響焰俳句会

ふたりごころ

響焰誌より

響焰2023年8月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202308

さあどうする       山崎 聰

清明や戦車がとおる男とおる
春の星ささやくようにつぶやくように
もうすこし小さなこえで春の夜
東京は快晴なれど梅雨近し
いちにちはやはり一日五月雨
西空に雷雲湧けりさあどうする
房総を出てより久し夜半の月
ビー玉をころがしている霧の夜
もうすこし走れば越後月今宵
この世なおもうすこしあり朴落葉

 

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202308

明 日 葉       米田 規子

俤のあるにはありて梅雨の星
六月や鍋に小さな疵の増え
明日葉をパリッと揚げて健やかに
父の日の直立不動のちちであり
でで虫や朝からねむい日の手足
調律が終わりアガパンサスの昼
若返ることの叶わぬ更衣
夏草や紙と鉛筆無力なる
思い出の半分以上夏の海
夕空青く夏の匂いのバスタオル

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2023年5月号より

戦中の遠い虚空へ鳥帰る         石倉 夏生
おもいおもいに桜の下の少女たち     森村 文子
春夕焼エンドロールのひとりひとり    加藤千恵子
ややあってやがて離れて春の雪      松村 五月
春満月曲がりくねった道の先       波多野真代
ていねいにお辞儀してゆく二月かな    小川トシ子
一月おわるひとかたまりの雲のこり    鈴木 瑩子
齟齬ありてそっと夜明けの霜を踏む    大森 麗子
早春やいつもの道のいつもの灯      廣川やよい
遠山に雪降りはじめ明日のこと      北尾 節子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2023年5月号より

ぼろぼろの戦車を浮かす寒月光      石倉 夏生
三月の海とさくらと少年と        森村 文子
三叉路の一つは過去へ亀鳴けり      中村 克子
ひとつずつ落ちて椿のあかや赤      松村 五月
あこがれというは菫のようなもの     波多野真代
枯れるまで夢の続きを寒卵        蓮尾 碩才
少年は大きな気球春立ちぬ        戸田富美子
ポケットの鍵の冷たく三番線       山口美恵子
雨ざらり虚空ざらざら渋谷春       吉本のぶこ
かたかごの花地に足は着いているか    小澤 什一     

 

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

山藤のおちこち烟る岨の道        増澤由紀子
あのころの風に会うため春ショール    牧野 良子
夏隣り玄関先に迷い猫          山田 一郎
古墳より呼ばるる男五月闇        中野 朱夏
つばめ飛ぶ風を二つに切って飛ぶ     横田恵美子
境界のあやうさを這う浜昼顔       池宮 照子
しりとりのキリンで終るこどもの日    金子 良子
朧月スマホに残る母の声         原  啓子

【白灯対談の一部】

 山藤のおちこち烟る岨の道        増澤由紀子
 一枚の水彩画のような俳句で、淡い色彩の風景がこの一句に息づいている。。
  作者は日頃いろいろな場所に出かけて俳句を詠んでいるようだ。その積み重ねはとても貴重なことだと思う。
 掲句の〝岨の道〟は、山の切り立った斜面を縫うように造られた細い道だろうか。そういう険しい場所から〝山藤〟を眺めた作者はきっと感動したに違いない。〝おちこち烟る〟と云う措辞に〝山藤〟の咲きようがわかるのだ。まさに実感だったと思われる。眼前の風景をしっかりと作者のことばで一句に仕立てたところが良かった。

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響焰2023年7月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202307

さくら散る       山崎 聰

山の雪きのう見てまたきょうも見て
立春をすぎたるころの山と川
もうすこし遊んでいたいさくらさくら
さくら見にさそわれており町に住み
急ごうかさくらが見えるところまで
もう一度ふりかえり見て春の月
さくら散って彼のことまた彼のこと
明日のことすこし思いて春の星
さくら散る縁側の隅っこにいてひとり
四月一日雨の休日として暮れる

 

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202307

夏 燕       米田 規子

新しい楽譜を広げ夏燕
聖五月きのうの私消している
うっすらと鏡の汚れ走り梅雨
遠雷や絵画の青いヴァイオリン
波長合う人の隣にほたるの夜
ざわめきの残る胸底赤い薔薇
はたた神二十四時間使い切り
男の子にこにこ無口夏木立
万緑やことばいくつか見失う
ドラえもんのマンガ古びて夕焼雲

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2023年4月号より

獣道つづく月下の枯木山         栗原 節子
鮮烈に目立たぬように春が来る      森村 文子
くすりにも毒にもなって春の月      渡辺  澄
大寒や大空ふかくあおくあり       岩佐  久
雪が降る敵に味方にゆきがふる      蓮尾 碩才
風花やひとりで渡る今日の橋       鈴木 瑩子
雪蛍ふるさと風と空ばかり        大森 麗子
燈台のらせん階段野水仙         中野 充子
寒九の雨街やわらかく静もりて      藤巻 基子
手の平に光をあつめ冬の浜        北尾 節子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2023年4月号より

白梅が咲きそれからの一週間       森村 文子
哲学の色に染まりし夕枯野        中村 克子
去年今年こんがらがってまるまって    松村 五月
着ぶくれて年取って海青きかな      秋山ひろ子
漆黒のみちのく背(せい)高きカンナ    河津 智子
荒涼の冬の夕暮赤い帯          楡井 正隆
散り際のいのちの灯り寒椿        大森 麗子
このあたり東京の裏ポインセチア     廣川やよい
風のように不思議な人と冬木立      藤巻 基子
誕生日生まれるように覚めて雪      石谷かずよ     

 

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

子規が呼んでる春の日のホームラン    金子 良子
ささやかれささやきかえす春の宵     池宮 照子
逝く春の星かがやかす風水師       梅田 弘祠
本堂をふわりと包む芽吹きかな      中野 朱夏
うぐいすや朝のしじまの水汲みて     原田 峯子
木の芽風厚き窓開く蔵の街        横田恵美子
花は葉に子らはキラキラ飛び回る     伴  恵子
少年の眼差し阿修羅ヒヤシンス      酒井 介山

【白灯対談の一部】

 子規が呼んでる春の日のホームラン    金子 良子
 この句を読んだとたんに笑顔になる、そんな一句。
  掲句の意味や話の筋などは気にならない。明るい春の空にカーンと云う音が響き、白球がカーブを描いて高く飛んでゆく様子が目に浮かぶのだ。〝春の日のホームラン〟の措辞は勢いがあり、読み手の心を摑む魅力がある。草野球でもプロ野球でも良い。ホームランの気持ち良さがこの俳句から瞬時に伝わってくる。
 掲句の導入には〝子規〟が登場する。正岡子規は野球にも熱中し、日本の野球に貢献した人でもある。だから〝子規が呼んでる〟の措辞には作者なりの思い入れがあるかもしれない。ただこの句の前半と後半を無理に意味付けしなくても良いのでは、と思う。あくまでも明るく軽やかな佳句だ。

 < イースター赤い袋の角砂糖 >
 〝イースター〟は日本人にとってあまり馴染のない行事だ。春分後、最初の満月直後の日曜日を云い、キリストの復活を祝う日である。作者が思いきって〝イースター〟を詠もうと決めたことに拍手を送りたい。〝赤い袋の角砂糖〟との取り合わせ、離れ具合などとても上手くできた作品である。

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響焰2023年6月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202306

さ く ら       山崎 聰

こえを出すこともなくなり寒の底
凧あがる天まであがりふと不安
やさしさとちがうぬくもりさくらの夜
花菜みち遠くから呼ばれたようで
男二人女三人さくらの夜
さわさわとさくらが散って夜のはじめ
明日からはがんばろうねと春の暮
さくら散ってこの世大きくなりにけり
葉ざくらの上野千駄木男とおる
二人並んでひらひらと五月雨

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202306

新  緑       米田 規子

つくしたんぽぽ旅という別世界
一行詩生まれ新緑にそよかぜ
母むすめほど良く離れクレマチス
花ふぶき悠々自適なんて嘘
ラベンダーと遊んだしっぽ猫帰宅
若楓はにかんで言う「ありがとう」
どくだみの四五本抜いて旅の朝
見送りてもとのふたりに草若葉
悩ましい最後の五文字青嵐
花万朶その日うれいに支配され

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2023年3月号より

毛糸編む運河に潮の来る気配       加藤千恵子
陽の当たるただそれだけの木守柿     松村 五月
人といて人の寂しさ小春空        大見 充子
母眠り家眠り山眠りけり         秋山ひろ子
おもむろに雲がうごいて街師走      鈴木 瑩子
霜月のまんなかにいてとんがって     小林マリ子
路地裏は今も路地裏冬牡丹        石井 昭子
木枯しや多摩の子らには多摩の風     中野 充子
岬までまっすぐな道野水仙        廣川やよい
夜の音たとえば落ち葉重なりて      北尾 節子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2023年3月号より

