加藤千恵子
戦争の音する地球梅漬ける        中村 克子
敗戦をよしとするなり小母さんら     鈴 カノン
蟻地獄見てそれからの私小説       松村 五月
生国はいつも晴天だだちゃ豆       戸田富美子
山の日の山を遠くに眠るかな       秋山ひろ子

<白灯対談より>

愛犬に星の匂いやクリスマス       牧野 良子
極月や東京駅のBARの夜        小澤 什一
籠り居のまっさらな靴冬に入る      横田恵美子
まっすぐに生き抜く力花八ッ手      金子 良子
さりながらグランドゴルフ一打秋     相田 勝子
蔦紅葉愛されるほど赤くなり       加賀谷秀男
まなうらの冬日の中の一家族       佐藤千枝子
しぐるるや珈琲店の窓明り        齋藤 東砂
病床に詩を乞う人よ黄落期        石谷かずよ
十二月大工の槌の音高く         小林 基子
そくそくとこだまは赤く朴落葉      吉本のぶこ
鳥渡るするする抜ける仕付糸       菊地 久子

【白灯対談の一部】

 愛犬に星の匂いやクリスマス       牧野 良子

 〝この句は読んだ途端に一句がすとんと胸の中に落ちて、さらに詩情の広がる素敵な句だと思う。

 いつも作者の身近にいる〝愛犬〟に〝星の匂い〟がすると捉えたところに惹かれた。常日頃、感性のアンテナを磨いておかないと、なかなか〝愛犬に星の匂いや〟と把握できないと思った。そんな上五中七と〝クリスマス〟の取合わせにも夢があって、一句の味わいを深めている。身近のちょっとしたことを発見して詩情ある一句に仕立てるのは難しいかもしれないが、転がっている句材を見逃さないようにしたい。

 最近「俳句は難しい」とよく耳にするのだが、私自身もややはりそう思う。しかし掲句のような俳句に出会うと俳句の楽しさを感じて明るい気持ちになる。まずは小さな発見を大切に、心の中で思いをふくらませてみよう。

(さらに…)

響焰2021年1月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202101

亡  国    山崎 聰

夕焼けに突き当りたる牛の顔
亡国の石垣蜥蜴這い出でて
ふつうの日のふつうのくらし放屁虫
朝日影釣られて山女石の上
秋は来にけり捨てられて薬包紙
月の砂漠ああいもうとよおとうとよ
蛇穴へもののふの覚悟にも似て
あまつさえ月夜の街の人だかり
生涯のもうすこし先秋の虹
満月をさびしとおもう休暇明け

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202101

風 に 聞 く     米田 規子

さわやかに会い信州の赤ワイン
ゆらゆらと過去のまぶしく紅葉川
恙なしことに日影の実千両
桜紅葉橋わたるときふと未来
チンゲンサイさくさく切って朝の冷
風に聞くこれからのこと木守柿
鍋と笊どちらも光り冬隣
冬灯しひとりの大工独りの音
望郷のその夜耿耿ずわい蟹
冬の日の十指すこやかリスト弾く

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年10月号より

廃校の時計は三時雲の峰         石倉 夏生
ぼんやりと人間だから星祭り       森村 文子
行列のどこからどこへ寒い夏       加藤千恵子
兜虫死んで少年またひとり        中村 克子
静かなるやさしさに居て青林檎      河村 芳子
涼し夜の眠りの中を深海魚        大見 充子
青空から少年の声さくらんぼ       波多野真代
海を濡らして海の日の鳶の声       秋山ひろ子
対岸の灯りみている青蛙         鈴木 瑩子
未来図は曲線あまた天の川        石井 昭子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年10月号より

叫びたき半夏のマスク叫ばざる      和田 浩一
名画座を出る此の世も大夕立       石倉 夏生
くちなしの花ざわめいているあたり    栗原 節子
いちどだけ浴衣の母が振り向いて     森村 文子
梅雨長しかくして人は老いにけり     渡辺  澄
鍵を置く音して去れり黒揚羽       中村 克子
お三時は雨の匂いの水羊羹        松村 五月
蜘蛛の巣にきょうは蜘蛛いる晴れ間かな  波多野真代
高く跳ぶための踏切夏の恋        戸田富美子
七月七日会いにゆくのに傘さして     秋山ひろ子