あたたかき今日のこの日の返り花     森村 文子
冬紅葉もういいかいと鬼の云う      加藤千恵子
十二月八日虚空より羽の音        中村 克子
遺されてなお山茶花のうすあかり     河村 芳子
北総の沼尻あたり初時雨         小川トシ子
一歩ずつ雪のきざはし父の家       川口 史江
もうすぐ会える冬青空の青の中      小林多恵子
少年のナイフに光る春日かな       吉本のぶこ
無防備な自由のさきに鹿鳴けり      小澤 什一
それぞれに細長い影冬の午後       北尾 節子     

 

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

金平糖は光のかけら春の風        横田恵美子
春一番とぎれとぎれのトランペット    伴  恵子
背景はいつも笑っている躑躅       池宮 照子
春疾風廊下の奥の火消し壺        原  啓子
月天心まっすぐ続く白い道        酒井 介山
友偲ぶ幹くろぐろと花の昼        原田 峯子
春の風突然止まる縄電車         金子 良子
裸木の影踊りだす風の大地        中野 朱夏

【白灯対談の一部】

 金平糖は光のかけら春の風       横田恵美子
 卓の上にピンクや白、水色などの金平糖がころがっていて春の光の中で煌めいている。まるで一枚の写真のような俳句だ。眼前の情景をきちんと詠い、鮮やかな一句である。
  その中で作者の感じ取ったことが〝金平糖は光のかけら〟と云う措辞で、特に〝光のかけら〟がこの句の眼目と思う。
 一方、結句〝春の風〟に意外性はないけれど、ごく自然な流れの中で掴んだ季語と思われる。この〝春の風〟が〝光のかけら〟と響き合って一句をより豊かにふくらませている。

 春を待ちわびていた作者にとって金平糖の色や可愛い形などがまさに春の喜びなのだ。

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響焰2023年5月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202305

きのうきょう       山崎 聰

みんな一緒に歩こうよ冬の星
きのうきょう快晴なれど北風強し
人通るたび寒くなる雪の街
日本列島どこかが雪の日曜日
すこしだけ死が見えてきて丘に雪
きのう青空きょう雪空という不思議
横浜元町蝶二頭縺れくる
ふたりでおれば秋の大きな日が落ちる
赤とんぼ東京を出てみちのくへ
ばら咲いてききょうが咲いて雨の中

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202305

何 摑 む       米田 規子

ともしびの遠くにひとつ二月尽
紅梅白梅ときめきが足りなくて
春雨やふっとひと息木曜日
スイートピーこれから叶うこといくつ
春の夢母とむすめとその娘
がたんごとんトトロの森へ春の月
三月のざわざわぐらり何摑む
永き日を行きて戻りぬ亀の首
落椿その後の彼女しあわせか
芽柳の風の曲線詩をつむぎ

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2023年2月号より

その夜の思索の中へ木の実降る      石倉 夏生
ゆきもよい遠くの家に灯がついて     加藤千恵子
紅葉かつ散るふるさとは薄目して     中村 克子
冬晴は真水が空にあるような       大見 充子
郁子の実や古里を待つのは私       波多野真代
みちのくはぼんやりやさし黄のカンナ   河津 智子
海を見て山を見ていま郷の秋       小林マリ子
群青の空の入口木守柿          大森 麗子
いわし雲坂の途中の洋書店        廣川やよい
銀杏黄葉散り尽くしてから冷静に     藤巻 基子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2023年2月号より

そよかぜに磨かれてゐる枯蟷螂      石倉 夏生
鶏頭の頭を撫でて日が暮れて       森村 文子
駅という冬めくところ横浜は       渡辺  澄
昼前に雨あがりけりさて師走       松村 五月
晴は真水が空にあるような        大見 充子
もみじあかり合わせ鏡の右ひだり     河村 芳子
ちちとはは芋にんじんのあたたかし    鈴木 瑩子
さびしさを真っ赤に灯し烏瓜       川口 史江
真葛原途方にくれるひとところ      中野 充子
いっしんに野菊は今日の空の色      石谷かずよ

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

雪女わらべうたより生まれ出る      中野 朱夏
しなうこと知らぬままなる枯薄      池宮 照子
春を待つ肩の力を抜いて待つ       金子 良子
春泥にころがっている幼き日       牧野 良子
寂しさに極上のあり寒茜         黒川てる子
陽に抱かれ風に磨かれ梅ふふむ      原田 峯子
ゆらゆらと茶柱二本春を待つ       横田恵美子
四世代触れたる蒔絵の雛道具       辻󠄀  哲子

【白灯対談の一部】

 雪女わらべうたより生まれ出る      中野 朱夏
 一読、軽い驚きと作者の感性の豊かさに心を打たれた。私がこれまで抱いていた〝雪女〟とは違うイメージを思い浮かべた。それは〝雪女〟の誕生を詠っていることと〝わらべうた〟から生まれると云う作者の独断がとても美しいからだ。これまで想像していた〝雪女〟はどちらかと云えば妖怪に近い幻想的なイメージ。朱夏さんの詠う〝雪女〟は純真無垢で、もっと人間に近い〝雪女〟。その自由な発想に脱帽。
  <雲よりも薄き月なり実朝忌>
 上五中七と〝実朝忌〟との微妙な関わりが素晴らしいと思う。全然別のことを詠いながら〝実朝忌〟への着地が良かった。読後に命の儚さがじーんと伝わってくるのだ。物静かに詠っているが、句の拵え方がすぐれている作品だ。

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響焰2023年4月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202304

十 二 月       山崎 聰

めがねはどこにカチカチと冬の夜
秋の長雨らし東京の石だたみ
すこし寒くなって東京の奥の奥
とちぎは寒しとうきょう眩し丘の上
深川のまんなかあたり冬の晴れ
霜柱踏んでたしかに生きている
今日のことだけを思いて雪の中
雲か雪か遠山の日暮れどき
ひそかなるたのしみ大雪のあとの景
十二月こころを軽くして町へ

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202304

雲 湧 い て       米田 規子

人の輪をいっとき離れ紅椿
寒禽の声とんがって検査の日
梅の香やきのうと違う雲湧いて
春の匂いきょうやわらかき空の青
抜かれゆく血のワイン色春寒し
薄氷や見えないものに目を凝らし
梅ひらき睫毛のながい男の子
はじめてのピアノのドレミ春の雲
ふくふくと茶葉のひろがり春彼岸
生も死も風にふるえてクロッカス

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2023年1月号より

萩の花こぼるる日暮呼ばれいて      栗原 節子
いもうとのすぐ泣きやんで暮早し     渡辺  澄
仲秋の眠れば澄みて笙の笛        大見 充子
ほろほろと父の晩年銀木犀        小川トシ子
小鳥来る幸せそうな形して        秋山ひろ子
あれこれとこれもあれもと夏のはて    相良茉沙代
風の先見えるはずなく十一月       鈴木 瑩子
群衆のうしろの翳り十三夜        大森 麗子
やわらかくひと日は暮れて赤のまま    大竹 妙子
ほつほつと愛おしき日々茨の実      石谷かずよ

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2023年1月号より

雑木山冬の足音近づけて         栗原 節子
秋高しあるいてゆけるところまで     加藤千恵子
人の目に黙に疲れて秋灯         中村 克子
仲秋の眠れば澄みて笙の笛        大見 充子
晩秋や大川わたり清州橋         岩佐  久
鰯雲引き返すにはもう遅い        蓮尾 碩才
秋日和ひかりと影の交差点        小川トシ子
風の先見えるはずなく十一月       鈴木 瑩子
秋惜しむ安達太良山の空の青       小林マリ子
雲の峰モーゼは海を割り進み       齋藤 重明

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

冬の床つくやたちまち孤島なす      池宮 照子
冬銀河かなわぬ夢はポケットに      横田恵美子
元旦や我をつらぬく光の矢        伴  恵子
乾物に磯の香ほのか喪正月        菊地 久子
太陽のひかり整い梅二月         牧野 良子
晩節は落ち着かぬもの花八ツ手      金子 良子
干蒲団ただそれだけの平和かな      黒川てる子
畳屋の軒の鳥籠小春の日         原  啓子

【白灯対談の一部】

 冬の床つくやたちまち孤島なす      池宮 照子
 一読、真冬の夜の寒さに身も心も凍るような気がした。それでもこの句に惹かれたのは、私自身大いに共鳴できたことと、個性的な詠い方に迫力があったからだ。
 掲句の内容を俳句で詠おうとすると、ともすれば散文のようになりがちだと思うが、中七で〝つくやたちまち〟と切って俳句のリズムに乗せたところが良かった。音楽に例えれば〝つくや〟〝たちまち〟それぞれにアクセントが付いている感じがして、その措辞が力強い。
 〝冬の床〟がたちまちにして〝孤島〟のようになると云う大変厳しい心情を吐露した俳句だが、拵え方に工夫があり、魅力的な一句となった。
 <初夢のあらすじ描き熟睡す> 最初の句とは対照的でとても楽しい一句だ。予め〝初夢のあらすじ〟を考えておくとはユニークな発想だ。しかも結句〝熟睡す〟と着地して遊び心たっぷりの俳句で面白い。

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響焰2023年3月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202303