<白灯対談より>

秋燈下手紙の中に嘘ひとつ        横田恵美子
ためらいありて椿の実つややかに     小澤 什一
秋落暉追われるように走るなり      加賀谷秀男
秋声を聴くコバルト色の陶器       小澤 什一
たっぷりの乾物もどし敬老日       金子 良子
彼岸花群れて昭和の一家族        佐藤千枝子
稲架襖村の東に小学校          相田 勝子
身の内をサイレン通る夜寒かな      加賀谷秀男
芒原つばさはいつも風まかせ       牧野 良子
秋祭いにしえびとの力石         原田 峯子
捨てし夢ほのと紅色夕すすき       小林 基子
ほつほつと初穂の素揚げ花開く      石谷かずよ
葡萄一粒ひとつぶの底力         森田 成子
冬青空母に呼ばれて産まれたり      吉本のぶこ

【白灯対談の一部】

 秋燈下手紙の中に嘘ひとつ        横田恵美子

〝秋燈〟は秋のひんやりと澄んだ夜気のせいか、趣深く清澄な雰囲気を持つ。気持ちの良い秋晴れの一日が終り、〝秋燈下〟誰かに〝手紙〟を書いているのだろうか。掲句は〝手紙〟を読んでいるのではなく、書いているところだと思って鑑賞した。いろいろなことを書くうちに小さな〝嘘〟も〝ひとつ〟加わった。この〝嘘ひとつ〟という措辞にちょっとした意外性がある。作者の心の機微に触れることができ、平凡から抜け出した。なにげない結句の〝嘘ひとつ〟が面白い。

(さらに…)

響焰2020年12月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202012


黒 点    山崎 聰


たましいのごときが飛んで夏の闇
もはや事後となりたる思い天の川
葛切に蜜きのうきょう雨降って
みなおなじかたちで終り盆踊り
雪渓に黒点神々籠りしか
水牛二頭終戦の日の落日
野葡萄のなつかしきいろ曲り角
街道をまっすぐ行けば豊の秋
遠山の素顔を思い暮の秋
朴落葉いるはずのなき彼彼女

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202012

十 三 夜     米田 規子

金木犀星降る夜のものがたり
シーツを干して鰯雲の海の中
十月や画廊のとなりパン屋さん
束の間のひとりの宇宙虫時雨
オクラのスープ星のいくつかゆらゆらと
ときめきのうっすら残り十三夜
秋霖やバッグに赤い電子辞書
秋冷の虚空クレーンの長い首
秘めごとの千日紅の揺れどおし
雁渡し急な坂道登り切り

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年9月号より

すこし待たされあじさいの花もらう    森村 文子
梅雨の風切っ先などは持たぬまま     山口 彩子
人声の遠いとおいと蟇          中村 克子
それぞれに鍵束と水六月や        河村 芳子
花梔子つぶやきは告白めきて       西  博子
父の日やどこから見ても青い空      秋山ひろ子
一日のとおくに笑顔水中花        楡井 正隆
会わずいて遠郭公の鳴くころか      塩野  薫
呟きも人影もなく梅雨の月        大森 麗子
息吸って指の先まで緑なり        小林多恵子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年9月号より

すこし待たされあじさいの花もらう    森村 文子
箱庭や人の気配の杖二本         渡辺  澄
梅雨の風切っ先などは持たぬまま     山口 彩子
夢殿へあるかなしかの戻り梅雨      加藤千恵子
ゆきゆきてひとりの始め巴里祭      鈴 カノン
ほどほどの引際にいてひきがえる     あざみ 精
老いたれどああ老いたれど夏の山     大見 充子
六月や人に倦みたる人の群        松村 五月
てんと虫句点打つべきところから     鈴木 瑩子
呟きも人影もなく梅雨の月        大森 麗子

<白灯対談より>

水の秋声かけて押す車椅子        金子 良子
花屋から秋のはじまる大路かな      佐藤千枝子
秋落暉追われるように走るなり      加賀谷秀男
秋声を聴くコバルト色の陶器       小澤 什一
墓参りほろほろ記憶風に舞う       北川 コト
夢か白夜かシマフクロウ羽根ひろげ    大竹 妙子
初さんま少し多目の飾り塩        相田 勝子
新涼の古書店の灯の琥珀色        石谷かずよ
ひそひそと内なる老化天高し       川口 史江
母という大きな宇宙むかご飯       廣川やよい
十字路の右へ曲がれば秋めいて      森田 成子
鬼の役解かれぬままに秋夕焼       小林 基子
とっぷりとディズニーランド寒すずめ   吉本のぶこ
枯れ蟷螂その目の先に星一つ       石井 義信