あいついまごろ       山崎 聰

青空の奥も青空赤とんぼ
秋はじめ本郷通り風吹いて
虫の夜あいついまごろどうしてる
地震のあと神鳴り三たびそして雨
どんぐりを踏んでたしかに生きている
ことし逝きたる誰彼のこと十一月
日暮れはさびし雪止みしあとはなお
きのうきょう杖突いてゆく落葉道
九十一歳雪の中雪を被て
落葉みち東京という大都会

 

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202303

天 の 声       米田 規子

冬枯や朝の匂いの目玉焼
黙々とはたらく背中冬ぬくし
限りなく枡目を埋める冬の星
一月や日の温もりの大きな木
忙中の閑を探して冬木の芽
冬帽子風吹き止まぬ胸の中
悴めりスマホに時間奪われて
山眠る縷々と血脈うけつがれ
裸木のみな宙を指し天の声
好日やこんにゃくを煮て着ぶくれて

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年12月号より

墓のみち坂道容赦なき残暑        栗原 節子
じゅうぶんに老人になり曼珠沙華     森村 文子
障子貼るこの世にわたしのいるかぎり   渡辺  澄
その先は舟でゆきたし十三夜       加藤千恵子
拠りどころなければ歩き夜の秋      松村 五月
泣かないで木槿の花の咲いただけ     大見 充子
海暮れてふりむくこともなく晩夏     秋山ひろ子
夏鶯柱磨いて夕暮れて          楡井 正隆
あなたの眼あなたの青空レモン切る    小林多恵子
山と川草と家在る秋の暮         吉本のぶこ

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年12月号より

母戻るころかなかなの声しきり      栗原 節子
初嵐未来のことは忘れけり        渡辺  澄
その先は舟でゆきたし十三夜       加藤千恵子
拠りどころなければ歩き夜の秋      松村 五月
歩かねば明日が遠く秋日傘        和田 璋子
遊びたい猫とカマキリ昼の月       秋山ひろ子
あんなことこんなことなど夏のはて    相良茉沙代
赤とんぼあとすこしだけここにいる    石井 昭子
先生の捩じり鉢巻秋の雲         廣川やよい
山と川草と家在る秋の暮         吉本のぶこ

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

冬ざれやスキップする子の赤い靴     伴  恵子
蒲色の秋を漕ぎゆくふたりづれ      中野 朱夏
初雪やお地蔵さまの欠け茶碗       菊地 久子
極月をじっと見下す鴉かな        金子 良子
寒泉のおもて平らかならずして      池宮 照子
万葉の風そよぐころ杜鵑草        牧野 良子
山茶花や優しい声が遠くから       原  啓子
インバネス祖父の矜持の厚さかな     増澤由紀子

【白灯対談の一部】

 冬ざれやスキップする子の赤い靴     伴  恵子
 この冬もクリスマスの煌めくイルミネーションに始まり、年末年始の行事がひと通り終わるころ、あたりは日常の貌を取り戻し、本格的な寒さと〝冬ざれ〟の蕭条たる木立や街並はモノトーンの世界へと変化する。〝冬ざれ〟と云う季語は単に目の前の景色を表わすだけでなく、なにか人の心にも寂しさを感じさせるようだ。
 掲句はそんな〝冬ざれ〟と〝赤い靴〟との取り合わせで、一気に世界が明るくなった。しかも〝スキップする子〟が登場して、冬の寒さにも負けない元気な様子が目に見えるようだ。〝スキップする子の赤い靴〟は、スキップする子どもの活発な動きと、モノトーンの風景の中の〝赤〟を際立たせていて生命力を感じた。平明なことばを使い、詠いたいことがしっかり表現できている作品だ。

(さらに…)

響焰2023年2月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202302

いつしか       山崎 聰

関東に大雨警報かたつむり
蝶とんぼしきりにとんで大埠頭
夾竹桃咲いていつしか父のこと
誰にも会わずいっせいに蟬が鳴く
亡き人を思いいわし雲の彼方
そうかそうかとうなずいている虫の夜
落日をさいごまで見て灯の街へ
すこし寒くなって東京の路地の奥
ひとりであるくあたたかい日の落葉みち
駅を出て港の方へ冬帽子

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202302

ポインセチア       米田 規子

落葉踏むむかしのはなし美しく
あかるいほうへ大きく曲がり冬の川
渋柿の渋抜けるころ日本海
はじまりはスローバラード冬景色
冬のガーベラ精いっぱいのわたし
冬至南瓜こっくり煮えて母の笑み
背中押す見えない力冬木立
ポインセチア燃えほろ苦き帰り道
降誕祭むすこが作るビーフシチュー
愛がまだくすぶっている枯木山

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年11月号より

愁思とは沼を動かぬ雲一片        石倉 夏生
舟が来てみな舟に乗る八月よ       森村 文子
赤トンボひと日ひと日を旅として     加藤千恵子
八月は手足の長い影である        松村 五月
掃苔や向き合えばなお風の音       河村 芳子
はじけ飛ぶのは哀しいから鳳仙花     波多野真代
真ん中に不条理がおり夏の雲       蓮尾 碩才
少年にかかえきれない夏終る       石井 昭子
甚平の背ナ追いかけて夢の中       川口 史江
夏蝶の波に溶けゆく夕間暮れ       中野 充子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年11月号より

満月をよぎる柩の孤影かな        石倉 夏生
充実の色となりたる茄子の紺       栗原 節子
舟が来てみな舟に乗る八月よ       森村 文子
赤トンボひと日ひと日を旅として     加藤千恵子
戦争の気配蠅叩買い替える        中村 克子
酔芙蓉拠りどころなき今日であり     松村 五月
虫籠の光を逃がす夜の底         蓮尾 碩才
炎天や一方的にせめてくる        小川トシ子
亡き人の日々に濃くなり夏の月      戸田富美子
守宮来る入院の日の軒先に        浅野 浩利

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

秋風に押されて入る西洋館        牧野 良子
時雨るるや代わる代わるに父母の声    池宮 照子
手を広げ海の半円抱く秋         伴  恵子
一歩ずつ宮益坂をうすもみじ       金子 良子
夕暮の白く冷たき葱一本         原  啓子
この国の戦後いつまで秋夕焼       菊地 久子
モーツァルト神は花野に棲み給う     中野 朱夏
野の花はやさしい色に一葉忌       朝日 さき

【白灯対談の一部】

 秋風に押されて入る西洋館        牧野 良子
 去る十月二十七日、横浜にある神奈川近代文学館で三年ぶりの「白秋会」が開催された。コロナ禍以降さまざまな行事を中止していたので、久しぶりの再会に皆の気持ちが弾んだ。
 その日は秋晴れで吟行には最高の日和だった。「港の見える丘公園」をはじめとして、外人墓地や西洋館など異国情緒あふれる街並を吟行した。ブラフ十八番館、エリスマン邸、外交官の家などの西洋館は歴史ある建物なので重厚な感じが漂う。何度訪れても西洋館とその周辺の雰囲気に魅了される。
 掲句はまさに「白秋会」での吟行句だ。私が注目したのは〝押されて入る〟と云う措辞だ。単に〝秋風〟が作者の背中を押したのではない。西洋館の敷居が高かったとも思えないのだが、なにか一瞬のためらいがあったようだ。作者は自ら入ったのではなく〝秋風に押されて〟入ったような感覚だったのだ。その感じを捉えて即座に一句作ったのではないか。吟行句としても、また吟行を離れても立派に成り立つ作品だと思う。

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響焰2023年1月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202301

無為の日々       山崎 聰

さくらたんぽぽ九十一歳男子なり
ほととぎす里のちちはは如何におわす
古本に囲まれ暮らす夏の日々
終戦の日山鳩がしきりに鳴いて
大空をちぎれ雲とび秋立つ日
山鳩が朝から鳴いてきょう母の日
満月のあとの数日村の地蔵
秋の虫鳴きはじめさて父母如何に
屈託の行ったり来たりして夜長
ふたつみつ山栗こぼれ無為の日々

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202301

少し青       米田 規子

横浜やポンポンダリアの晴れの空
小春日のマスク外せぬ日本人
ラフランス熟して詩(うた)になるところ
鴉啼き立冬の空少し青
急坂やぎんなん降って風吹いて
夕空にうっすらと富士ふゆはじめ
小豆煮る遊びごころをかきまぜて
核心のわからずじまい冬林檎
熊手を高くエスカレーター下りてくる
冬の星行きつくところ独りなり

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年10月号より

ひまわりの列しんかんとして真昼     栗原 節子
海の駅うしろすがたの麦わら帽      森村 文子
手に残る鉄鎖の匂い日雷         松村 五月
是非もなし八月の空ほろ苦く       大見 充子
廃線の行き着くところ大西日       北島 洋子
とりとめのない日々蟬が鳴き出して    秋山ひろ子
笹舟のおぼつかなきも風のせて      鈴木 瑩子
やわらかな午後の風音おおでまり     楡井 正隆
純粋のあつまっている青ぶどう      小林多恵子
見えぬもの見えぬままなり八月来     吉本のぶこ

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年10月号より

一色の思想ひろがり小下闇        石倉 夏生
夏青空歩いて休んでまだ遠い       森村 文子
八月やモーツァルトを人類に       松村 五月
朝曇りどこぞを病みて眉を引く      河村 芳子
是非もなし八月の空ほろ苦く       大見 充子
ぴかぴかの青空かたつむりの休日     秋山ひろ子
遠花火海の声いま父の声         河津 智子
たちまちに海の暮れゆく半夏生      楡井 正隆
日の盛水音軽く山の寺          廣川やよい
つづれさせあれは還らぬものの声     吉本のぶこ

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

敬老日クイズ一位の鯨缶         菊地 久子
満月の微かに揺らぐ水面かな       酒井 介山
改札を過ぎて一歩の月今宵        牧野 良子
冬めくや猫は尻尾返事する        金子 良子
地下街のどこから出ても鰯雲       横田恵美子
陶然とタクトのままに猫じゃらし     池宮 照子
親子とて山は極秘の茸狩         梅田 弘祠
朝練のスマッシュ強く百舌の声      長谷川レイ子

【白灯対談の一部】

 敬老日クイズ一位の鯨缶         菊地 久子
 令和4年9月10日の満月は本当に素晴らしかった。月光が降り注いで辺りは白々と明るく、夜空に輝くまん丸なその月は心が洗われるほど美しかった。
 作者の菊地久子さんとは、ずっと以前お互いに若かった頃、響焰の白秋会など大きな吟行会でお会いしたことがあり、とてもお元気で楽しい方だったと記憶している。それ以来お会いしていないが、地元でしっかりと俳句の勉強をされてご活躍の様子なので嬉しく思っている。
 掲句は単刀直入にズバリと〝敬老日〟を詠んだところが面白い。動詞は使っていないので説明など無く、ポンポンポンと勢いが良い。取り分け結句の〝鯨缶〟は秀抜だ。意外な一等賞に作者も驚いてこの句が生まれたのかもしれない。 同時発表の<たたかいの匂いのひとつ蒸し藷>にも共鳴。コロナウイルスとの闘い、ロシアとウクライナの戦争など不穏な世界情勢を作者の目線で描いた佳句と思う。

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響焰2022年12月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202212

秋から冬へ       山崎 聰

雨降りつづき著莪の花著莪の花
忘却の彼方にありて夏の雲
山暮れてそろそろ河鹿鳴くころか
敗戦日月下うかうか生き延びて
大声で呼ばれふり向く蛍の夜
もうすこしがんばってみよう夏満月
真暗がり誰も知らない蛇の穴
町に出てすこし歩きぬ月の夜
めずらしきことと思いぬ屋根に雪
新宿も銀座もさむき秋立つ日

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202212

小さなハート       米田 規子

風を描きカンバス一面花野原
平凡ないちにち林檎の紅きいろ
まだ柿の色付き足りぬ夕日かな
すこやかに術後一年秋桜
ぼんやりと未来が見えて吊し柿
泡立草なんだかんだと云ってくる
ベルギーチョコの小さなハート秋灯
こわごわと通草の冷えを掌に
ビルの灯のビルをあふれて暮の秋
おだやかなきょうを賜り紅葉狩

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年9月号より

母家より少し離れて桐の花        栗原 節子
砂山の向こう砂山夏の海         森村 文子
自販機の中の混沌いなびかり       加藤千恵子
人の死に蝶のあつまる夕まぐれ      中村 克子
薔薇散ったあとのうやむやそれを見る   松村 五月
森騒ぐ風がみどりとなるころか      大見 充子
青葉騒とおくで赤子泣いている      小川トシ子
白南風や一丁目一番地の空        山口美恵子
水無月のうす昏がりの少年よ       鈴木 瑩子
空っぽの夕立あとの裏通り        小林多恵子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年9月号より

沖縄忌町に夕餉の匂い満ち        和田 浩一
我先にそよぎだす青ねこじゃらし     石倉 夏生
青空は心底さみし花いばら        栗原 節子
太初より言葉はつばさ麦の秋       加藤千恵子
明け方の正しい位置に蟇         松村 五月
過ぎゆくは日傘の男昌平坂        河村 芳子
みんな居て一人足りない梅雨の月     大見 充子
寅はなくさくらも八十路夏は来ぬ     蓮尾 碩才
青田風何もないけど卵焼         山口美恵子
幸せはあなたのうしろかたつむり     加賀谷秀男

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

窓ぎわの折鶴の影良夜かな        横田恵美子
裏返して愁思をはたく二度三度      池宮 照子
風の名にそれぞれ母国秋隣        齋藤 重明
洗濯物ふわりと落ちて大夕焼       金子 良子
秋の蟬古刹の階に転がれる        鹿兒嶋俊之
名月や庭どなりから下駄の音       長谷川レイ子
音もなくただ風が吹く今朝の秋      北尾 節子
無花果を捥いで生家の空の色       牧野 良子

【白灯対談の一部】

 窓ぎわの折鶴の影良夜かな        横田恵美子
 令和4年9月10日の満月は本当に素晴らしかった。月光が降り注いで辺りは白々と明るく、夜空に輝くまん丸なその月は心が洗われるほど美しかった。
 掲句は下五〝良夜かな〟と静かに詠嘆をしている。作者も仲秋の名月の夜を心ゆくまで楽しんだようだ。
 この句は〝折鶴の影〟と〝良夜〟の取り合わせで成り立っている。光と影の対比とも云えるが、そこは作者の工夫のあとが見られ、「月光」とか「満月」などでなく〝良夜〟を選んだことが成功していると思う。<先を急ぐバイクの僧侶秋日和> この句にも注目。日常の一こまをひょいと掴んで楽しい俳句だ。〝バイクの僧侶〟に現代の社会が反映されている。

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響焰2022年11月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202211

とことこと       山崎 聰

すみれたんぽぽ房総のはずれに居り
海山になにもなければさくら見て
みんな仲間たんぽぽ綿毛こどもたち
牛を曳き葉ざくらの道とことこと
落柿に赤いところも村はずれ
薔薇香り関東平野雨のなか
境内は蟬鳴くばかり日暮れどき
崖下をやわらかい風七月来
坂道のもうすこし先墓参り
落葉みち杖でさぐりてふと無頼

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202211

茨 の 実       米田 規子

誰かれのこと青柿おもくなる
飲み忘れたる薬のゆくえ天の川
茨の実ひと山越えてはじめから
土砂降りの音フォルテシモ林檎噛む
FAXのはらり一枚虫の闇
約束をのばしてもらい秋夕焼
台風の進路にいるらし塩むすび
その先を考えている竹の春
秋しぐれチャーハン跳ねる中華鍋
ハキハキと答える子ども豊の秋

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年8月号より

みどり立つ雨の水輪の飛鳥山       栗原 節子
五月青空えんぴつの転がって       森村 文子
憲法記念日ぶつかってくる黒い影     中村 克子
曖昧に人集まって春闌ける        松村 五月
ひとりずつ空の真ん中五月晴       大見 充子
ざわざわと勝鬨橋の白い靴        蓮尾 碩才
園児のこえ先生の声麦の秋        小川トシ子
街の灯のひとつずつ消え遅き春      相良茉沙代
入口のふくらんでいる春の街       楡井 正隆
下町の夏の太陽小学校          廣川やよい

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年8月号より

廃校のそれぞれの窓夕桜         和田 浩一
五月青空えんぴつの転がって       森村 文子
葉桜やまだ何者でもない少年       松村 五月
ひとりずつ空の真ん中五月晴       大見 充子
手のひらの百円軽く春の昼        蓮尾 碩才
てっぺんは夏雲になる観覧車       北島 洋子
更衣風を待たせていたりけり       秋山ひろ子
入口のふくらんでいる春の街       楡井 正隆
花は葉にやがて日暮れを呼ぶように    大森 麗子
新樹さざめき遠景を見失う        小林多恵子

 

【米田規子選】

<白灯対談より>

壁に翅広げいるもの秋澄めり       池宮 照子
雲とんで山の彼方へ墓洗う        北尾 節子
ばらばらと愛が崩れてダリアの夜     牧野 良子
大夕立壁の魚が泳ぎ出す         横田恵美子
神鳴や線香灯すおばあさん        鹿兒嶋俊之
トマトごろごろ新聞の休刊日       金子 良子
明易し欄間に動く松の影         原田 峯子
橋数多通るセーヌの舟遊び        増澤由紀子

【白灯対談の一部】

 壁に翅広げいるもの秋澄めり       池宮 照子
 年々、夏の暑さが厳しいと感じるようになった。それは地球温暖化のせいだけでなく、加齢による体力不足も大いに関係がある。そんな夏の暑さをなんとか凌ぎ、ある日ふっと秋が訪れる。これまでと明らかに違う風に心と体が安らぐ。そして秋の空、水、空気などがどんどん透明感を増してゆく。
 掲句は作者なりの感じ方、詠み方で存分に〝秋澄めり〟を表現していると思う。まず〝壁に翅広げいるもの〟と見た瞬間を捉えた措辞は素晴らしい。読み手は〝翅〟の薄さやほんの少しの震え、あるいは壁と同化しそうな翅の広がり方など多くのことを想像できるのだ。そして、その巧みな措辞のあと十分な間合いがあって、〝秋澄めり〟と着地した。前半はとても緻密なフレーズ、結句は〝秋〟そのものを全身で享受しながら、どこまでも澄みゆく〝秋〟を読み手に伝えることができた。
 同時発表の<盆の月宗朝体の紹介状>にも注目した。何も云ってないが、〝盆の月〟が効いていて格調高い一句。