【米田主宰の編集後記】

 十一月二日にそのチャンスは巡ってきた。それは来年度の新作家候補・新同人候補を発表する大事な行事である。未だに心配なコロナ禍の中、推薦した方々が会場に来て下さるのか不安だった。しかし一人また一人と会場に到着して全員が揃い、無事に発表とご紹介をすることができた。令和2年を締め括るに相応しく喜ばしいひとときだった。激動の一年ではあったけれど、今回の行事はささやかながらも大きな力を私に与えてくれたのだ。        (米田規子)

(さらに…)

響焰2020年11月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202011


さりながら    山崎 聰


沙羅の花群集見えず空も見えず
左右からこえ迫りくる熱帯夜
鱏沈みおのれに時間よみがえる
籠り居の百日あまり桐の花
山蟻の甲冑のいろみちのくへ
きのうともちがうくらがり端居して
夏の雨待ち人のいる花屋の前
台風のあとの荒涼二番星
田も水も無病息災蛇いちご
さりながら播州龍野赤蜻蛉

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202011

レモンの香     米田 規子

エアメールの重さを計り鰯雲
今はただ旅に憧れレモンの香
ごうごうと風吹くまひる真葛原
秋の日のせっぱつまってエスプレッソ
なす好きに茄子の丸揚げ夜の雨
ストレスをどこに捨てよう山は秋
忽然と助っ人現われ雁来紅
コスモスの風に溺れる彷徨える
ひと匙の南瓜のスープ今日のこと
わたくしを包むスカーフ月天心

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年8月号より

この道で逢えそう卯の花咲いたから    栗原 節子
きのうのように陽炎もわたくしも     森村 文子
ゆるやかに曲りゆくなり麦の秋      加藤千恵子
蝶一頭来るいちにちの前ぶれに      西  博子
薔薇色のリボンを解けば誕生日      松村 五月
もうそこに私いなくて沈丁花       波多野真代
おとうとを連れていったのはさくら    北島 洋子
箒目の途切れるところ観音さま      亀谷千鶴子
いつまでもいつでもいつもこどもの日   笹尾 京子
眼鏡かけメガネをさがす暮の春      中野 充子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年8月号より

風景に六月の音まぎれこむ        栗原 節子
いまごろは母の体温桐の花        渡辺  澄
鳥籠の中の日常みどりの日        加藤千恵子
毀れそうな地球に生まる春の蠅      中村 克子
さくらどきつくねんと夢の狩人      鈴 カノン
飄々といつものかたち更衣        岩佐  久
もうそこに私いなくて沈丁花       波多野真代
アマリリス一言多き女なり        岩崎 令子
あるかなきかの微笑そこここ晩夏     河津 智子
眼鏡かけメガネをさがす暮の春      中野 充子

<白灯対談より>

汐の香のまだ残りたる今朝の秋      佐藤千枝子
まだ遊び足りない子ども晩夏光      小林 基子
とっくのむかしおなもみの実の女の子   大竹 妙子
そよ風の花野の途中ピッツァ店      北川 コト
古うちわ傷まぬほどの風送る       石谷かずよ
八月の空へ伸ばして我が手足       小澤 什一
力湧くみんみん蟬の栃木弁        相田 勝子
夏の波遠いあの日の分かれ道       加賀谷秀男
東京は黒き急流九月来る         吉本のぶこ
ひとり居の隙間をうめて風鈴は      川口 史江
遠景に平和なあの日冷奴         森田 成子
つかの間の休日カレーに汗ぬぐい     廣川やよい
沈黙を形にすれば鶏頭花         金子 良子
でこぼこに空を持ち上げ蟬しぐれ     菊地 久子

【米田主宰の編集後記】

 猛暑残暑の厳しかった八月、九月が過ぎて金木犀の香りが漂う十月になった。金木犀の香りに心も体も癒やされて、少しずつ元気を取り戻している。今年は新型コロナウイルスの出現で人間の暮らし方も変わった。そんな中で響焰の存続も含め、俳句とどう向き合えば良いのかが大きな問題である。前例のない難問だけに、これからも試行錯誤は続きそうだ。それでも俳句は変わらずに私たちの人生を豊かにしてくれるだろうと信じている。        (米田規子)

(さらに…)

響焰2020年10月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202010


八月    山崎 聰


亀あるき時の日のあと太宰の忌
梅雨の闇俺がおのれを見ておりぬ
七夕のやや湿っぽい朝の景
水母浮く何も見えなくなったあとに
山吹がひっそり咲いて夢のまた夢
八月やいのちありせば諾いて
夏の雲きのうより濃く東京へ
神ほとけおおかたは野に八月は
ふつふつと時間うごめく熱帯夜
炎昼や奈落が見えるはずもなく

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202010

天の川     米田 規子

あたまのなかこんがらがって日雷
仙人掌の花会えるのはずっと先
詩の見えぬ日や熱風にあえぐ木々
晩夏光マス目を埋めて空を見て
みな同世代炎天の橋わたる
幻想曲ピアノは月光に濡れて
八月十五日ざぶざぶと顔洗う
ピカーンと晴れて西瓜を真っ二つ
百日紅きょうのいのちを今日つかう
七人の詩人が集い天の川

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年7月号より

一番星の下で眠ってつくしんぼ      森村 文子
古語辞典開く一瞬亀鳴けり        中村 克子
さくら葉桜それからの失語症       西  博子
花吹雪耳を澄ませば母校なり       大見 充子
なつかしき雨を見ており花筏       高野 力一
けんめいに地球は青く春日傘       小川トシ子
明易しかさりこそりと日曜日       河津 智子
桜餅・草餅あおぞらがさみし       秋山ひろ子
階段のいちばん下の春の月        鈴木 瑩子
飛花落花ただそれだけの日曜日      森田 茂子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年7月号より

言霊のふぶく薄墨桜かな         石倉 夏生
十二時におなかが空いて春休み      森村 文子
破れ傘家に隠りて未完の詩        渡辺  澄
高階や転がってくる桜冷え        加藤千恵子
女体抜けきて連翹の風さわぐ       中村 克子
いちにちを何やら速く蜆汁        河村 芳子
山笑うほほえみ返すおとこかな      あざみ 精
餡パンに臍あり四月に憂いあり      松村 五月
韮の花ひとり歩きのひとり言       和田 璋子
あたたかい景色の真ん中雀の子      亀谷千鶴子

<白灯対談より>

カサブランカ泣きたいほどに蒼き夜    小澤 什一
空眩しくて桃の実の熟すころ       北川 コト
耳の裏に少しの湿り半夏生        佐藤千枝子
一切放下ほたるぶくろに籠りいて     小林 基子
絵日記に少年の夢夏の蝶         牧野 良子
額の花しきりなおして日が暮れて     大竹 妙子
見えそうで見えない明日百日紅      相田 勝子
原始から最も遠し冷蔵庫         加賀谷秀男
日の透ける眠りを窓のかたつむり     石谷かずよ
山は秋男時女時のもうあらず       吉本のぶこ
乙女らの太き二の腕草いきれ       北山 和雄
海の日の足跡だけの白い浜        森田 茂子
これからを生きる四万六千日の風     川口 史江
先生のひとこと胸に青葉潮        廣川やよい

【米田主宰の編集後記】

 選句をしながら「惜しいなぁ」と思うことがある。それは不要な情報を一句に盛り込みすぎて、本当に言いたいことが霞んでしまっている時だ。思い切って削るとすっきりして俳句が立ち上がってくる。これは客観的な目で見るから気付くことで、自分の作品を客観視するのは難しいものだ。同様に一句の焦点を絞ることも大切で、作句、推敲には集中力が必要だと思う。かくいう私は、相変わらずピリッとしない駄作を作り続けているのだが。        (米田規子)

響焰2020年9月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202009


無頼    山崎 聰


切株に陽のこえ春のやさしい野
いつかくる別れのときのための春
春の夕焼閑居のあとは蟄居して
韃靼はさくら咲くころああ無頼
奮い立つこともなくなり春が逝く
黄金週間足早に過ぎ一人なり
夏が近しまいにち同じことをして
桃さくら散ってしまえばジュディの日
八十八夜神さま不意に降りてきて
駒志津子さん
葉ざくらの一本道を天国に