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響焰2022年10月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202210

無  聊       山崎 聰

明日が見えるはずもなくももさくら
これからを思えばさびし花のあと
さくら散り鳥啼き海山暮れはじむ
青葉木菟ひとこえ鳴いて無聊なり
海山のあわいに光みどりの日
東京は朝から晴れて梅雨の入り
青葉騒ひそひそといる彼彼女
五月の雨郵便局を過ぎてすこし
ふたつみつ青梅ころげああ無情
彼彼女そしてわれらに夏来たる

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202210

栗色の髪       米田 規子

夕蟬の声のさざなみ風生まる
ゆく夏の木陰に集いジャズバンド
この世に行き交い空港大夕焼
くらくらと時差にねじれて夏落葉
米国につながるいのち金銀花
PCR検査大陸残暑かな
朝霧の光を踏んでしんがりに
アメリンカンジョーク遅れて笑い水の秋
栗色の髪やわらかく泉汲む
狂おしく暮れる大空百日紅

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年7月号より

春宵のページめくれば地獄絵図      石倉 夏生
しずけさに深さのありてさくら満つ    栗原 節子
さくらさくら清らかなる白骨に      森村 文子
花筏ごつんごつんと自由なり       加藤千恵子
ひとりずつ離れて座る朧かな       中村 克子
夜に散るなりさくらいろの桜       松村 五月
さくら見て塔へのぼってふと不安     波多野真代
大空を白い夢ゆく春の午後        楡井 正隆
きいろからはじまる春よとんびの輪    川口 史江
引力を遠くはなれて春の月        石谷かずよ

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年7月号より

切株の年輪の数戦災忌          和田 浩一
春眠の奥へ躰を置いて来し        石倉 夏生
しずけさに深さのありてさくら満つ    栗原 節子
ひとりずつ離れて座る朧かな       中村 克子
夜に散るなりさくらいろの桜       松村 五月
夕桜一軒残る餅菓子屋          岩佐  久
病む人にともす一灯初桜         大見 充子
たましいの解き放たれてさくら散る    波多野真代
地球儀の地球でこぼこ花曇        石井 昭子
引力を遠くはなれて春の月        石谷かずよ

 

【加藤千恵子選】

<白灯対談より>

横浜の大きな空をほととぎす       金子 良子
情動の解き放たれて月下美人       池宮 照子
梅雨寒や隅に落着く珈琲店        横田恵美子
青い花一気に咲いて夏来たる       北尾 節子
白濁の出て湯に浸かり明易し       鹿兒嶋俊之
路地裏の風鈴ついに風になる       牧野 良子
壺に挿すひまわりあふれ笑顔の黄     長谷川レイ子
山開き仲間と集う山の小屋        山田 一郎

【白灯対談の一部】

 横浜の大きな空をほととぎす       金子 良子
 鳴き方は「天辺かけたか」とか「特許許可局」と聞こえるほととぎす。この小さな渡り鳥は口腔が赤く、「鳴いて血を吐く」と云われた。
 杉田久女の<谺して山ほととぎすほしいまま>は有名。
 以前響焰の新樹会で鎌倉の新緑を歩いた時、この句の凄さをひしひしと感じた。
 さて、金子さんの〝ほととぎす〟を詠った掲句も、スケールの大きい明るい作品で、久女に負けていない。
 因みに作者は横浜の人であり、その〝大きな空〟のもとで暮らしている。例えば「東京の大きな空」では詩に遠いものになってしまう。〝ほととぎす〟も絶妙で動かない佳句。

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響焰2022年9月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202209

葉ざくら     山崎 聰

死もすこし見え大雪の朝の景
明石町葉ざくらの路地からこども
葉ざくらの川沿いのみち異人館
さくら吹雪のうしろ青空こどもたち
キエフは遠し葉ざくらの道なお遠し
ちちよははよ葉ざくらの街過ぎるとき
何するということもなくみどりの日
遠く近く亡きもののこえ若葉雨
新緑が遠くにありてふつうの日
山峡に住んで十年ほととぎす

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202209

シナモンロール       米田 規子

夏蝶のワルツ右脳を喜ばす
入道雲B4出口に辿り着き
片蔭に身を細くして大都会
夏の少女よ黒髪のやや重く
この街の空に親しみ立葵
緑蔭に散らばり詩人らしくなる
のび放題の夏草とのっぽビル
たそがれて曲り胡瓜のひと袋
スカートに絡む海風晩夏かな
香りよきシナモンロール秋隣

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年6月号より

深々と木の葉を沈め蝌蚪の陣       栗原 節子
亀鳴くやかなしみは人に残りて      渡辺  澄
抜け道の先のくらがり孕み猫       小川トシ子
雪の匂い水の匂いの春の家        秋山ひろ子
ふるさとの駅がらんどう春北風      山口美恵子
海へ行くまっすぐな道春夕焼       楡井 正隆
小さき街へ小さき春くる赤いくつ     石井 昭子
躓きの先に見えくる春の虹        中野 充子
春の風街角曲り花屋まで         森田 成子
秩父嶺のふわりとうかぶ春夕焼      小林多恵子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年6月号より

探梅の人差指にみな従ふ         石倉 夏生
雛飾り戦をにくむ母であり        渡辺  澄
遠き日へ雛を帰し海を見に        加藤千恵子
いち日はやさしい色の毛糸編む      松村 五月
初蝶ゆらり硝子玉やや白濁        河村 芳子
エリカ咲く涙色してウクライナ      大見 充子
三月の雲なにもなかったように      波多野真代
朧夜のにおいのひとつ玉三郎       鈴木 瑩子
虚ろなる東京の空ふきのとう       大森 麗子
ふらここのゆれ残りたる夕間暮      浅野 浩利

 

【米田主宰の選】

<白灯対談より>

薫風や犬に従う一万歩          牧野 良子
真っ赤なトマト誰からも愛されて     原  啓子
木道にひと刷毛の風梅雨晴間       池宮 照子
夏木立あるいは神の通り道        北尾 節子
薔薇園や裸像の弾く日のひかり      鹿兒嶋俊之
頑張って生きているかと百千鳥      原田 峯子
百年が壱人生ぞ竹の花          畑  孝正
紫陽花やベンチに杖の忘れもの      金子 良子
トンカツを切る音キャベツ刻む音     黒川てる子

【白灯対談の一部】

 薫風や犬に従う一万歩          牧野 良子
 この句の作者は犬派で、日々愛犬との生活を楽しんでいるようだ。ペットのお世話をする大変さはあっても、それ以上に愛犬と触れ合うことで幸せを感じていることだろう。
 掲句で注目したのは〝犬に従う〟と云う措辞だ。犬は人に従順な動物だと思うが、この句では立場が逆で作者が〝犬に従う〟ことを詠んだ。風薫る気持ちの良い日に作者と愛犬は颯爽と〝一万歩〟を歩いた。健康な犬と元気な作者が見えてくる。喜んで〝犬に従う〟感じが微笑ましい作品だ。
 同時発表の<鉄線花空家になってからのこと>にも共鳴。なにやらミステリアスな雰囲気を醸し出しており〝鉄線花〟の斡旋も良かった。

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響焰2022年8月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202208

さくら散る     山崎 聰

立春を過ぎ朴の葉のまるいところ
海よりも山よりもなお春空よ
さくら散って見えるものみな眩しい日
高原の牧場遠く山ざくら
ざわざわとかついっせいにさくら散る
人いつも不意に奈落へ春の夜
さくら散ってなにも見えなくなりにけり
晩春というさびしい日のコーヒー
大きな空にちぎれ雲飛びみどりの日
青空はいつも遠くに朴の花

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202208

麦   星       米田 規子

にっぽん青天新茶の封を切り
我もまた弱者のひとり青葉木菟
走り梅雨バジルを摘みて香る指
少年に銃十薬の花の闇
よわき者らへ六月の風のうた
麦星やジャズピアニスト獣めき
つんつんと元気まひるの青木賊
短夜の黙って食べるおとこなり
白南風や一身上という訣れ
はたらいて働いてひるがおに夜

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年5月号より

樹の洞に枯葉の溜まるふるさとよ     栗原 節子
少年の涙のかたち冬の蝶         森村 文子
いつからの無口ひひなもはらからも    加藤千恵子
にんげんの影につまずく冬の蝶      中村 克子
立春大吉月の兎がまろび出て       大見 充子
ひとりひとりの帰路に漂う冬帽子     河津 智子
きさらぎの鏡のなかの向う側       鈴木 瑩子
つまずいて身の内揺らぐ冬の月      石井 昭子
大空に帰路という道雪あかり       大森 麗子
生国おもう雪のにおいと雪のいろ     中野 充子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年5月号より