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202009

入道雲     米田 規子

雨音のやさしき日なり茗荷の子
花柄の小さなカップ緑雨かな
むんむんとカンナの黄色重い空
青梅雨や猫のセブンと師の句集
ちかごろ男子会なるもの蓮の花
試されているとも思い入道雲
揚羽蝶詩の一片の横切って
考えて迷う稲妻の只中に
感染の第二波という茂りかな
ふわっと白いパンを割り夏休み

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年6月号より

あたたかい地面があれば椿落つ      森村 文子
王国はコバルトブルー春の雪       加藤千恵子
たぶん老いは薄墨桜咲くように      中村 克子
今生のでろれん祭文花吹雪        鈴 カノン
春は曙まんぼうの匂いして        大見 充子
確信に変わる三月の曲がり角       松村 五月
菜の花やぼうぼうとさまよっていて    波多野真代
きさらぎや記憶ぶつかりあっていま    河津 智子
声がきこえて春夕焼の向うがわ      鈴木 瑩子
婆さまと行く探梅の上り坂        小林マリ子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年6月号より

星を散りばめ三月忌の欅         和田 浩一
糸桜夜は時間をしたたらす        石倉 夏生
あたたかい地面があれば椿落つ      森村 文子
桜満開きいているのは死者の数      渡辺  澄
たぶん老いは薄墨桜咲くように      中村 克子
瞳澄む馬となごりのはだら雪       鈴 カノン
磯巾着臍は真ん中揺るぎなく       あざみ 精
確信に変わる三月の曲がり角       松村 五月
三寒四温ビーフシチューとろりとろり   北島 洋子
春の雪許されているかもしれぬ      山口美恵子

<白灯対談より>

数学B窓のむこうの僕の夏        北川 コト
馬刺屋の二階の窓の端居かな       小澤 什一
母の日やまごころ二つ掌に        加賀谷秀男
ちちははがのほほんといて夏座敷     大竹 妙子
何事のなき一日を沙羅の花        相田 勝子
風に膨らむ夏シャツのオーシャンブルー  石谷かずよ
万緑や沸々と湧くこころざし       川口 史江
言問橋渡り秋来る喜八来る        吉本のぶこ
無観客野球放送枇杷太る         森田 茂子
つれづれに聴く海の音青芒        小林 基子
卯の花腐しおじいさんの杉の下駄     廣川やよい
青田風教室までの長廊下         金子 良子
梅雨夕焼五階テラスの真正面       辻󠄀  哲子
妹に無花果甘いところだけ        鷹取かんな

【米田主宰の編集後記】

 戦争を知らない団塊の世代の一人だが、人生も終盤に差しかかった今、新型コロナウイルスとの戦争を経験するなんて予想だにしなかった。コロナ禍に加え、今年の梅雨の長さにも閉口した。いろいろなことが重なり、これまでの日常が危うくなった。しかし、こんな時こそ冷静に俳句と向き合って豊かな時間を持ちたいと思う。心の中の翼を大きく広げ自由に想像をふくらませよう。もしかしたら創造の女神が微笑むかもしれない。        (米田規子)

響焰2020年8月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202008


溷濁    山崎 聰


雪の夜をあかあかとおり玉手箱
窓際の心地よき位置蝌蚪の昼
一歩一歩奈落へ近く春の雪
遠近(おちこち)にたんぽぽ咲いて人の忌日
なにもかも遠くになって春のゆうやけ
春の月ゆっくり行こう彼の岸へ
君の名はと訊かれ戸惑う春の暮
呆気なく四月がおわり山の上
誰にもあるほのかな時間ほととぎす
溷濁のこの世かの世の望潮

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202008

森閑と     米田 規子

ペパーミントティ森閑と街五月
人を待つ橋上改札つばくらめ
青梅やひと日しとしと雨降って
限界のその先見えず卯月波
免疫力かバナナに黒い点々
うつうつと今日から明日へ洗い髪
「星に願いを」短夜のピアノ鳴る
母の日のうす紫のアイシャドー
狂いがちに体内時計夏落葉
うがい手洗い六月のきれいな空

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年5月号より

流木を尖らせてゐる虎落笛        石倉 夏生
遠景のおとうと蛇行して二月       栗原 節子
戛戛ときさらぎのコバルトブルー     森村 文子
父母に気づかれぬよう山眠る       渡辺  澄
風の昭和か立春の葛西橋         加藤千恵子
文学と夜のはざまの冬林檎        松村 五月
泣いたりはしないからあまた落椿     波多野真代
愚太愚太の彼とわたしと恋の猫      河津 智子
水晶の真ん中に道冬の靄         鈴木 瑩子
しずり雪闇立ち上がるひとところ     大森 麗子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年5月号より

電気毛布の夢の駱駝に跨って       石倉 夏生
雪原の馬であるから眼を閉じて      森村 文子
イニシャルを入れてより疾走のスキー   渡辺  澄
オペラ果て寒月光に髪乱る        中村 克子
真っ当なつとめのおとこ春の雷      岩佐  久
上州の風まっすぐに達磨市        あざみ 精
もれくるは象の足音春隣         大見 充子
三月が昔ばなしのように来て       松村 五月
野水仙横向くときの加齢かな       秋山ひろ子
冬夕焼何もかもついこの間        塩野  薫

<白灯対談より>

一期一会や身の内の青嵐         小林 基子
青林檎湖畔の椅子とチェーホフと     小澤 什一
夏来る会長室のモジリアニ        北川 コト
アラビアンナイト万緑の水底に      加賀谷秀男
麦秋や自粛の赤子指を吸う        相田 勝子
山五月しゅっぽしゅっぽ青けむり     小林多恵子
つかのまの夢か春キャベツ喰べている   大竹 妙子
つなぐ掌の確かなぬくみ余花の試歩    石谷かずよ
蕗の葉に水を掬いし父そこに       廣川やよい
野遊びの一人ひとりにスマートフォン   川口 史江
山野から風の生まれる聖五月       森田 茂子
ほつほつと弾くメヌエット夏の雲     金子 良子
暗黙のディスタンスとり蟻の列      牧野 良子
休校の門扉に鎖つばくらめ        北山 和雄

【米田主宰の編集後記】

 七月六日荒れ模様の天候の中、五ヵ月ぶりの東京句会を開いた。その少し前から東京の感染者が増え続けて、句会参加を断念する人が少なからずいた。それでも思い切って開いた句会の参加人数は十名。ソーシャルディスタンスを取り、換気、マスク着用。句会が進むにつれ違和感も薄れ句座が和やかにななった。お互いの顔を見て意見の交換ができる本来の句会はやはり楽しいものだった。来月もその先もこのような句会ができることを願う。        (米田規子)

響焰2020年7月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202007


待って居給え    山崎 聰


いちにち晴れいちにちは風さんがつは
なんとなく半日経って春北風
もうすこし寝ていたいから春の雪
春の雲待って居給えじきに行く
ふと立ち止まる蝌蚪群れているあたり
春の月右へ行こうか戻ろうか
春ゆえにさてもなんきん玉すだれ
春帽子きのうの夢に出たような
寂滅為楽磯巾着うごめいて
(駒志津子さん逝く)
どうしてなぜああ雪解けの山が呼ぶ

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202007

薫風     米田 規子

しゃぼん玉ふいに明日を見失う
薫風にひらく朝刊家籠り
少年の黒いTシャツ聖五月
ステイホーム真っ赤な薔薇が咲きました
雨の日のねむい老人ラベンダー
人はひれ伏し青葉若葉のひかり
ドア閉めて新車の匂い夏木立
三人の安全な距離リラの冷え
ぼんやりと未来のかたち罌粟の花
束縛と自由だんご虫丸まって

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年4月号より

漂泊のいつも途中の雪蛍         石倉 夏生
道のないところまで来て冬夕焼      栗原 節子
去年今年太古の海が近づいて       森村 文子
マスクして人間らしくこどもらしく    渡辺  澄
北風吹く昼の分厚き玉子焼        山口 彩子
風にのるやまとことのは野水仙      加藤千恵子
新橋のサラリーマンという時雨      松村 五月
初鏡むこう側から戸がひらく       波多野真代
十二月追いつく音につまずきぬ      山口美恵子
大きくて赤いまんまる今朝の春      笹尾 京子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年4月号より

漂泊のいつも途中の雪蛍         石倉 夏生
道のないところまで来て冬夕焼      栗原 節子
倖せはぐるりと子供春の七草       森村 文子
谺しててのひらに浮く桜餅        渡辺  澄
山国は荒星を研ぎ塞の神         山口 彩子
蕗の薹からんころんと日が巡る      西  博子
少年のごとき少女よ雪降れり       大見 充子
キラキラと一月の海駆けてくる      波多野真代
雪もよい上唇にラテの泡         秋山ひろ子
冬林檎ガラシャの芯の固さかな      大森 麗子