梅白し無菌の風を深く吸ふ        石倉 夏生
すこし寒い春風のよう君は        森村 文子
奪いあう母の膝なり春兆す        渡辺  澄
校庭に晩秋という落し物         中村 克子
青春は二月の駅に吹き溜まる       松村 五月
きさらぎの河馬の薄目をあけるごと    大見 充子
泣き面や眩きほどの寒の月        波多野真代
動かない山がうしろに日向ぼこ      秋山ひろ子
素気なく別れてきたが雛の家       相良茉沙代
雨降らば雨やわらかき二月尽       石井 昭子

【米田主宰の選】

<白灯対談より>

影として頭上をわたる夏の蝶       池宮 照子
よく晴れて四十九日の蝶二頭       齋藤 重明
不可もなく可もなく春の無音の日     北尾 節子
半分は海の風なり鯉のぼり        牧野 良子
葉桜の奥の暗がり石の塔         鹿兒嶋俊之
年月のべっこう色の夕焼けかな      増澤由紀子
風五月おむすび一つ食べ残す       金子 良子
花冷えや焼きたてパンと珈琲と      原田 峯子

【白灯対談の一部】

 影として頭上をわたる夏の蝶       池宮 照子
 異次元からふいにやって来て、タテにヨコにひらひら舞って、しばらくするとふっと視野から消えている。蝶々の飛行ルートはなかなか人間の目で捉えることができない。優雅に見えるその飛翔だが、懸命に薄い翅を動かしているのではないだろうか。
 掲句の上五〝影として〟と云う導入は、最初から現実を越えた存在としての〝夏の蝶〟を詠おうとしていると思った。作者は〝夏の蝶〟を見ていると云うより感じているのだ。真夏の明るい陽射しの中を軽やかに飛んでいる蝶とは違って、この句の〝夏の蝶〟に重さを感じるのだ。たぶんそれは作者の心象風景の〝夏の蝶〟だから。頭上をやや重く飛ぶ〝夏の蝶〟は作者の心の翳でもある。いろいろなことを考えさせられる深い一句だと思う。
 <辺縁の国人として沖縄忌> 沖縄に住む作者ならではの一句として注目した。

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響焰2022年7月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202207

うしろから     山崎 聰

老化とは死に至る道月夜茸
芒穂に村を出るとき傘さして
ところどころ街の灯も見え大雪の朝
雪にとんで赤青きいろ子供たち
東京も信濃も雪の日曜日
いちにちさびし一年迅ししずり雪
うしろから大きな声がして立春
ももさくら散って人の世はじまりぬ
立春を過ぎて十日の白い雲
晩春というにはさびし朝の雲

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202207

柿 若 葉       米田 規子

ひと息ついて春愁に包まるる
チューリップ愉快に乱れビルの街
遠き日や春のセーターははの色
竹皮を脱ぎ十年のパスポート
のどとおる白湯のまろやか柿若葉
鳩とハトときどき雀麦の秋
絵は苦手ですはつなつの自由帳
そら豆の一粒ひとつぶ物思い
青蔦やするする書けるボールペン
ズッキーニじゅわっと焼ける雨の昼

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年4月号より

みずいろの夢を見ている浮寝鳥      森村 文子
大寒をくるりくるりとタワーの灯     加藤千恵子
おずおずと月に近づく齢かな       中村 克子
縮みゆく己れ淋しく冬の金魚       大見 充子
ポケットにブラックホール寒木立     山口美恵子
砂山の心底さみしお月さま        鈴木 瑩子
駅に向く靴音十二月八日         楡井 正隆
心柱ときに揺らぎてアマリリス      中野 充子
春時雨湯島裏窓ほの赤く         廣川やよい
寒波くるちりひとつなき老人に      北川 コト

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年4月号より

花札の裏は暗黒春の雪          石倉 夏生
冬ざくら見えない言葉みるように     森村 文子
侘助のあといくつ咲くいくつ散る     加藤千恵子
冬夕焼ぼおんぼおんと地球鳴る      中村 克子
雑踏やそろそろ雪の降るころか      松村 五月
去年今年浅き眠りはあさきまま      河村 芳子
童心やポプラの枯葉降ってきて      波多野真代
良き夢のゆめのなかなる二日かな     小川トシ子
寒波くるちりひとつなき老人に      北川 コト
雪の降り始めはきっと天国から      藤巻 基子

【米田主宰の選】

<白灯対談より>

まるい風とがった風も立夏かな      北尾 節子
父母の逢瀬のあたり桜東風        齋藤 重明
前途という光背まとい卒業子       池宮 照子
星になりたい桜貝ポケットに       牧野 良子
春暁の向う岸から牛の声         鹿兒嶋俊之
先生と信号渡る蝶の昼          原田 峯子
ほろほろと落雁崩れ春の雷        横田恵美子
右見れば左が伸びて草むしり       金子 良子

【白灯対談の一部】

 まるい風とがった風も立夏かな      北尾 節子
 〝立夏〟を迎える頃、日本は新緑が美しいだけでなく、木々の緑を揺らしている風もまた大変心地好い。
 風に形があるように〝まるい風〟〝とがった風〟と、見えないものを見えるように詠ったところが良くて、とても楽しい一句になった。作者の豊かな想像力が描いた風の形なのだ。
 掲句は〝まるい風とがった風も〟で軽い切れがあり、一呼吸してから〝立夏かな〟と着地する。上五中七のフレーズと〝立夏かな〟の措辞に直接的な関わりはないのだが、微妙な繋がりを感じるのだ。説明でもなく報告でもないこの句は軽やかで、読後に〝立夏〟のよろこびのようなものが心に響く。
 今を楽しんでいる作者の心が見える作品だと思う。

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響焰2022年6月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202206

いつ終る     山崎 聰

立冬のその日快晴男たち
東京をはなれてからの春の雪
寒い朝逝きしか太陽の慎太郎
山に雪東京は雨だが寒い
年の豆鬼からもらう朝の夢
雪にとんで赤白きいろ子供たち
がんばったねと云われてうなずく大雪のあと
東京に大雪警報ただ眠る
遊んでも遊んでもなお冬の星
すみれたんぽぽたたかいはいつ終る

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202206

残  花       米田 規子

風のオブジェか雪柳嫋やかに
束の間の春を遊びてスニーカー
リップサービス惜しむなかれ桜餅
若き死の圧倒的な花吹雪
カステラは玉子の匂い春の風邪
昨日きょう雨の気まぐれ残花かな
父の忌や遠火であぶる海苔の艶
カマンベールと青くさき四月の蕃茄
行く春の海のきらめき極楽寺
延々と続くこの道青嵐

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年3月号より

枯菊の日だまり風の行き止まり      加藤千恵子
恐いから近づいて見る冬の海       松村 五月
鰭酒や背筋きれいな人の隣り       河村 芳子
鳥さわぐ森の梟鳴くからに        大見 充子
ふゆ空のふくらんでいる坂のまち     小川トシ子
黒ぐろと木々かたまって寒の星      鈴木 瑩子
枯葎後ろ姿の空遠く           楡井 正隆
木の実降る雨の降る日は雨のように    石井 昭子
漂泊のところどころの石蕗の花      中野 充子
遠き日を尋ねるように冬の蝶       石谷かずよ

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年3月号より

枯山に枯れる音あり我にもあり      石倉 夏生
だんだんと鳥居小さく十二月       森村 文子
去るものは去りポインセチアの真昼    加藤千恵子
この聖夜リボン結びにしてしまう     松村 五月
童心やポプラの枯葉降ってきて      波多野真代
ふゆ空のふくらんでいる坂のまち     小川トシ子
神の遊びか銀杏を焼いている       山口美恵子
庭の木と語りし月日開戦日        楡井 正隆
青空の九段坂より十二月         廣川やよい
裏山に音ひとつなき初氷         石谷かずよ

【米田主宰の選】

<白灯対談より>

ゲルニカに未完の余白冴え返る      齋藤 重明
一八や口に一本指あてて         池宮 照子
ふぞろいの石段あがる花の中       原田 峯子
朗らかな行商列車桃の花         増澤由起子
遺跡発掘現場そこここに春        鹿兒嶋俊之
しゃぼん玉吹くたび違う風の色      牧野 良子
思い出すこと少しだけ春の闇       酒井 介山
春寒し積まれたままの本の嵩       横田恵美子
補助輪がはずれ少女は花菜風       金子 良子
沢庵や母の教えの塩と石         黒川てる子

【白灯対談の一部】

 ゲルニカに未完の余白冴え返る      齋藤 重明
 「俳句は先ず書いてある通りに読みなさい」と山崎聰先生が句会で何度かおっしゃったことを覚えている。それは簡単なことのようだが意外と難しい。つい読み手の主観や経験などが邪魔をして、書いてある通りではない読み方をしてしまう。その点、掲句は一分の隙もないほど完璧に構成された俳句だと思う。ただ結句〝冴え返る〟はやや予定調和的な季語かもしれない。
 周知のように〝ゲルニカ〟はピカソの代表的な作品で、戦争の惨禍をテーマにした大作である。ナチス・ドイツ軍による北スペインの町ゲルニカへの無差別空爆に衝撃を受けて描いたと云われている。掲句を読んで、作者の心の中には今のロシアとウクライナの戦争が重くのしかかっているのではないかと思った。読後の余韻が濃く、考えさせられる作品だ。

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響焰2022年5月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202205

どこまでも     山崎 聰

西日燦彼の眼の中にいるわたし
楽しきは夏満月の下の丘
双子パンダ誕生し森は秋
だんだんに死後見えてくる十三夜
夕月夜コロナの闇をいつ抜ける
秋の風十二丁目の角で会い
十三夜こえを出さねばさびしくて
丘に行くまいにちの道朴落葉
パリからの荷物が届き寒い朝
どこまでも青空と海冬の景

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202205

春を彩る       米田 規子

きさらぎや岬の白いレストラン
まずクロッカスが咲いて彼と彼女
春を彩るかまくら野菜アトリエに
美術館出てひとごえと春落葉
はくれんの大きな蕾明日の空
時短にてハッシュドビーフ木の芽雨
ひとりきりの夜の片隅フリージア
おぼろから生まれスマホの文字の数
逃げてゆく時間のしっぽぺんぺん草
今日を生きあしたのいのち花三分

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年2月号より

山の陽は父の温もり吊し柿        栗原 節子
空白の夢を見ている枯木山        森村 文子
赤も黄もわたくしの色秋深む       松村 五月
寂しさはこの空の青檀の実        河村 芳子
突き抜けた先のその先十一月       山口美恵子
八合目越えて大空赤とんぼ        楡井 正隆
青空に近い方から柿をもぐ        中村 直子
風景が押し戻されて芋嵐         加賀谷秀男
冬の川きらめく都会横切って       小林 基子
沈黙の重さに耐えかねて石榴       石谷かずよ

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年2月号より

らりるれろ草書体にてやなぎちる     石倉 夏生
山の陽は父の温もり吊し柿        栗原 節子
冬の雨離ればなれに人のいて       渡辺  澄
赤も黄もわたくしの色秋深む       松村 五月
もみじ葉を一枚拾いまた歩く       蓮尾 碩才
犬吠えて十一月の空の青         秋山ひろ子
冬に入る足音のみの朝の駅        小林 伸子
山にはやまの人にはひとの月明り     小林マリ子
たてよこに言葉をさがし秋の蝶      小林多恵子
どこまでもおおぞらひつじ雲つれて    大竹 妙子

【米田主宰の選】

<白灯対談より>

浅き春絵柄ふくらむエコバッグ      金子 良子
犬が鳴きからすが鳴いて底冷えす     原田 峰子
るんるんと空をはみ出す春日傘      牧野 良子
彼の世まで転がしてやる毛糸玉      菊地 久子
旋回の首長き鳥冬うらら         鹿兒嶋俊之
冴返る無音の中の砂時計         横田恵美子
三寒四温古書店の自動ドア        佐藤千枝子
骨壺に萌黄の絵付北颪          齋藤 重明

 

【白灯対談の一部】

 浅き春絵柄ふくらむエコバッグ      金子 良子
 ここ数年の間に、すっかり私たちの生活に定着した〝エコバッグ〟。単にレジ袋の代わりだけでなく機能性やファッション性も加味され、便利な生活用品として常に持ち歩く。
 掲句はそんな身近な〝エコバッグ〟を俳句に詠み込んだ一句だ。日常の暮らしの中での小さな発見とそれをどう一句にするか、拵え方も大切だ。袋がふくらむと云う俳句は時々見かけるのだが、この句は〝絵柄ふくらむ〟とより具体的に詠んだのでどんな〝絵柄〟がふくらんだのだろうかと読み手の想像力が刺激されるのだ。
 一方、〝浅き春〟はまだ寒い中で二月の空や風が明るくきらめいて、あちこちに春の兆しを見つける時期である。人々の気分も少しずつ春めいてくる。だから〝浅き春〟と〝絵柄ふくらむ〟の取り合わせはとても楽しい春の気分だ。作者の今を描いた佳句だと思う。

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響焰2022年4月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202204

おおぜいで     山崎 聰

いっせいに柿色づきぬちちよははよ
とおい日のことも唐辛子ぶらさがる
いつからかにんげんあかく秋の虹
空青く木の柿あかく甲斐の谷
日の当るそこだけが冬峡の村
冬の陽がゆっくりのぼり彼はいま
もっと近くで見たいと思う冬の虹
座ったりしゃがんだりして冬の山
山は雪かかの村の人恙なきか
おおぜいで走り出すから雪が降る

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202204

ふんばって       米田 規子

YOASOBIの「夜に駆ける」を弾く余寒
あともう少しふんばって冬木の芽
バレンタインデー髪艶めいて少女たち
きさらぎのきらきら過ぎて青海原
本ノート鉛筆メガネ春遅々と
晴天にしんそこ独りきなこ餅
紅梅やよきこと一つ大切に
春寒の髪を束ねて稿さなか
消しゴムのまあるくなって日永かな
いろいろな赤の花束あたたかし

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2022年1月号より

ひそやかに瞳のなかの月明かり      森村 文子
昨日より今日やわらかく虫の闇      加藤千恵子
枯蟷螂本気の色になりにけり       中村 克子
正解に辿り着けたら台風圏        松村 五月
たおやかな博多人形いなびかり      河村 芳子
耳鳴りのたとえば弾け鳳仙花       大見 充子
柔らかい言葉の色に柿落葉        小川トシ子
彼岸花昭和の路地のいきどまり      石井 昭子
秋夕焼古書の匂いの裏通り        小林多恵子
十月や絵本のなかの赤い耳        北川 コト

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2022年1月号より

ひそやかに瞳のなかの月明かり      森村 文子
切株の夢の中なり小鳥来る        中村 克子
二十日月笑っているか幸せか       松村 五月
秋ひと日空へ向かって坂のぼる      波多野真代
柔らかい言葉の色に柿落葉        小川トシ子
ねこじゃらしひとりぼっちが集まって   秋山ひろ子
透きとおる青空金木犀の今日       楡井 正隆
彼岸花昭和の路地のいきどまり      石井 昭子
おろおろと褒められもせず暮の秋     小林 基子
降る雪にことりことりと母灯す      吉本のぶこ

【米田主宰の選】

<白灯対談より>

寒月をかじればクールミント味      横田恵美子
煤逃や本屋のだれも背を向けて      池宮 照子
雪降れりチャイコフスキーの大地から   牧野 良子
波間からそれぞれの今日初日の出     北尾 節子
向き合いてボックスシート旅始      鹿兒嶋俊之
今ここに在ることだけを寒椿       酒井 介山
探梅の川音に沿う真昼かな        佐藤千枝子
初詣いつもの店の鳩サブレ        金子 良子

 

【白灯対談の一部】

 寒月をかじればクールミント味      横田恵美子
 極寒の夜空に冴え冴えと輝く月は、人を遠ざけるかのように孤高の表情をしている。そして触れれば手が切れそうな鋭い光を放っている。そんな〝寒月〟を、作者はちょっと違った視点で捉えとてもユニークな一句に仕立て上げた。
 掲句は、月を齧るという非現実的な行為を俳句の中で軽々と詠ったのだ。句作りに自由という翼を手に入れたのだろうか。〝寒月をかじれば〟どんな味がした?と聞きたくなる。〝クールミント味〟と即座にステキな答えが返ってきた。空想の世界で遊んでいるような楽しい一句だ。今後も自由の翼を大いに広げて様々な俳句を作ってみよう。

響焰2022年3月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202203

さてあいつ     山崎 聰

踏むな踏むなよかまきりすこしうごく
東京は人住むところ罌粟の花
白木槿とつぜん咲いてさてあいつ
曼珠沙華とおいところに人ひとり
ローマは遠しロンドン遠し秋の虹
秋晴れならもっと遠くへ翔べるはず
すっきりと晴れたるあとの秋の風
ちちがいてははいて遠く山の柿
いっせいに木の葉が舞ってうからやから
神の国の入り口におり朴枯葉

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202203

梅ふふむ       米田 規子

まばゆくて夏柑金柑園児たち
ゆっくりと癒える途中の冬景色
シクラメン人払いして書斎めき
締切せまり凍空に昼の月
寒波くる東坡肉のほろほろと
一月やどすんと冥い日本海
枯木立光をまとい誰か来る
凍てはげし深紅ゆらゆら風の薔薇
大いなる躓きの先梅ふふむ
白い皿きゅっきゅと洗い春隣

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年12月号より

秋風とおもう路地裏まがるとき      栗原 節子
あきざくらだんだん澄んでゆく未来    森村 文子
夢の中人間ふえる彼岸かな        渡辺  澄
霧晴れてふいに晩年現れる        中村 克子
惑星の藍深みゆく水の秋         西  博子
秋の夕焼すり傷に似て痛し        大見 充子
あいまいに百日紅の最後の日       松村 五月
包帯をそろり解くよう秋が来る      波多野真代
秋ひと日水平線の声の中         楡井 正隆
やわらかなひと日の終わり桐一葉     大森 麗子