<白灯対談より>

立夏なりもしも翼があったなら      小澤 什一
だれかを想いおもわれて春日傘      北川 コト
愛すればこそ変わるべし花筏       加賀谷秀男
葉ざくらにあふれるほどの鳥さかな    大竹 妙子
さえずりや屈託の日々さみどりに     小林 基子
髪切ってヘップバーンになる五月     小林多恵子
ファルセット広がってゆく春の空     石谷かずよ
十年後のわたしに手紙朧月        川口 史江
膕を淡海の春の横切りぬ         吉本のぶこ
大空へ風になりたいスイートピー     森田 茂子
木瓜の花曲り角まで見送りて       廣川やよい
父と子のメール六秒初燕         金子 良子
翳し見るマニキュアの赤春の雪      原田 峯子
あかあかと窓辺照らされ春愁       浅見 幸子

【米田主宰の編集後記】

 この二、三ヵ月を皆様はどのように過ごされたでしょうか。日常でありながら非日常のような時の流れにに戸惑い、心がざわざわ揺れました。長い巣ごもり生活で俳句の焰が消えそうになったかも
しれません。句会のない淋しさ、物足りなさをひしひしと感じ、俳句にとって句会がいかに大切かを改めて思い知りました。今後コロナウイルスと共存しながらも、私達は慎重に新しい一歩を踏み出したいと考えています。        (米田規子)

響焰2020年6月号より


【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202006


いつとなく    山崎 聰


でもやはりそうは云っても春の霜
もう一度素顔にもどり春の闇
流雛いくばくさくら咲きくくら散り
砂山はとうに崩れて花の雨
紫荊むこうの丘に風吹いて
少年にいちにち長く散るさくら
立ち上がるものにたましい春の夜
寝るときも水の流るる甲斐の春
いつとなく冬から春へ海や山や
入学すまんまる太陽昇るように

 


【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202006


しなやかに     米田 規子


大空に予定なき日のさくらかな
おぼろ夜の髪を束ねる赤いゴム
ひりひりと男のカレー名残雪
花万朶小学校の音消えて
思いっきりピアノ弾きたし飛花落花
ひたすらにペンを走らせ春の闇
下り来て川のせせらぎ花疲れ
たれかれを想い暮春のスロージャズ
わが齢青葉若葉の風に揺れ
夕日のキッチン新牛蒡しなやかに

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年3月号より

校庭の歓声に散り黄の銀杏        和田 浩一
白椿おそろしきものもうひとつ      栗原 節子
暗闇のしんそこ真赤十二月        森村 文子
離るるに時の深さを白梟         河村 芳子
ふるさとの重さの届く十二月       西  博子
着脹れて羊でありし頃のこと       大見 充子
ちちよははよ鮮やかに返り花       波多野真代
子狐のしっぽが見えて昼の月       秋山ひろ子
寒卵北前船は帆を上げて         楡井 正隆
色のなき時間漂う十二月         大森 麗子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年3月号より

十二月八日ピアノの薄埃         和田 浩一
名犬になれず枯野のひた走る       石倉 夏生
黙っているポインセチアのうしろ側    森村 文子
紅葉かつ散る東京へ帰る人        渡辺  澄
離るるに時の深さを白梟         河村 芳子
ふるさとの重さの届く十二月       西  博子
クリムトのいつもの女冷えにけり     大見 充子
色ながら散る乱文を許されよ       松村 五月
赤い糸付けておいたの冬銀河       山口美恵子
漂泊の空の眩しさ年の暮         大森 麗子

<白灯対談より>

花冷えや白磁の皿のニ三枚        加賀谷秀男
夕星に山翳の濃く初ざくら        小澤 什一
たましいは指さすほうへ養花天      北川 コト
宇宙船最後に乗せる雛人形        牧野 良子
万の芽へ今日の始まる光かな       相田 勝子
春の日の水音さやか虚子の句碑      廣川やよい
釣人と釣人あいだのつくしんぼ      小林多恵子
もやもやと遠目の赤子亀の鳴く     吉本のぶこ
春風のワルツに乗って猫の髭       森田 茂子
四次元の入口をあけ春籠         川口 史江
春寒しパンデミックの海が鳴る      石谷かずよ
さりながら窓辺明るく桃の花       小林 基子
春休みけんけんぱっと大空へ       原田 峯子
尼の寺屈んで拾う落椿          金子 良子