 

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年12月号より

熱帯夜鮫が群れ来る高速路        和田 浩一
感性をそよがせてゐる猫じやらし     石倉 夏生
木の家に木の音秋の深みゆく       栗原 節子
脚ばかり伸びて九月の少年よ       森村 文子
吾亦紅わが身ひとつの風の色       あざみ 精
やがてわが涙は星に菊月夜        大見 充子
二人なら秋の雨ほど饒舌に        松村 五月
蜩や転んでおきて模糊といて       河津 智子
秋風のほかはまとわず山頭火       石井 昭子
はつあきに少しおくれて今朝の雨     北川 コト

【米田主宰の選】

<白灯対談より>

子等の声響き渡りて豊の秋        北尾 節子
なみだ色の人波を抜け冬帽子       酒井 介山
メタセコイヤの光のぬくし冬館      長谷川レイ子
冬の暮恩師に一句わかれうた       黒川てる子
散る音のきのうと違い山の冬       牧野 良子
面会室手折りて渡す梅の花        北山 和雄
冬めくや風呂敷の耳つんとして      横田恵美子
息災か初雪まだかふるさとは       朝日 さき
落葉掃く小さき子の声加わりて      佐藤千枝子

 

 

【白灯対談の一部】

 子等の声響き渡りて豊の秋        北尾 節子
 約二年前からコロナ禍で鬱屈した日々が続き、学校も休校になって校庭から子ども達の声が消えてしまうと云う時期もあった。
 掲句はそんな気分を吹き飛ばすような、大変明るくて健康的な作品だ。また、朗朗と読み上げたくなるような俳句だとも思う。広々とした大地を子ども達が元気に遊び回る姿を想像することは大いなる喜びである。
〝子等の声響き渡りて〟と云うフレーズの〝響き渡りて〟に清々しさと子どものエネルギーを感じた。そして結句〝豊の秋〟には上五中七をしっかりと受け止めてくれる力がある。〝豊の秋〟で揺るぎない一句になったと思う。
 同時発表の<戦争と平和きのうのラフランス>にも共鳴。

 
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響焰2022年2月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202202

そうはいっても     山崎 聰

さくら散ってふと散骨を思いけり
そうはいってもさくらの花の下はひろい
勝ちは勝ち負けは負けなり遠桜
昼よるとさかなを食べてみどりの日
よもすがら哭いているなり青葉雨
新緑というには遠き山と川
もうすこし寝てていいからほととぎす
ゆっくりと音過ぎていき夏おわる
もうすこし待ってくれれば夏が来る
街はいま人人人の敗戦日

 

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202202

ポトフの湯気       米田 規子

ヨーグルトに蜂蜜冬日ほしいまま
花アロエするりと猫の細いしっぽ
朽ちやすき木の家なれど冬日燦
仏蘭西を語るポトフの湯気立てて
自愛か怠惰かそろそろ雪おんな
実万両ゆるりゆるりと癒えはじむ
海の向こう聖樹に集う三世代
生きるとはさわがしきこと大根煮る
ひとりふたり十人去りて山に雪
師走の灯訣別のごと髪切って

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年11月号より

ゆたかさに狎れてさみしい葉鶏頭     栗原 節子
波打際遠しさくら貝なお遠し       森村 文子
今生のあれも秋なりこれも秋       加藤千恵子
八月の空この坂の向こうにも       松村 五月
ポケットにかるい秘密も夏休み      小川トシ子
風紋の先は青空秋の声          楡井 正隆
真実のその先きっと青芒         小林マリ子
空蟬ひろうただそれだけの日曜日     中野 充子
日のなごり風のなごりの蟬のこえ     小林多恵子
関東をどす黒い風稲の花         廣川やよい

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年11月号より

行儀よく二列の卵敗戦忌         石倉 夏生
みな帰るから帰り八月の海        森村 文子
風鈴に声をあつめて真くらがり      渡辺  澄
炎昼の奥にヒロシマゆれている      中村 克子
いつの間にちいさな歩幅片陰り      河村 芳子
稲光家のすみずみまるく掃く       岩佐  久
八月の空この坂の向こうにも       松村 五月
列島の雨ざんざざざ秋立つ日       波多野真代
こころ青むまでかなかなしぐれかな    秋山ひろ子
思い出は暮色にまぎれ秋桜        石井 昭子

【蓮尾碩才朱焰集作家の選】

<白灯対談より>

大花野いつもの道が一直線        牧野 良子
点眼す窓に流るる鰯雲          原田 峰子
むかご飯なまり自在に転校生       佐藤千枝子
十三夜旅先からのラブレター       原  啓子
時鳥草雨雲ひくき峠道          金子 良子
こだましてあの夏山の向こうがわ     北尾 節子
秋の空しきりに動く馬の耳        横田恵美子
女子校のチャペルに朝日赤とんぼ     朝日 さき

 

【白灯対談の一部】

 大花野いつもの道が一直線        牧野 良子
 北海道の富良野や箱根の仙石原、阿蘇の草千里など、日本には草原が沢山あり、季節ごとに趣のある花が見られます。しかし花野と言えば俳句では、秋の草花が咲き乱れている草原をさす秋の季語となっています。
 春の生命力にあふれた華やかな風景に比べ、秋の野原には一抹の寂寥感が漂っているのではないでしょうか。そんな大きな花野を作者はいつも散歩しているのだろうか。いつもは草花で道がよく分からないのに、秋の今は枯草のせいか真っすぐな道になっていた。〝一直線〟と言い切ったところに〝花野〟の広さを改めて発見した思いが出ている句になりました。

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響焰2022年1月号より

【山崎名誉主宰の俳句】縦書きはこちら→ MeiyoShusai_Haiku_202201

こ れ か ら     山崎 聰

捕えたる蠅一匹のあと始末
さあこれからというときの朴の花
釣舟草神殿は近くにありて
人の世のおわりもすこし桐の花
村へ山へ街へ夏シャツ夏帽子
人生にもっとも遠く山の滝
ちちははの山川とおく彼岸花
海に流れて山上のひとつ星
出来ぬこといくつかふえて山の秋
草原をみんなであるく秋の暮

 

 

【米田主宰の俳句】縦書きはこちら→Shusai_Haiku_202201

冬  椿       米田 規子

ぼんやりと過ぎゆく一と日木の実降る
一病を得て南天の実の真っ赤
冬日向プラットホームの固い椅子
父の声ははのこえ聴き白山茶花
満月にうさぎを探す術後かな
病室の四人湘南の冬ぬくし
眠る山いのちひとつを持ち帰る
湧き上がる力いま欲し冬椿
短日のアールグレイと電子辞書
赤い靴棚にねむりてクリスマス

 

 

【山崎名誉主宰の選】

<火炎集>響焔2021年10月号より

月下美人生まれるまえのまくらやみ    森村 文子
人体の深きところに青葉木菟       中村 克子
沈黙の罠うつくしき蜘蛛の糸       西  博子
みんみんの青い日暮を待つように     大見 充子
望郷はうす紫に合歓の花         小川トシ子
生き方逝き方翻弄されて晩夏       河津 智子
ひまわりや今も戦後の風吹いて      石井 昭子
炎天や傾いている大東京         大森 麗子
死は易く生はヤブ蚊に悩みける      川口 史江
新しい風景に置く夏帽子         小林多恵子

【米田主宰の選】

<火炎集>響焔2021年10月号より

生国を一周したる夏帽子         渡辺  澄
東京をどこまでゆけば夏の海       加藤千恵子
戦前も戦後も同じ蠅叩          中村 克子
はは泣いてわれを叱りし実梅かな     西  博子
みんみんの青い日暮を待つように     大見 充子
縦書きの手紙のように夏の雨       松村 五月
ぼんやりと半分咲いて百日紅       波多野真代
またひとつ無くして帰る炎暑かな     和田 璋子
よき風の通る家なり水羊羹        相田 勝子
新しい風景に置く夏帽子         小林多恵子

【加藤千恵子光焰集作家の選】

<白灯対談より>

抱卵の鮎焼く頃かおらが村        齋藤 重明
三番まで歌う軍歌よ残る虫        島 多佳子
枯れたくて枯れたのではないすすき原   北尾 節子
生きられるはず百歳の柿すだれ      梅田 弘祠
紫をはおれば母を濃竜胆         佐藤千枝子
歳重ね見ゆるものあり吾亦紅       横田恵美子
吊橋を渡るも勇気紅葉狩         増澤由紀子
草の花杖を忘れて歩き出す        金子 良子

 

【白灯対談の一部】

 抱卵の鮎焼く頃かおらが村        齋藤 重明
 生きものには、親が卵を抱えて温めることで一つの尊いいのちを形成できる慈しみ深い姿がある。
 抱卵という言葉には何ものにもかえがたい情を感じる。
 〝鮎焼く頃〟と断定せず、〝か〟と詩情のある表現にとどめ、読み手は引き込まれていく。
 抱卵の鮎は、単なる鮎ではないことに気持が揺らぐ。生活感のある〝おらが村〟が効果的である。
 作者のむかし見たものが今もキラキラしている佳句である。

(さらに…)