 

【米田主宰の編集後記】

 三月から五月まで響焰は全ての句会と行事を中止した。だが、この先もウィルスとの闘いは続きそうだ。俳句を愛し句会再開を楽しみにしてきた私達にとって大変残念な状況である。しかしながら、誌上句会、ネット句会、または各句会ごとの通信句会など知恵を絞れば様々な方法があると思う。結社として、今後どう活動していけば良いかを模索している。こんな時こそ皆様からの声を是非き聞きたいと思う。句会再開までみんなで乗り越えよう。        (米田規子)

響焰2020年5月号より


【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→MeiyoShusai_Haiku_202005


すでにして    山崎 聰


残り柿命終のことなどもふと
山に雪降り野に雪降り彼と彼
いちにち迅くいちねん長し垂(しず)り雪
雪消えるころみちのくはほのあかく
春の風なまぐさきかたちして二人
すでにしてバビロンははるかなる春
雨が止み公園の仔猫のゆくえ
春眠はタクラマカンの砂と塩
とつぜんに子をとろ子とろ遅日かな
再会のそこここに空シネラリア

 


【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202005


春のパセリ     米田 規子


そくそくと二足のわらじ薄氷
鳥たちの空の領分冴返る
晴天や屈みて春のパセリ摘み
三日籠りてフリージアの朝の息吹
木々芽吹き平常心のどこへやら
春の雪もの書く姿勢くずさずに
炒り玉子ほろほろあまく朧の夜
えんぴつの倒れた先の春景色
いつまでの全力疾走ひこばゆる
オムレツにケチャップするりと三月来

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2020年2月号より

冬帽子いっぽんみちは遠い道       栗原 節子
つわぶき咲いてこんなにも死者の数    森村 文子
思い出すたび新しい雪降れり       渡辺  澄
したたかに灯る西口十二月        加藤千恵子
にびいろの月を想えば平家琵琶      大見 充子
この秋を歩けばボーヴォワールめき    松村 五月
十一月呆気なく頂上に出る        山口美恵子
雨上がりすめらみことに虹の端      蓮尾 碩才
小粒柿泣いて笑って日が暮れて      中野 充子
ひかりから光へ跳んで稲雀        小林多恵子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2020年2月号より

むかしむかし井戸と裏木戸冬の虹     森村 文子
やや遠き日常黄落のポプラ        加藤千恵子
人声の恋しき日なり鳥渡る        中村 克子
冬の日のいろをいちずに猫のひげ     青木 秀夫
朝な夕なに晩秋のうらおもて       あざみ 精
烏瓜すでにこの世のことでなく      松村 五月
秋高しほうほうほろと塞翁が馬      小林 伸子
十一月呆気なく頂上に出る        山口美恵子
青空のむこうからきて鉦叩        楡井 正隆
晩学の明るいひと日とろろ汁       廣川やよい

 

<白灯対談より>

立春の言問橋の風のいろ         大竹 妙子
日脚伸ぶ品川駅の渦の中         北川 コト
何度でも夢を飛ばそうシャボン玉     小澤 裕子
丸メガネとハイネの詩集水の春      小林 基子
待春やおはじきぬりえわらべ歌      相田 勝子
新宿の夕闇を連れ焼芋屋         金子 良子
水仙の吐息の仄か海しずか        森田 茂子
寒風になお抗いて老夫婦         加賀谷秀男
冬銀河みえない手と手にぎりあう     川口 史江
のどけしや絵手紙の文字飛びこんで    廣川やよい
衣擦れの音は佐保姫それとも風      小澤 什一
約束の失せたる小指春の雪        吉本のぶこ
良きことも金柑の黄の暮れのこり     原田 峯子
暮の春オルガンを弾く昭和の子      佐藤千枝子

 

【米田主宰の編集後記】

 新型コロナウィルスが地球規模で猛威をふるっている。その影響で今まで当り前に開いていた句会があっけなく消え、この先の不安に悶々とするばかりだ。しかし、こんな時でも響焰誌は毎月発行しており、編集や発送の方々の支えを強く感じている。また、それと同時に毎月皆様から届く投句は、私に元気と勇気を与えてくれる。なんとかこの難局を乗り越えて、大会や句会で皆様とお会いできることを楽しみにしている。        (米田規子)